黒鷲の旅団
26日目(14)物乞い様とリンゴ屋さん

「く、くださいっ」

 あー、えー……
 何が欲しいって。

 鉱山町、入り口付近。
 俺達に駆け寄って来た3人。
 物乞いらしき子供。
 その1人がハンナデルタだった。

 魔人ハンナデルタ。
 魔王バティスタンの娘。
 魔王ペーターとは対立する陣営だった。

 侵攻遅延の責任を負わされた。
 見捨てられ、しかし離脱。
 その後は自軍に戻らなかったのか。
 移民希望者に混ざって暮らしていた様子。

 では、ハンナちゃんに質問です。
 お金と食べ物なら、どっちが欲しい。

「お、おかっ、あ、え……
 両方! 両方です!」

 相変わらず、したたかな娘だ。
 やっても良いが、まず食料かな。
 連れの子の腹が鳴ったのが聞こえた。

 すぐ出せてすぐ食えるのは果物か。
 自宅の収穫品にまだ在庫があるハズだ。
 転移魔法でリンゴを呼び出す。
 と、ハンナ、大口。もちゅり。
 俺の手まで口に入れられて……おい。

 手を引っ張り出す。
 と、ヨダレがデローン。
 そしてリンゴは丸ごと口の中か。

 頬をモギュモギュさせるハンナ。
 どういう顔面構造をしているんだ。
 意図的に顎でも外せるのか?

「もっちゅもっちゅ……ぶぇう?」

 食べながら答えなくていいです……

 洗浄魔法。と、転移。リンゴの追加。
 残りの子にもリンゴを渡す。
 真似して口に入れようとする。おーい。
 普通に食え。取ったりしないから。

 連れの子2人。
 アリョーナとレギーヤ。

 ハンナとはどういう関係か。
 盗賊に追われていた所を助けられた。
 以来、家来になったという。

「家来を養うのも主君の務めなのです。
 立派に思ってどんどん献上するのです。
 まだお腹とフトコロに余裕がありますー」

 両手を差し出して来るハンナデルタ。
 随分と尊大な物乞いが居た物だが。
 まあ、家来っても大事にしている。
 それならそれで良いか。

 リンゴを受け取り、家来に食べさせて。
 それを満足げな顔で眺めるハンナデルタ。
 何か代償が必要だったのだろう。
 家族も帰る場所も失っている。
 一見子供だからを差し引いても不憫。
 同情しなくもない。

 そうだ、主君らしい事を1つ。
 停戦協定を結んでおきたい。

 俺達『黒鷲団』。
 他方『ハンナデルタ独立遊撃隊(仮)』。
 停戦。期限は無期限。
 協定破棄まで先制攻撃は無し。

 あと、労働には対価を提供する。
 食うに困ってるのだろう。
 農村で収穫の手伝いでもしてくれ。
 悪さしない分には悪い様にはしない。

「おめかけさんになる気は無いですー」

 そんな勧誘しているのではないですー。

 どこからそういう発想が出るんだ。
 誰か兄弟からか。
 良い暮らしをさせてやるぜとか言ってた?
 その手の物言いは教育に良くないな。
 気に入った娘を攫う悪い貴族の様だ。

 振り返れば、フェドラやマリナ。
 手に手にリンゴを持って来て。
 自分であげたいのか?
 まあ、良いけど。

「く、食い物……!」
「俺達も……!」

 フラフラと近寄って来た男が2人。
 鉱夫のダルトンとホプキンス。
 フェドラ達が恐る恐る差し出して。
 鉱夫達は引っ手繰る様にそれを食べる。

 ぷう、と膨れるハンナ。
 まだあるから。

 鉱夫2人に聞く。
 やはりお困りは食料分野ですか。

 領主代行の手伝いで来たと告げる。
 食料の手配を掛け合ってみよう。
 受け入れ準備の為、町長と話がしたい。

「助かるぜ。すぐに呼んでくらぁ!」
「ありがとうよ、リンゴ屋さん!」

 駆けて行く鉱夫達……あれ?
 何かリンゴ屋にされてしまった。
 別にオレンジとかも出せたんだが。

「えー、べたべたするよー」
「酸っぱいのがあるじゃん」

 マルカとカーチャ。
 柑橘類は好きでないかね。

「あ、お、おいしいよっ」
「私は好きだよー」

 ユッタとフェドラ。
 何故かフォローされた?
 オレンジを売り込みたい訳じゃなくて。
 マルカもカーチャも動揺しないで。
 好みを俺に合わせなくたって良い。

 領主代行キュリアに通信。
 鉱山町の食糧不足について。
 把握はしていただろうかな。

 物資の手配は。手配していて。
 しかし港町で止まっているのか。

 俺が引率して来ようか。
 ポータルを経由すれば何とかなる。
 町長と話が付いたら迎えに行こう。

 各隊、移動準備。
 ポータル転移を使う。
 一足先に農村へ。

 獲物の解体作業は済んだだろうか。
 終わっていなければ手伝いを。
 その後は港町だ。海に行くよ、海。



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