黒鷲の旅団
26日目（５）根回しと綻び

「なるほどね。
　ま、期待しといて下さいな。
　お得意様って程でもないが。
　こっちも面識はある。
　ガキンチョの１人や２人。
　早晩、引き取って来ますぜ」

　何だか張り切らせてしまったか。
　そこまで気を利かせなくて良いんだ。
　まずは伝言だけお願いします。
　反応を知りたい。

　ストリートチルドレンの元締め。
　盗賊ギルド、的な組織。
　その支配からロジェ達を開放したい。

　しかし、直接出向くのは避ける。
　後ろ暗い生業をしている連中だ。
　顔を見られたからには云々と。
　要らぬリスクも出るだろう。

　俺が接触したのは闇商人。
　ブラックマーケットのダルテリオ氏。
　トゥーリカを売っていた人物だが。
　蛇の道は蛇、裏社会は裏社会の人間だ。
　盗賊ギルドに伝手があるらしい。
　頼らせて貰う。

　お願いしたのは伝言。
　子供達を引き取りたい。
　組織の下部に居るのは分かっている。

　タダとは言わん。
　奴隷商人よりマシな額を出す。
　可能なら全部だが。
　せめて働けない子だけでも保護したい。

　以上を伝えるだけ伝えて貰って。
　まずは反応を待つ。
　ダルテリオ経由か、直接の手下か。
　何か返して来るだろう。

　何通りかケースは想定して。
　それにどう返すかも。
　まあ、まずは出方を伺おう。
　話はそれからだ。

　清濁……大分、濁っている気がするが。
　検挙だとかって詰め掛けるのは無し。
　いつかの二の舞になる。

　子供達が人質に使われて。
　あるいは見せしめに……
　そういう目的もあって囲われるんだ。
　刺激しない様に気を使いつつ。
　どうにか交渉へ持ち込みたい。

　さて。勿論。
　引き取って終わりではない。
　怪我も治すし。
　生きる術を身に着けさせる必要もある。

　そう上手く行くか。
　行かなかったとして。
　一時的にでも預かる。
　預かってくれる施設があれば命が延びる。
　各孤児院とも繋ぎを作るべきだろう。

「彼らが危険に身を晒している。
　それを思うと、正直複雑です。
　ただ、随分と助かっている。
　これも確かでして……」

　北区の孤児院を訪ねた。
　グンター達の住居。
　出迎えたのはフォード神父。
　シスター・セルマ。

　子供達は心配だが。

　その仕送りには助かっている、と。
　支援金も潤沢とは言い難い様だ。

　話を持ち掛ける。
　食料面を支援する代わり。
　職業技術面を頼れないだろうか。

　教会付き孤児院の伝手だ。
　指導出来る人材を探したい。
　戦う以外で食って行ける様に。
　それに越した事は無い。

　戦えるだけじゃダメだ。
　戦争だってずっと続くと限らない。
　魔物は魔物で冒険者と取り合いになる。

「分かりました。
　当たってみましょう。
　すぐにとは行かないかも知れませんが」

　フォード神父、お願いします。
　見つかったら伝言を。
　グンター達からでも。
　魔女協会、では難しいかな。

　何だったら城の衛兵。
　騎士の誰かに伝えてくれても。
　公主様とは支援関係にある。
　時々やり取りもある。

「あれ、用事終わったー？」

　次は南区の孤児院へ、という所。
　ジュス姉さん、新顔の子供達と遭遇。

　俺の方はまだ。
　そっちは支度が終わったかな。
　これからどこへ。弓士連盟だという。
　ドリスさんお店の在庫が切れた？
　矢束が足りないらしい。

　見れば亜人・半亜人らしい子が少し。
　また受け入れも考えなきゃならんか。
　被差別に晒される子達だ。
　食い扶持と別に力が要る。
　差別自体を無くせたら一番良いが。

　朝食は済ませたんだな。
　痩せ細った子供達。
　あまり食えていなかったのだろう。
　美味かったーと男の子。
　幸せ―と女の子。
　名前や何かは後でまた聞く。
　先に行っていておくれ。

　近くへ来たので、ついで。
　給仕のクリスドゥラを訪ねる。
　術後の経過は大丈夫か。
　給仕は失職、針子に転職していた。
　しかし、元気そう。良かった。

　北区から東寄りに南へ。
　中央区、貴族街。
　ルアンヌお嬢様の容体は変わりなく。
　ただ、お嬢様の顔を見る事は出来た。
　何か辛かったら、頼って。
　俺でも魔女達でも呼んでください。

　あとは南区の孤児院と。
　そうだ、神聖教会も気になる。
　捕虜の尋問とかどうなっただろう。
　冒険者ギルドは、今度で良いか。
　道具屋にも寄らないとだ。
　麦角の件で相談を。

　そう考えていた折、悲鳴。叫び声。
　俺にはよく聞き取れなかったが、何だ。
　ジュス姉さん曰く、殺しだって、と。

　探知、空間、解析……まだ助かるか？

　探知にそれらしい反応が引っ掛かった。
　ＨＰ減。しかしゼロじゃない。
　座標、脳内マップは中央区。
　通りに面した建物、の、裏側。

　ジュス姉さんと子供達は避難を。
　俺は単身、現場に駆け付ける。

　人だかり。犯人らしい姿は無い。
　逃げた後か。

　それと、血まみれで倒れている男。
　ああ、見た顔だな。
　オズワルドだったか、宿屋の主人。
　ユッタ達を虐めていた子供の親だ。

　気に食わんと言えば気に食わんが……
　来ておいて見捨てるのも難だ。
　助けようか。止血、造血、治癒魔法。

　治療費なんか要らん……
　いや、相場相当は取った方が良いか？
　それより、事情を聴かせて貰おう。