黒鷲の旅団
26日目(2)コッコとカビカビ
「コッコ……コッコ〜……」
ん、どうした。
コッコ、調子悪いのか。
明け方、俺の部屋にラケル。
ニワトリを抱えて現れた。
ただ見せに来たにしては表情が暗い。
医療、診察……
ん? 何だ? 診察結果。
麦角、アルカロイド、中毒。
俺は知らない単語だったが。
何か中毒症の様だ。
悪い物質を薄めるか取り除く。
あとは治癒とかで良いか?
解毒、浄化、中和、治癒魔法。
分解魔法を生体に向けるのは怖い。
浄血魔法はニワトリにも効くかな。
菌類なら抗生物質。
抗生魔法に効果があれば。
幾つか処置を試してみていると。
ふとニワトリが頭を上げた。
元気になったかな? 首を縦に振る。
頷いている訳ではないだろうけれども。
診察スキル。結果は一応処置済み、と。
「コッコ! コッコ〜!」
ラケル、ニワトリに頬をすりすり。
ああ、うん、ありがとう。
よく知らせてくれた。
「ぱぁー!」
ラケル、俺にもすりすり。
はいはい、分かった分かった。
分かったから。
よしよしよしよし。撫でこ撫でこ。
他のコッコ達も見てみような。
鶏舎に移動。
他のニワトリ達も診察する。
発症していないが予兆があった。
各種魔法で処置。
それと、感染源はどこだ。特定したい。
麦角。麦。
麦というのだから、エサだろうか。
ニワトリ達のエサ箱を見る。
麦類を砕いて粉にした様な飼料。
僅かに黒い物が混じっている。
鑑定。麦角……これだな。うん……
ラケル、エサの用意は誰が。
自分が、と指さして。
うん、そうだけど。誰から貰ってる?
ぱたたと走り出すので後を追う。
「あーう。ご主人、今日は早いなー」
畑の中にアンゼさん。今日は。
時々遅くてスイマセン。
「まぁー」
ラケルはアンゼさんに飛びついて。
まー? とは?
ラケル的にはアンゼさんがママなのか?
ニワトリの世話役。
養鶏団の団長ラケルから見て。
花人だが畑周りに出て来る大人。
親しみ易いのかも知れない。
伯爵とかも畑に顔を出す方だし。
「あっ、あーうっ」
一度、膝の辺りを曲げる。
気合を入れた風な声。
ラケルを抱き上げるアンゼさん。
ラケル、幼児退行しているが。
身体的には10代前半。
抱っこには少々重い。重いけど。
それでも応えようとする。
嫌ではないのだろう。
それで、普段はアンゼさん。
ニワトリの餌を提供している?
畑で麦を……育てていないな。
周囲にはトマトやトウモロコシ。
あと、大豆や芋類。
甘藷や馬鈴薯が目立つ。
「麦は道具屋さんなー。
コッコさん好きだ聞いた。買てるー」
アンゼさんの魔法のマネーカード。
魔物の討伐報酬か。
花人達はどうしているかと思ったら。
俺の手が足りない所に使ってくれていた。
道具屋さん、は、ドリスさんか。
作物を買い取りに来てくれている。
後でこちらから出向いてみるかな。
預かってくれた子達の話も聞きたい。
あと、入れ違いになるとマズイので。
麦類の購入を一旦ストップ。
この黒いのがちょっとヤバイらしい。
ドリスさんには俺から説明に行く。
麦角の粉をアンゼさんに見せる。
彼女は同意してくれた。
「あーう、カビカビだたかー」
「かびかびー?」
「黒いカビカビ。
ラケルも食べちゃダメなー」
「あーい」
アンゼさんはラケルを抱っこ。
抱っこしたまま畑へ。
他の作物を見に行く様だ。
後で合流しよう。
俺は予定の確認を……
と思ったが。6時前。
通信した所でまだ寝ているかな。
急いでどうなる案件でもないか?
近場の懸念から。
昨晩引き取った少女は……別館。
夜間に何かあるといけない。
念の為、吸血鬼達に預けていた。
よく眠っている?
鎮痛・鎮静魔法だけ掛け直しておく。
後でウェルベックの所へ。
義足の手配をしたい。
「はよー」
「早いねー」
屋敷に戻る途中。
カーチャとフェドラの姿。
時々遅くて以下略。
相変わらず孤児院出身の子は朝が早い。
ああ、そうだ。孤児。孤児院。
北区や南区の孤児院。
一度顔を出しておきたい。
グンターやジョゼフィン達を預かっている。
心配を掛けているかも知れない。
あるいは、何か支援が必要かも。
朝が早い。先に行ってみようか。
いや、着のままで出て来てしまっていた。。
外套が無いと少し寒いか。
一度部屋に戻る。
部屋に戻ると、カリマとマイナさん。
俺が居ないのを探していたか。
キョロキョロしていた。
両手を広げて駆け寄って来るカリマ。
何だ、心配したのか?
抱き留めて撫でつける。
よーしよしよしよし。
居なくなったりしないから。
顔を上げると。
マイナさんも両手を広げていて。
……えっ、マイナさんも?
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