黒鷲の旅団
26日目(12)構われたくて構って構って

「大丈夫だよ。もっと撃っていいよ」
「おっちゃん、レベル上げなよー」

 ユッタにイェンナ。
 ああ、はい、すいません。

 各兵科第1小隊の子供達。
 いよいよ俺とのレベル差が無くなって来た。
 今日はとうとう気を使われてしまった。
 遠慮したユッタは途中から武器の手入れに。
 フェドラなどはバフ役に回っている。

 俺が一番高く保つ……
 そんな必要は無いと思うんだがな。

 アンヌやジュス姉さんなど別格。
 とても追い付ける気がしないし。
 ヘルヴィやヘレヴィにも若干負けている。

 まあ、折角だ。
 少し稼がせて貰おう。

 村の東。午前とは別方向。
 馬車が来た方の街道へ。

 濃密な闇の気配ゆえ、だろうか。
 街道上には魔物がみっちりだ。
 数を減らせるまで前に出られない。
 暫く村の入り口に留まって射撃。
 複雑な指示は要らないな。
 皆やる事は分かるだろう。

 ただ、時間は惜しいか。
 急かされている訳ではないが。

 重機関銃ブローニングM2。
 擲弾銃ダネルMGL。
 対物火器はUSSR RPG-29ヴァンピール。

 高火力兵装に魔法付与。
 付与は爆薬魔法や粉砕魔法を付与。

 相手はオーガにキマイラなどだ。
 倒した所で食えない魔物が多い。
 再配置2セット目まで急ぎ掃除する。

「上がったー?」
「上がりましたっ?」

 カリマ、レーネ。
 レベル上がったよ。
 上がったから。大丈夫だから。
 そんな気を使わなくて良いから。

「弓はー? 弓は練習しないの?」
「魔法も鍛えた方がいくない?」

 カーチャ、アイリス。
 分かった。分かったから。

 子供達を鍛えているハズなんだが。
 俺の方が育成され始めとる。
 見渡せば、みんなニコニコ。
 茶化し気味に声を掛けたり。
 思いつかないが何か言おうとしたり。

 構いたい、というか。
 構われたいんだろうかな。
 レベルも上がってデキる様になって来て。
 何かと任せがちな各第1小隊。
 先輩チームの子供達。

 でも、子供は子供だ。
 もっと愛情を注いだって良いだろう。
 俺は俺で世話になっている。
 報いられる所は報いたい。

 言われるままに武器種を変える。
 魔法も変えよう。

 弓。コンポジットボウ。
 燃料・火災魔法付与、複数射。

 長弓。コンポジットロングボウ。
 燃料気化爆発魔法付与。

 弩。ゴーツフットクロスボウ。
 重陽子爆発魔法付与。

 重弩。ヘヴィクロスボウ。
 溶断魔法付与、と。

 一射、一発ごとに歓声が上がる。
 へいへい、分かった分かった。
 仰せのままに。
 お前ちゃん達も手伝っておくれよ?

 武器種を変えて。
 この方針は俺に合っているだろう。

 1つのスキルを短時間で鍛える。
 徐々に熟練度の伸びが鈍る。
 成長のクールタイムだろうかな。

 伸びが鈍る。鈍った所は休ませる。
 切り替えながら鍛えると成長が早い。
 しかし複数。その分だけ分散する。
 専門家には劣るのは明白だ。
 バランスを考えなきゃならん。

 もっとも、俺のスキル構成。
 同じジャンルで力比べをしない。
 神人としては既に出遅れている。

 追い掛けた所で追いつけない。
 強者が待っててくれる保証は無い。
 隙を探す。意表を突く。
 手札の多さこそが武器になる。
 どれもある程度は使い物になる様に。

 あとは、スキルポイントを使う。
 魂の研鑽による報奨、だったかな。
 依頼達成やら人助けで得たポイント。
 オデッサ避難誘導時に爆増した。
 今や1125まで増えている。

 ただ、このポイント。
 死亡時のペナルティにも消費される。
 裏を返せば、レベルダウンの代わり。

 縮退魔法など実質、自爆技だ。
 代替ポイントを一定量キープしたい。
 勿論、持っているだけでは宝の持ち腐れ。
 後で半分ぐらい振ってしまおうか。

「ん。おっちゃん、そろそろ行こー」

 ティルアから。
 そうだな、そろそろ行こうか。
 魔物の再配置・再出現が減って来た。
 馬で移動する分には囲まれまい。

 全員騎乗。移動準備。
 不調者は居ないか?

 解析。健康チェックと。
 ついでにレベルもチェック。

 現時点で俺、お陰様のレベル58。
 午前と合わせて4つ上がっている。
 子供達から、やったあの声。
 そんな注目されると照れ臭いんだが。

 ユッタはレベル54。
 イェンナ52、カリマ48。
 カーチャ47、ノイエ50。
 ルーシャ51。

 レーネ53、ペトリナ46。
 ティルア48、ツェンタ48。
 アイリス48、テルーザ50。

 マリナ52、フェドラ55。
 マルカ51、エメリナ50。
 フレヤ48、ジェマ47。

 ノイエ、ルーシャ、テルーザ。
 マルカにエメリナと。
 レベル50に到達した。
 猟兵にクラスチェンジ。

 午前のチームも後で詳細に見るとして。
 まずはこのチームで出る。
 鉱山町、次いで港町を目指す。

 進軍。速過ぎず、遅過ぎず。
 軽く流しながら魔物を順次撃破。
 みんな遅れない様に。
 陣形を崩さない様に。

 倒したキマイラ。
 手を伸ばし掛けたのはカーチャ。
 ノイエに何か言われて引っ込めたが。
 獲物を全部無視では勿体無いか?

 食えない魔物が多い。
 しかし素材は資金源でもある。
 食料不足で物価が高騰している。
 金は多い方が良い、と。

 魔法で村に送ろうぜとマルカ。
 フェドラがレイヴン婆さんと通信。
 任せて大丈夫か?
   仕事を作るのだと言う。


 仕事。ロジェ達にか。
 分け前を出して手伝わせる。
 それは良いな。
 技能訓練と、正当な賃金を出せる。

 手の届く範囲に限りで良い。
 獲物を転移魔法で村に転送。
 広く手を、翼を広げよう。鶴翼陣形。
 翼端は左にマルカ、フェドラ。
 右はレーネが目を光らせる。
 テルーザ、ツェンタが補助に入る。

 まず目指すのは鉱山町だ。
 もう魔物除けが施されているハズ。
 そこまで行って一息入れよう。



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