黒鷲の旅団
26日目(20)先行き不安、美人ぐでぐで

「おおおぉー……どうよ。当たった?」
「見えとる見えとる。スゲェー」

 夕食後。自宅、屋敷の前にて。
 上を見上げたヘリヤとシャンタル。
 新魔法の評価は上々の様だ。

 ヘリヤは弓矢を魔法で撃墜。
 シャンタルは魔法で観測している。

 新魔法1つ目。
 熱閃、加速、電磁加速、追跡魔法から。
 誘導光弾魔法。
 マジックミサイル・ホーミング。
 速度や追尾性能がある。
 程度は魔力と熟練度次第だと思う。

 2つ目。
 錬成、遠見、測量、浮遊と。
 探知、濃縮魔法。
 観測手段。望遠魔法テレスコープ。
 自分の前に魔法の拡大画面を作り出す。

 遠見魔法単体では視点を遠くに飛ばす。
 実力に見合う範囲しか確認出来ない。
 この望遠魔法もレンズ毎に限度はあるが。
 レンズ自体を複数作れば代替出来る。

 3つ目。攻撃手段をもう1つ。
 空間、招雲、濃縮、指向性爆発、雷。
 遠雷魔法。
 サンダーストライク・ファラウェイ。
 指定座標に雷撃を発生させる。
 遠隔攻撃だ。座標指定が難しいが。
 途中で阻まれ難いのが強みになる。

 この辺の3つは、先の弾道兵器対策だ。
 火器が使えない時、探知し切れない時。
 見えたけど演算なんて出来ない時。
 代替手段は幾らあっても良い。

 最後の最後になったなら。
 そこは諦めて逃げちまうしかない。

 国民全部が転移魔法習得など非現実的。

 転移付与した矢弾で強制移動。
 帰還スクロールで強制脱出。
 そういった手段もあるにはあるが。
 集落総人口分、確保出来るかどうか。

 さりとて、見えてしまったら。
 見捨てるに忍びなし。
 街が人が焼かれる事態になって。
 指くわえて眺めてるってのも、なあ……

 ともあれ。ここでの3つ。
 加えて、夜間に作った2つ。
 疲労魔法、闇牢魔法。
 本日の特許申請は5件になる。

 申請……通りそう?

「うーい。
 大丈夫ですとよ。誘導光弾。
 魔力の弾丸だけなら既出だったけど?
 追跡性に寄ったのが独自とかって。
 望遠も、既出と違うアプローチだって」

 シャンタルから。
 違うアプローチと……他には何が?
 遠見の他に、鷹の目の魔法?
 そういうのがあるらしい。
 俯瞰視点に特化した広域監視魔法。
 俯瞰。上方からの視点になるのか。

 それはそれで興味があるが……どこの。
 錬金術師協会か。折を見て訪ねてみよう。
 男子の魔法授業も請け負ってくれている。
 縁が無いでもない。

 さて、魔法特許、伝承料の方。
 S級は温泉と再生魔法で8件。
 A級65件、B級87件、C級36件と。
 売り上げ総額は2590万。

 この資金を元手に……どうするか。
 食糧問題へのテコ入れも気になる。
 一先ず国に任せておいても良いものか。

 外縁チームの宿舎も建ててやりたいが。
 建材や資金の問題と別に、立地。
 どこに建てるのか。

 あと、外縁、と言えば。カシューさん。
 城に預けた子供達はどうしただろう。
 イーディス公主も特に言及していなかった。
 通信……忙しいのか繋がらない。

 夕食後。午後8時前といった所。
 面会は無理だとして。
 様子ぐらい聞けないだろうか。

 と、ヘリヤ、シャンタル。
 そろそろ引き上げるという。

 俺も一緒に出る事にする。
 散歩がてら話を聞いて来よう。

 フレスさんは……無理か。寝てる。
 振り返って玄関口。
 ロビーの来客用ソファーの上。
 幸せそうな顔で寝息を立てていた。

 原因は、うちのお酒。
 ヴァンパイア酒造の産物。

 伯爵が持って来てくれた。
 試作1号が出来たのでと。
 フレスさん、試飲。ぱたり。
 そしてシィーン……おい。

 知らずに勧めてしまった伯爵達。
 狼狽えさせてしまったが。
 一緒に飲んだシャンタル達曰く。
 そう強い酒でもない。
 落ち度と思わなくて良いだろう。
 飲んだ本人も幸せそうだし。

「フレスたん、おちゃけ弱くてゴメンねー。
 適当置いてくから。
 もう適当に食っちゃえば?」

 シャンタルたん、無茶苦茶言う。
 フレスさんは食っちゃえません。

「えー。だって。
 めくったらスゲェ勝負下着」

 何を確かめとるんだ、お前ちゃんは。

「ふへへへ……
 いだだきましゅ〜……」

 フレスさん、寝言。
 こっちはこっちでホント危機感が無いな。

 考えてみれば、出張。
 トランシルヴァニア。
 公女殿下の相談役。
 気を張って疲れたのだろうか。

 安心出来る空間を提供する。
 それ自体は吝かではないが。
 もう少し自覚して欲しい。
 自分の魅力とか色香とか。

 全く意識しないでもないんだよ。
 子供達の手前、自制しているが。

 分かっててやってるのだろうか。
 だったら相当な魔性だが。
 だらしない寝顔。
 打算の欠片も見えない。

 侍女宿舎をシステム増築。
 フレスさんに一部屋貸す。
 どうせ後々、必要になる増築だろう。

 開いた部屋を適当に選ぶ。
 ベッドにフレスさんを放り込む。
 後の面倒はベラさん達に任せよう。

 子供達は順番で風呂か。
 疲れた子はもう寝たかな。

 一方で、元気な子も数人。
 食後の運動をする余裕もある様子。
 別館の裏手。レーネとヘルヴィ。
 軽く手合わせをしている。

 少し出て来ると声を掛けて行く。
 怪訝な顔をされ、大丈夫。すぐ戻るよ。


 すぐ戻る……と。
 この時は、そう思っていたのだが。



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