黒鷲の旅団
27日目(2)従者隊、賑やかに出動準備

「分かる! 凄い分かる!」
「ね! ですよね!」

 何やら意気投合している。
 ジュス姉さんとフレスさん。
 楽しそうで何よりだが。
 女子会に首を突っ込むのは止めておこう。

 俺は少し離れた所で聞こえないフリ。
 銃器の分解整備に集中する。

 自動小銃、突撃銃。
 少し部品が傷んでいる。

 傷んだ部品を外す。
 錬成魔法で同一素材を作る。

 錬成・複製・整復・記録・転写。
 派生は修繕魔法。
 同一素材・均等密度なら修復可能か?
 ネジだのフレームだの直せそう。

 ただ、鍛造品はちょっと無理かな。刀剣類。
 昨夜シャパリューと戦って傷んだ物が数点。
 金を落とす意味でも本職に頼もうか。
 ハミルトン爺さんの店に寄る事にする。

「んふふふー」

 気がつくとアンヌ。
 テーブルに両腕を横たえる。
 その上に頬を載せている。

 俺の作業を見るのは良いんだが。
 支度は済んだのか。
 遅い子が居る?
 隊が揃うのを待っているという。

「あと何かねー、ジュス姉とフレスが」

 振り返ると、フレスさん。
 慌てて両手を横に振る。
 ジュス姉さんは人差し指を口の前。しーっ。
 よく分からん。分からんが。
 何か言っちゃダメっぽいぞ?

「ぷーくすくすくす! はあーい」

 アンヌちゃんは余裕たっぷりだね……

「あ、来たよ!
 レーネちゃん来たよ!」

「いいなー」
「カッコイイ」
「大人っぽい」

 少し遅れて来たのはレーネとペトリナだが。
 レーネの後ろ髪がシニヨン編みだ。

 レーネ得意げ。隣のペトリナも得意げ。
 整えたのはペトリナちゃんか。
 髪結い、理容師の技能もあったかな。

「リヨーシ?」
「髪結いさん」
「お金取れるって」
「おおー」

 お金になると聞いてか感嘆の声。
 フェドラやノイエも。
 アンヌも覚えたいと言っている。
 戦闘以外に興味が広がるのは良い事だ。

 とは言え、安全確保や自己鍛錬も必要。
 準備が整ったら出発して貰おう。
 サンドラちゃん、何かあったら連絡を。
 アンヌちゃん、引率お願いします。

「よし、じゃあ、まずは厩舎に……
 ぶーっ! ぶふふふ! あははは!」

 急に膝を叩いて笑い出すアンヌ。
 何かと思い見ていると、上の方を指さして。
 気付いたイェンナやティルアが笑い出す。
 その視線を追って、俺も吹いた。
 何してんの、あんた達。

「へいへーい。
 おはようだぜーい」

「ふふーん、その様子だと。
 まだお清いですなフレスたんっ」

「ブフッ!?
 何でそんな所に!」

 屋敷の窓にヘリヤとシャンタル。
 蜘蛛みたいに四つん這いで張り付いている。

 朝帰っても来ないフレスさんだ。
 彼女を茶化しに来た様だが。
 そんなトコで見てないで。
 普通に入って来なさい。
 フレスさんも朝食は終わりました?

 フレス派からの人材派遣。第2中隊引率。
 これはシャンタルが名乗りを上げて、決定。

 フレスさんはまた出張。
 リュドミラ公女の所へ向かう。

 残ったヘリヤはフレス派の纏め役。
 留守番に。

 それと魔法特許の件。
 昨日は特許の申請結果が有耶無耶だった。
 先の申請分、機関と話したフレスさん。
 寝てしまっていて。
 フレスさん陳謝。
 いや、責める気は無いけれども。

 まずは一昨日申請した物から。
 招雲、降雨魔法、生活Cクラス。
 恵雨魔法、生活Aクラス。
 招嵐魔法、多目的Bクラス。

 次いで、昨日の申請から。
 疲労魔法、攻撃C。
 闇牢魔法、多目的C。
 誘導光弾魔法、攻撃B。
 望遠魔法、補助B。
 遠雷魔法、攻撃Aクラス。

 申請……っと。
 修繕魔法はもう存在するのか。
 売り上げの方も、昨晩貰ったばかり。
 今日の分はまた後でだな。

 引率魔女の決まった第2中隊も出発準備。
 トゥーリカちゃん、ジュス姉さん。
 シャンタルたんもお願いします。

 マイナさんと花人・魔物隊。
 トゥルチャ農村部へ。
 駐屯中のロジェ達、と。
 村のレイニさん達も集めて貰う。

 村から新駐屯地への避難。
 これは要るかは分からんが。
 黒海側は、今ちょっと怖いからな……
 手順だけでも確認したい。

 俺は首都の孤児院チームを集めに行く。
 鍛冶屋とかも寄りたいし。

 と、騎馬の支度も済んだのか。
 第1中隊の子供達が屋敷の前を通過していく。
 手を振って来るので、俺も見送って。

「おっ先にー。おっちゃんも気を付けてー」
「そこの欲求不満レディースとかに?」
「それだ!」
「ちょおー! こらあー!」
「ぎゃははは!」
「逃げろ逃げろー!」

 からかっているのはティルアとアンヌか。
 憤慨するジュス姉さん。
 2人は逃げる様に出発する。

 えー……フレスさん、こちらも出ますが。

「ふぇあっ!? はい、あっ、いえ!?
 ああああ違います違います大丈夫です!」

 フレスさん、声を掛けたら驚かれた。
 その大丈夫はどこに掛かるんだ。
 本当に欲求不満とか言われてもな。
 困るんだけれども。

 さて、本当に出よう。
 寄る所も多いし、確認事項も。
 全て順風満帆とも行くまいが。
 そこを何とかするのも人生だ。



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