黒鷲の旅団
26日目(9)悪の経路

「やっぱり、おっちゃんだよなー」
「アンシンカンが違うよなー」

 グンターとリュシアン。
 嬉しそうに話している。
 俺の統率下に居たのが良かったと言う。
 隊分けしたが分散する暇も無かったな。

「ちぇー。ボクだってデキる女なのになー」
「そこで拗ねちゃうトコが、まだまだなのよ」
「何だよー、いい女ぶってさー」

 口を尖らせるジュス姉、宥めるアンヌ。
 もう、どっちがお姉さんなんだかな。
 子供達も、もう少し懐くと良いんだが。

 はいはい、姉さんも偉い偉い。
 俺は頼りにしてるから。
 そんな膨れないでおくれ。

 両頬を撫でていると何故かキス顔になって。
 そのジュス姉の口に指を突っ込むアンヌ。
 おい。何やってる。

「ぶっちゅぶっちゅ、はもふもふもふも」
「あははは! お姉、顔キモイわよ」

 アンヌの指を吸うジュス姉。おーい?
 これは絶対ふざけてるだろ。
 まあ、仲が良いのは良いんだけれども。

 街道の魔物の掃除を諦め、一旦村へ帰還。
 残念そうなのは新人。レヴァンとパトリス。
 どうした。お肉?
 ああ、回収するどころじゃなかったな。

 倒した魔物は放置せざるを得なかった。
 拾いに行くと次に囲まれそうだ。
 火矢を射掛けて処分する。
 まあ、キマイラには毒がある。
 オーガは食べたくも無し。
 食料としては不向き。

 新人達にもマネーカードは配ってある。
 討伐報酬が分配されたハズ、ではあるが。
 難民が流入、都市全体に食料が乏しい。
 金を出しても食料を買えない可能性がある。

 後で食える魔物も探してみよう。
 グリフィンやガルーダとか。
 農村で芋とか調達した方が良いかな。
 麦角の拡大状況は調査中。
 今、パンもちょっと怖い。

 芋かー、と残念そうな新人達だが。
 へへへ芋だって、とブラム少年。
 バート隊、小さい子の1人だが。
 お前ちゃんもフライドポテトは好きか?

 小さい子、疲れた子は集まって休憩。
 活力、鎮静魔法。
 治癒は必要なさそうかな。

 元気な子達は二手に分散した。
 村人から聞き取り調査。

 一方は畑の状況。
 麦畑などあれば麦角を見ていないか。
 もう一方は、流通の……

「親父さん、当たりだ!」

 早々にロジェ達が戻って来て。
 その当たりは悪い方の当たりだな。
 悪い予感が的中した。

 物証。ヴィダルとテレンシオ。
 布袋を引き摺って来る。

 村人にも話を聞いて来た。
 今朝通った荷馬車の落とし物らしい。
 気付いてすぐ呼び掛けたが。
 惜しむでもなく駆け抜けて行ったと。

 中身は主に小麦。小麦だが。
 麦角が少なからず付着している。
 まあ、分かっていて運んでいたのだろう。

 首都を中心とした難民の増加。
 必要とされているのは何より食糧だ。
 そして徐々に広がっている麦角菌被害。

 闇の気配の元。悪意と病魔。
 短期間で大量の、この村を通した流通。
 その正体がこれだ。汚染小麦。
 これの危険性を分かっていて。
 悪意を持って運んで行った奴が居る。

 安く買い付けて高く売り付けるつもりか。
 あるいは汚染被害を目的とした工作か。
 目的、犯人も何通りか浮かぶが。
 ともかく、この悪い流通を止めなければ。

 出所は。どこから来た。
 この村を通って首都に行く。
 ならば出元は東。黒海沿岸。

 領主代行キュリアに連絡。情勢は。
 魔王領から食料が流入していないか。

『当領も食糧難に対応している所です。
 各地の商家に呼び掛けて買い付けを。
 えっ、麦角ですか?
 検疫は……少しお待ちくださいね』

 暫くして、返答。
 貿易商から賄賂を受け取った奴が居る?
 雑な検疫で汚染食品を通してしまった。
 買う奴の方で気を付ければ、と。
 安易に考えていたらしい。

『情報提供、ありがとうございました。
 当領内の検疫を強化します。
 公主殿下にも報告しました。
 担当者は厳罰に処します。
 ただ、運搬ルートは陸路もあるみたいで』

 陸路だと?
 トルコ・ブルガリア方面から。
 出所は、やはり魔王領か。
 悪意を含んだ流通。
 そこに、魔王はどこまで絡んでいる。
 後を見越して国力を削ぐつもりか。
 魔王様とも話をしなきゃならん。

 通信……ペーター魔王様は応答無し。
 勘付いての応答拒否か?
 それとも単に忙しいのか。
 忙しいのだとして、こちらは急ぎだ。
 直接出向いてでも話を付けたい。
 ただ、どう面会を取り付けた物だか。

 あるいは……何しろ急ぎなのだ。
 現場から事情だけ聞いてしまおうか。
 幸いにして面識、通信先が幾らかある。
 差し止めに至れるかは分からんが。

 授業を終えたユッタ達と合流。
 先に昼食の支度を始めていてくれ。
 おじさん、ちょっと作業に入る。
 忙しくなるかも知れない。




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