黒鷲の旅団
26日目(22)狂信の咎

「ランスロットが言うにはな。
 何か当たりを引いたとか。
 神人でもあいつは何か特別なのかな」

 事件現場へと向かう途中。
 神殿騎士デフロットから。

 神人、異世界人シャパリュー。
 異世界人、に違いは無いが。
 何か強力なスキルを持っているらしい。
 強力だが、代償がついて回る。
 それがスキル『神罰代行』だと。

 神に仇成す者共に絶対無比の攻撃力。
 代わりに、神の使途として。
 その行動を制限される、と。

 制限……具体的には?

「探知魔法って知ってるだろ。
 敵が赤く見えるって奴。
 シャパリューの代償はソイツだ。
 神敵が全部自分の敵に見えるらしい」

 穏健派の魔族なんかには厄介だが。
 神聖教会側から見た場合は?
 結構な話じゃないのか。
 強くなって神の敵と戦うんだろう。

「それが、そう単純でもないんだ。
 力を使い過ぎると過敏になるのかな。
 ちょっとした気の迷いにも反応する」

「例えば、神様どうして助けてくれないの。
 そんな些細な呟きまで敵視して。
 想像してください。
 交戦状態でそうなったら。
 苦境の折、信じられなくなる味方。
 犯罪者と一緒に人質が斬られた事もある。
 苦戦する友軍が背後から斬られた事もある」

 デフロットに次いでアウローラ。

 ゼルフィカール達が恨んでいる。
 それもその辺りが原因かな。
 身内か仲間でも犠牲になったのだろう。

 ともあれ。
 過剰反応で人殺しをさせるスキル。
 神意だろうと人の法では犯罪になる。
 潜在的に信仰が薄いからと。
 だからって殺して良い訳が無い。
 勇者だろうと犯罪者。
 支持したのでは評判も悪いか。

「それもありますが。
 迷える者を救い導くのも教会の役目。
 研鑽の途上にある者でしょう。
 安易に殺されては困る。
 幼い少女が殺されるのを見てしまった。
 私には彼女を支持する事は出来ない」

 シャパリュー自身は?
 使うのを止めないか。

「引っ込みが付かなくなってんのかもなー。
 魔王に挑んで3回返り討ちに遭ったとか。
 何故だ勝てない。レベル上げだ。
 殺して良い相手をスキルに探させて?」

 余計な犠牲を出しておいて。
 挙句、魔王を倒せない。
 バツが悪いのは想像がつくが。
 贖罪の為に罪を重ねたのでは話にならん。
 もう神罰代行というか厄災装置だな。

 審問官の爺さんが可愛く思えて来た。
 若干ツボったのか吹き出すデフロット。
 アウローラも頬を引き攣らせている。

 彼女らに続いて事件現場へ。
 ヒーラー組合の拠点、本部前。
 憲兵や組合員、神殿騎士の姿もある。
 座り込んでいるのは幹部のゴルドーニか。

 ゴルドーニが見逃されたのは何だろう。
 あれはあれで信仰心でもあったのか?

「大方、金づるとしての信奉でしょう。
 死んだ2人はゴルドーニを信奉して。
 それで、神を軽んじる様な……どうです」

「大将、当たりですぜ」

 先に来ていた憲兵からの情報。
 話によると……被害者2名の会話だが。
 神様よりゴルドーニ様だ何だのと。
 そこにシャパリューが反応した訳だ。

 対応として、野放しは出来ない。
 勇者様だろうと殺人犯は殺人犯だ。
 俺としても放置できない。協力しよう。

「お願いします。しかし、無理は不要。
 神人。ポータルも使えるでしょう。
 逃げられるのも致し方無し。
 我々は殺人を容認していない。
 それさえ示せれば良い。
 そちらのコミュニティにも注意喚起を。
 情報を流して頂ければ」

「俺らからじゃ魔女とかに伝え難いからな。
 間に入ってくれたら良いんだ。
 明日には手配書も出回るだろう。
 見回りの方は、見つけたら程度で良い」

 承知したが……
 マーフィーの法則よろしく。
 かえって見つけちまう気もする。

 遭遇時の対策として。
 シャパリューのスキルというか実力は?
 絶対無比とはどの程度の攻撃力か。

「対魔族特攻の防御無視を持ちますが。
 これは人間相手には効きません。
 スキルの戦力強化はレベル2倍程度。
 基本レベルは貴方より少し下ぐらいかと」

 何だか計算し難いな……
 俺も友好関係の称号バフなどあるが。
 子供達を置いて来ている今。
 それも、どれ程効果があるか。
 向こうの称号バフも分からんし。

 まあ、神人。異世界人。
 最悪死んでも生き返る身だ。
 見つけたら足止めぐらいはしてみよう。

 2人と別れ、さて、どこから回ろうか。
 通信、魔女協会。城の騎士団にもだが。
 憲兵隊からも報告が行くだろうか。

 そんな事を考えていて。
 俺ははたと足を止めた。

 これ、探す必要が?
 向こうから来て貰えば良いのでは?

 探知魔法。人通りが少ないのはどこだ。
 空間魔法。地形情報を把握。
 適当に開けた場所。
 人気の無い場所を探して足を運ぶ。

 浮浪者が数人いたが、巻き込むだろうか。
 銀貨を握らせて席を外させる。
 人払いをして、どこへともなく呟いてみた。


 神様のばーか。


 少しして、探知に敵反応。鮮やかな赤。
 群衆を突っ切り、猛然と迫って来る。

 来たな。こいつがシャパリューだ。



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