黒鷲の旅団
26日目(3)急がないでマイナさん
「あ、ああ……すいません……」
いや、謝らなくて良いけれども。
むしろ、その、大丈夫なのか。
カリマに続いて寄って来たマイナさん。
しかし、こちらから触れた途端。
膝から崩れ落ちてしまった。
マイナさん曰く。
早くトラウマを克服したい様で。
あと、やっぱり汚いと思われてないか?
気を使って距離を置いていたが。
かえって心配させてしまったか。
そんな事は無いよ。マイナさんは……
と、頬に指が触れた。
触れただけでビクッと震える。
まだ無理じゃないかな。
ショック療法では危険も伴う。
そんな焦らないで。
段々に慣らして行こう。
「はい、でも。
男の子達も寂しい子が多くて。
抱きしめてあげたいんです。
でも私、男って意識すると、
私、もうダメで……」
あくまで子供達の為に、のマイナさん。
俺なんか練習台にしてくれて良いけど。
ホント、焦らないでな。
男の子達のケア。
これは魔女さん方にも相談してみよう。
何人かずつ同伴してくれる。
そんな中で、少し構って貰うとか。
勿論、子供達も大事だが。
マイナさんも大事。急がずに。
と、言い包めて食堂へ。
2人に朝食へ先行して貰って。
どうしたモンかなと思っていると。
曲がり角からアンヌ。
顔が何かニヨニヨしている。
話を聞いていたのか。
この際だと思って意見を聞こう。
マイナさんの心のケアについて。
何か良い方策はあるかな。
「そりゃあ、愛のあるアレよ。
見せつけてやるとか。
マイナも混ざりたーいって思うかも」
ほぼショック療法じゃんよ。他に。
「ぶふっ! じゃあ、そうね。
復讐でも遂げさせてみる?」
復讐。復讐なー……
マイナさんに暴行を働いた兵士達。
あるいは兵隊崩れ。
村の場所に、勢力の位置関係。
恐らくシュテルン公国軍だ。
リュドミラにも話してある。
気にしてくれた。探してみると。
名乗り出るとも思えないが。
処罰される、ともなれば。
多少は気が晴れるだろうか。
あるいは前村長に差し向けられた客。
全容が分からん。
記録は残っているのだろうか。
逃げた前村長が帳簿でもつけているか。
どうかな。そもそも、あいつどこ行った。
当時、居合わせたバロンさん。
彼の口ぶりでは、神人も複数。
神人。探して処断した所で生き返る。
最終的には放置するしかない。
しかし、そいつらとどこかで出くわして。
話を蒸し返されても嫌だな。
マイナさんが不快な思いをする。
「お兄の女って事にしたら?
男は遠ざけられないかしら」
それには俺が実力不足だ。
まだレベル2桁。
上から変な気を起されると対処が難しい。
「じゃあ、ジュス姉の女になって貰って。
ジュス姉に男が居ないでしょ。
それこそガチレ」
「うおぉい! 誰が何だってー!?」
アンヌのふざけ口調に、外から叫び声。
ジュス姉さんは畑の方か。
アンゼさんとラケルを構っていた様だが。
魔人の聴力だ。
屋敷の中の話声も聞こえるらしい。
「あら、そうでもないわよ?
よっぽど聞き耳立ててないと。
お姉、ヤラシイんだっ。
えっちー。お姉のえっちー。
それともジュス姉ってば。
そんなにお兄の事が」
「ちょ、ちょ、ちょおー!
こらぁー! わあー!」
窓の外、姉さん。
叫びながら走って来る。
あんまりからかわないでやんなさい。
「はあーい。くすくすくす♪」
アンヌは悪戯っぽく笑うと、小走り。
食堂の方へ駆けて行った。
次いで食堂はマリナから通信が来た。
俺が起きているのを聞いたのか。
朝食の支度はもう始めている様子。
外出はメシ食ってからの方が良いか。
こちらから通信。
魔女マーシーとマレーン。
療養中の元戦乙女達は顔を出せそう?
無理か。食事だけ運んでやって欲しい。
ロジェ達、野営組は。
もう支度を始めているか。
持たせた食糧で調理する練習。
骸骨騎士団もアドバイスするが。
アンデッドに味見は出来ない。
困ったら村で協力を求めても良い。
狩人レイニさんにも話はしてある。
グンターやジョゼフィン。
孤児院に帰還したチーム。
俺も出迎えがてら、各孤児院に……
と思ったら。
もうみんな東区の酒場に集合している?
ああ、いや。
無理に戻らせる必要は無いだろう。
出向く機会を変えれば済む話だ。
女将のゴハンんまい?
それは良かった。
しかし、段取りが間に合っていない。
もう何人か、こう、コマンダーが。
指示出し出来る人間が欲しい所だが。
あとは、通りかかったシュトルメータ。
伯爵の所に預けてある子。
朝食に連れて来られるかな。
無理そうなら誰かに頼んで……
「お任せ、わんっ」
シュトルは直立して、敬礼。
そしてまた四つん這いで走って行く。
……今、お任せって言ったよな。
あいつも何かしら変化しつつあるのか?
まあ、シュトルに関して。
現状、調べても分からん。
まずは朝食だ。
子供達と今日の方針を話し合おう。
マイナさんの仇討ち。
これも視野に入れつつ、かな。
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