黒鷲の旅団
26日目(18)シューティングスター
・シューター

「また光ってる」
「こわい」
「こあいー」

 固まって防御陣を敷いた子供達。
 先輩チームが外側を固めている中。
 内側、年少者達。
 不安げに肩を寄せ合っている。

 遠く黒海洋上に黒雲が立ち込めていた。
 その中で、時折赤い閃光が走る。
 雷ではあるまい。禍々しい赤い光。

 魔王軍の戦い。
 ペーターではないらしい。
 公主経由、通信で確認を取った。
 交戦しているのは他方2つ。
 バティスタンとウルリカだ。

 ただ、ペーターも派兵。
 横槍を狙って動き出している。
 アンヌ達にも召集こそ来ないが。
 動向に付いて通達があった様子。

「あの、ブワってかピカって奴。
 また来るのかな」

 ティルアから。
 この間の粒子砲みたいな物の事か。
 交戦中に、直接戦っていない相手。
 わざわざ狙って来るとも思えんが。
 暴発や誤射も怖いな。
 一応、警戒はしておこう。

 先の停戦条約締結時。
 一応制限を提案したとも聞いた。
 以降、大量破壊兵器の使用を云々。
 そういう文言を盛り込んで。
 しかし、言ったから、それでどうか。
 素直に聞く連中かは分からん。

『今、暇?』

 通信。ヴィルヘルミーナから。
 暇ではないが、どうした。

『交戦中のバティスタン軍が何か打ち上げた。
 上げた後、主戦場に落ちて来ない。
 何だか分からない……知らない。
 けど、撃墜したい。協力を』

 ヴィルは今、ウルリカ軍に居る?
 ではなく、聞いた話か。
 現在地はカルパティア山脈、東。

 状況。バティスタン軍。
 何か、光の塊を空に打ち上げて。
 魔法的な弾道兵器か何かの可能性あり。

 どこへ向かったか不明。
 弾道を計算中。
 およそこちら岸に向かっている。
 計算に時間が掛かっている様子。
 後から撃墜準備しては間に合わないと。

 打ち上げ……上か。俺は空を見上げる。
 星が出るにはまだ早い時間だが。
 あるなあ。何か光っている物が1つ。
 遠すぎて探知も解析も届かないが。
 高高度に違いはあるまい。
 アレをどう撃墜するか。

 ヴィルの要求は観測情報。
 俺の位置座標。
 ここから見える光点の方位。
 これを自分のそれと照らし合わせて演算。
 目標の方位を割り出そうという事だ。

 空間魔法。脳内マップ表示。
 解析魔法。位置座標を特定して。
 方位は。測量魔法。
 直上ではないな。少し北。
 狙いはペーター軍の方だろうか。
 念話魔法でリンク。
 俺の脳内情報を送信する。

 あと問題なのは……届くのか。
 と、返事を聞く前に。
 空に光が走った。複数。
 ヴィルの火線だろうが、連射だな。
 方位だけ合わせて高さは勘頼りか。
 それでも狙う点が線に。
 一次元減って経験も充分。

 少しして、轟音。光点が爆発した。
 空全体が明るくなる。
 四方八方に火の玉が散らばって。
 しかし、霞んでいる。
 下に落ちる前に燃え尽きるだろう。

「うわあ!?」
「何だ何だ?」
「星がピカってなった」
「星? 何で星?」
「こあいー!」

 子供達が浮足立っている。
 落ち着いて。怖い事は無い。
 怖い星をやっつけて貰ったんだ。

『着弾を確認。推定高度17万km。
 こちらのは燃料気化爆発魔法付与。
 射程は電磁加速魔法を多重展開した。
 やっぱり弾道兵器。あれだけの光。
 こちらの燃料気化だけじゃ説明付かない』

 と、ヴィルの通信が来て。
 覚えている子は安心したかな。
 仲間だよ、仲間。
 上手くやったんんだ。

 次弾警戒の為、ヴィルは待機する様子。
 後の観測はどうするか。
 ペーター軍にも通信した様だ。

 観測手の手は足りるだろう。
 他に何かあれば、と、上手いメシだと。
 そうだな。後で転移魔法で送ろう。

 俺達は撤収準備。
 ポータルを経由する。
 食料を農村から鉱山町に。

 あと、俺達も晩飯の支度をしよう。
 帰るよー、と振り返ると。
 イェンナが銃を空に向けていて。

「星を撃つっ!
 ……あたしらに出来るかなあ」

「やるんだよ。
 お兄さんの弟子だもん」

 ユッタもか。
 ヴィルと同じ事をやる気になっている。

 メキメキと腕を上げている。
 皆、いつか出来る様に。
 いや、いつかじゃダメか。
 戦火は子供達の成長を待ってくれない。

 俺が教えてやらないと、だな。
 複雑な物理・気象演算は無理だとして。
 移動目標に対してズラして当てる。
 それぐらいの技術なら。

 凶星など撃ち落とす。
 槍が降ろうが星が降ろうが。
 子供達の手に未来を。



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