黒鷲の旅団
26日目(23)狂奔と引き際
「うらああああ!」
軽装の剣士風の女。
剣を抜いて突っ込んで来た。
長い銀髪。やや小柄。声は若いか。
状況、推察スキル、各種の探知情報。
こいつがシャパリューだと告げている。
往来で抜剣。冷静ではあるまい。
話す余地もなく飛び掛かって来る。
袈裟掛けの大振り。
次いで返しの切り払い。2連。
俺はサイドステップから後退で躱す。
反撃の拳銃抜き撃ち。が効かない。
弾かれているな。障壁か何か。
兜割りの一撃が来る。
片手剣・武器受け。
引き落として受け流す。
重い。落石でも擦り落とした様な手応え。
スキル効果か、腕力は向こうが上だ。
勢い余って前のめりになるシャパリュー。
俺の反撃は掌打。腹、顎。
握り返して顔を殴る。
「がふっ!? ぐっ、ぶ!」
効いている様な反応。
攻撃力に反して防御は甘いのか?
そのまま後背へ。締め落としに掛かるが。
腕を掴まれて投げ飛ばされた。
……高い?
浮遊魔法。姿勢制御しつつ反転。
俺が受け身を取って手を突く。
突いた先が建物3階の壁。
大した腕力だ。
アンヌに投げられた時ほどじゃないが。
アレと正面から打ち合いたくない。
反撃を試みる。
雷、衝撃波魔法。
効いていない。
地面に降りながら重力魔法投射。
同時、拳銃で2連射。
全て弾かれている。
障壁と反射の魔法じゃない。
同時展開している。
勇者の為の特殊装備か何かだろう。
魔法と飛び道具が効かない。
アレと正面から打ち合いたくないんだが。
不意にシャパリューが目の前に現れる。
縮地。縮地だが。
距離を詰めてから剣を振って来た。
サイドロールで回避。
後ろから飛び散るレンガ片。
振り返れば建物の壁。
衝撃波で2階まで割られている。
打ち合いたくない、んだが……
打ち合うしかないのか。
距離を詰められて、魔法も効かず。
「うおあ!?」
「何だ何だ!?」
幸い、建物を割られてか。
付近の住人が騒ぎ出している。
騒ぎが広がれば、憲兵らの耳にも届く。
とは言え、狂乱勇者。
並の憲兵で止められるかは甚だ疑問だ。
適当に強い奴が来るまで時間を稼がないと。
シャパリューさん、ちょっと話を。
「ふううあああああっ!」
聞かんかー。
追って来る。再びの縮地。
そのまま斬り抜けて来ない。
対応自体は可能だが。
剣筋が鋭く速く重い。
力では打ち負ける。
迫る追撃は袈裟掛け左右。
サイドステップとロールで回避。
続く払い・返しの2連に伏せ・後退。
突きを受け流しつつカウンター。肘打ち。
顔面に入った。お嬢さん、顔から来過ぎ。
シャパリューは後退しつつ……魔法か。
雷撃系の魔法が来る。耐電魔法で対応。
続く火炎系魔法を窒息魔法で鎮火。
速射発動でなし、隠蔽無し。
こちらは洞察スキル。
発動紋、紋様が判断材料になる。
色味で属性の察しは付く。
再び剣を掲げるシャパリュー。
魔法は不利と悟ったか。
錯乱状態なりに思考は機能している。
合わせて両手剣を振り上げる俺。
足運びは僅かに前へ。
打ち落とし狙いで振り下ろして来る。
のを引き落とす。
シャパリューは一歩引く。
引きながら逆風の太刀。
姿勢を戻しながらの牽制。
だが俺は踏み込まない。
俺、反転。剣を身体で隠す。
武器チェンジ。片手剣。
片手剣を背中越しに投げる。
相手の鼻先へ放る。
一瞬怯んだ。
刀と騎兵剣の二刀で斬り込む。
右断ち。左袈裟。右突き。
左払い。返し。右から断ち。
左袈裟交互4連。
右袈裟突き突き払い返し薙ぎ。
左払い袈裟右右左右。
手数を。とにかく手数。
力で押し合っても勝ち目が無い。
防戦。武器受けしつつ。
次第に焦れるシャパリュー。
力で優っている。
しかし対応せねば負傷する。
俺、息を切らしたフリ。一歩退く。
シャパリュー、大きく一呼吸。
溜めた一撃が来る。
俺から見て右下から左上への切り上げ。
俺は武器チェンジ。両手剣。パリィ。
右足を落として剣を肩越しへ。
切り上げに当てて擦り上げに掛かる。
嫌な音。両手剣の刀身に亀裂が走った。
ふざけた重さだ。相手は片手剣だぞ。
しかし軌道は変えた。潜った。
すかさず武器チェンジ。
刀。縮地・音速剣。
相手の左脇腹へ斬りつけながら前へ抜ける。
陣風剣とかいうスキルが派生している。
しているけれども習得は後だ。
反転。シャパリューは。
峰打ちだった。
殺して復活されてもキリがない。
まだ動く様なら相手をするが。
シャパリューは……
掛かって来ない。
「何故、スキルが効かない」
初めてマトモに喋ったな。
効かないとは、神罰代行の防御無視の事か?
俺が本当に神敵なら効いたかも知れんが。
あんたを呼び出す為に不遜な口を利いた。
本気で馬鹿にしてる訳じゃない。
「……騙された」
騙したのは俺か? それともスキルか。
そいつも過信しない方が良いと思うんだが。
事情はどうあれ、あんたは街中で殺人を……
と、言っている間にシャパリュー。
帰還スクロールで転移して行った。
逃がしたが、まあ良い。
倒し切れる相手でもなかった。
俺も足止めした名目だけで良しとする。
一旦帰ろう。
思ったより遅くなってしまった。
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