黒鷲の旅団
26日目(24)夜更かし甘やかし
「んごむー」
うおっ!?
屋敷に戻り、ドアを開けた矢先。
ユッタが頭から突っ込んで来た。
「おえにょむにょむにょむ……」
寝てる。寝ぼけている。
今、立ったまま寝てた?
俺を待っていた。
そのまま寝てしまったのか。
ユッタを抱き留めて。
見るとユッタの向こう。
ソファに横になっているマリナ。
カリマはフェドラの膝枕。
寝息を立てていて。
フェドラも座ったまま、うたた寝。
みんな疲れていたんだろう。
いたんだろうが、俺を待っていた。
何か話したい事でもあっただろうか。
うひょう!?
「へっへへへー」
「うひひひ。おっちゃん、お帰りー」
イェンナとティルア。
背後から脇腹を突いて来た。
ただいまだが、不意打ちヤメレ。
ユッタ落としちゃう。
「あー、ホントだ。ユッタ寝てる」
「ユッター。起きなよー、ユッター」
「にゃむにゃむにょむ……」
ああ、無理に起こさなくて良いんだ。
明日また話をしてみよう。
ユッタを横向きに抱き上げる。
と、イェンナ、ティルア。
マリナ達を抱えようとする。
無理して動かさなくて良いから。
俺がまた戻って来て順番に運ぼう。
それよりユッタの部屋へ。
先に行ってドア開けてくれ。
ユッタの顔色を見る。
少し熱っぽいかな。
診断。疲労状態。あと、満腹。
お腹いっぱいで眠くなったのか。
それなら何だか安心だが。
疲労の方はもう少し気遣ってやりたい。
ゆっくりする日を作っても良い。
それなりに蓄えはある。
何年学校に通わせるとかは無理でも。
数日休みを作って困らない程度には。
「あっ、ずる……
うぇっと、お帰りなさいませ」
イェンナ達と入れ替わりに、レーネ。
レーネも抱っこ希望か?
いえいえいえと手を振る。
まあ、抱っこはともかくとして。
少し話そうか。
レーネの話というか報告。
外縁チーム、ヴラスタから連絡あり。
設営は無事完了。
夕食を取った。不調者なし、と。
きちんと健康管理をしてくれている。
古参の衛生担当から学んでくれたかな。
黒海側の空は相変わらず光っている様子。
戦闘継続中。爆発か、魔法か何かの光。
小さい子が不安がっていると。
宿泊地はトランシルヴァニアに移すか。
いや、戦略的には急ぎでないと思うが。
避難所は複数個所に欲しい。
どこから先に戦火が及ぶとも限らない。
戦略。今、あの農村。
バティスタン軍から見てだが。
戦略的には価値が低い。
汚染小麦で農地に被害も出ている。
供給拠点としては不足だろう。
他方面で交戦中でもある。
優先すべき攻撃対象が他にある。
現状、農村は攻撃対象になり難い。
粒子砲を撃ち込まれる事は無いと思う。
が、末端が暴走したら。
頭のおかしい奴が指揮権を握ったら。
幾ら心配しても足りないな。
そういえば、レーネ。
ヘレヴィとの稽古はどうだった。
レーネ曰く、軽いけど速い、と。
率直な感想だな。
並の子に比べたら強いハズだが。
それでもレーネには及ばんか。
まあ、稽古相手として不足が無いなら良い。
仲良く出来てる? それは何より。
他の子達も近接戦闘の指導をしたい所だ。
大人を組み伏せろなんて言わないが。
受け身ぐらいは身に付けさせたい。
ああ、でも休養も取らせてやりたくて。
何から手を付けたモンだかな。
まず1回休ませてしまうのが良いだろうか。
ユッタの部屋へ。
ベッドに彼女を降ろす。
と、両手を広げるティルア。
次はロビーに戻る。
マリナ達を運ばなきゃならんのだが。
戻りがてら、お前ちゃんも?
抱っこして行けって事か?
「良いじゃん、頑張って待ってたんだし。
役得だよ役得〜。
あとマリナとカリマとフェド姉だろ。
あたしらも3人だし。平等、平等〜」
えー、じゃあ、何だ。
俺は行き帰り。
誰かしら抱っこしながら3往復?
「え、い、いや、あたしは」
「平等! 平等では仕方ないですね! ね!」
イェンナを遮ってレーネ。鼻息荒く。
やっぱり抱っこ希望だったんじゃないのか。
まあ、良いけどな。それぐらい。
そそくさと先に行くイェンナ。
あれも内心、嬉しかったりするだろうか。
以下、お喋りティルア、爆睡マリナ。
硬直気味のイェンナ、寝相が悪いカリマ。
むふむふ顔のレーネと。
起きたけど寝たふりフェドラ。
レーネを探しにペトリナまで出て来て。
はいはい、順番順番。
みんなお部屋に帰りなさい。
3往復運び終えて、自室に戻る。
少しスキルポイントを振りたい。
軍略スキル。
統率・行軍・戦術・策略・陣形。
兵科スキル。
歩兵・騎兵・弓兵・弩兵・銃士。
それから魔法兵・魔物兵もだ。
引率する子供達の戦力を底上げする。
それぞれに50ポイント。
スキルレベルを50上げる。
よく懐いて、言う事を聞いてくれる。
みんな良い子達だ。
守ってやらないと。危険を遠ざけないと。
損害なんか出したら俺も心が持たん。
今日を何とか無事に終えて。
明日も無事に終えたい……終えないと。
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