黒鷲の旅団
26日目(6)それぞれに痛みを抱えて
「うるせぇっ! どうせ!
どうせ俺はもう終わってんだ!」
待て。落ち着け。話を……
ああ、くそ、速いな。追い付けん。
「すんません! 俺達で捕まえます!
俺がもっと上手く言っていたら!」
神人冒険者ブレイドレイド。
俺を追い越して行く。
俺も誘導が上手くなかったかも知れん。
何か出来る事があったら言ってくれ。
中央通りの宿屋の主人オズワルド。
彼を襲った通り魔はシーカー氏。
ブレイドレイド隊の冒険者だった。
リアル側でグリモ嬢らとオフ会に参加。
先の襲撃事件に巻き込まれ、消息不明。
死亡した可能性が浮上していた。
流石に俺もダイレクトには伝え難い。
それとなく確認する様に促して。
それが、この事態か。
もう少しケアを考えておくべきだったな。
「そうか……まったく、だから神人は。
いや、命の恩人のあんたは別だが。
最近は頭のおかしいのが増えてて困るよ」
宿屋に戻って、犯人逃走の状況を伝える。
被害者オズワルドの不満。
その言い草も分かるのだが。
聞く限り、事件の引き金となった言葉。
オズワルドが彼に向けた言葉。
神人さんは良いね、だ。
シーカーも意気消沈していた。
そこに苦労が無いみたいに言われて。
それで何して良いでもあるまいが。
しかしまあ、間が悪かった。
あいつも怒鳴るぐらいに留めておけば。
それも褒められた物ではないにせよ。
「もう、どうしたら良いんだろ……」
所在なさげなのは、残された2人。
魔女グリモと魔法剣士クランベリー。
シーカーと同じ境遇では、他にも。
仲間のフォルンは失踪したらしく。
キッシュも酒浸りで戦意喪失。
こっちは居場所が分かるだけマシだが。
これでシーカーも捕まったら。
長引く様だと、3人減。
パーティ編成も見直さなきゃならん。
腕があれば少数編成。
いけないワケでもないが。
これまで役割分担していた。
フォルンもシーカーも技巧職。
加えて、キッシュが僧侶。ヒーラー。
索敵と回復役がごっそり抜けている。
どこかのパーティと合流、かなあ。
あるいはクランが索敵とか。
グリモがヒール覚えるか。
まあ、事情が事情だ。
人格コピーがゲームの中で遊んでいて。
その間に本体が死亡。
少し休養を取ってはどうか。
方針を考えるのも良いかも知れない。
キッシュも持ち直すかも分からんし。
そういえば、そのキッシュは。
宿屋の自室か。
酒を持ち込んで飲んでいるという。
見に行くと、床に転がって寝ていた。
ベッドに運びつつ、状態を……おや。
泥酔、睡眠、中程度の鬱状態。
そこまでは見るまでも無いが。
診察スキルによると、中毒症状。
麦角アルカロイド中毒?
詳しく解析。
軽度の幻覚症状を起しているらしい。
麦角。麦。食生活絡み。
同じパーティだ。
同じ飯を食っていたらどうだろう。
シーカーが荒れた一因にも、コイツが?
被害妄想がちになっていたかも知れん。
入り込んで……広がっている?
逃げたシーカーはブレイドに任せつつ。
俺はドリスの道具屋に急ぐ。
うちのコッコのエサだ。
流通経路は彼女絡みだろう。
「ドリス姉さん……」
「分かってる。
分かってるんだけど……ああーもー」
ドリスの道具屋。
店内に居ないと思ったら裏手で声。
頭を抱えているドリス。
何かあったのか?
「ああ、黒鷲さん……これよ」
納品されたと思しき、小麦の袋。
中に少なからず黒い物が見える。
麦角が相当量、混入してしまっている。
「どれも、どこからのもこんな感じなの。
なるべく取り除いてるんだけど」
「今、街の食糧事情が良くないんです」
言葉を継ぐのは姪っ子?
レティスさんだと。
曰く、麦の、食料の価格が高騰している。
不作という程の不作ではないにせよ。
戦争の長期化。
農業人口自体が減少しつつある。
加えて難民の流入だ。食料が足りない。
良質な麦は独占される。
貴族や富裕層が買い上げる。
貧しい者には傷んでいる麦しか残らない。
取り扱う側、ドリス達も心が痛む。
危険性が分かっていて。
しかし安易に廃棄出来ない。
汚染小麦で凌いでいる貧民層も居るか。
食糧難を根本的に解決する必要がある。
本格的にテコ入れしなきゃならんな。
自宅側の農地も強化していく物として。
まずはトゥルチャの農村へ向かおうか。
農地拡張とか、増産の手立てを考えないと。
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