黒鷲の旅団
27日目(3)想定の内外

「ああーんー……
 これは困りますわ〜」

 頭を抱えたカシューさん。
 まあ、困りますよね。

 確認の通信を投げた。
 案の定の返事があり。
 俺はブカレストの王城に向かった。

 カシューさんと再会。
 カシューさん、の前に。
 身なりの悪い子供が7人。
 戦争捕虜、奴隷孤児引き取り。
 今日の分だ。

 戦争が終わらないと人が死ぬ。
 孤児も延々と出る。

 しかも奴隷制が解決していない時世。
 奴隷商の手が回る。

 一度気にしてしまった。
 今更見捨てられない。
 この先ずっと受け入れ続けるのか。
 そう思うと不安になる。

 せめて、戦争。
 民間人の居ない所でしてくれたらな。

 民間人保護を優先して考えたなら。
 市街戦など愚策も愚策だ。

 市民を平気で襲う連中も酷いんだが。
 モラルを信用出来ない相手だぞ?
 その前に民間人を置いて平気なのか。
 下手を打っている感は否めない。

 矛は収められない。
 しかし市民は守りたい、とすれば。
 一度休戦して市民だけ逃がしてしまう。
 でなきゃ、とっとと終わらせる。
 終わらせられると良いんだが。

 戦力的に拮抗していれば早期決着は難しく。
 そもそもケンカしているのが魔王様方。
 民間人の命は重視されていない。

「わたくし、戦争を終わらせます。
 終わらせる方向で。
 何か出来ると思いますわ」

 カシューさん。
 それが一番手っ取り早いかも知れない。

 少なくともウルリカの方は理知的。
 ペーターも、損得が合致すれば耳は貸す。
 バティスタンがどう動くか分からんが。
 彼女なりの糸口があるなら期待したい。

 それはそれとして。
 孤児達の身代金支払い。

 奴隷商の姿は既に無かった。
 カシューさんが立て替えてくれた様子。
 五体満足なのが5名。欠損あり2名。
 足元価格54万、の更に倍値か。
 108万を支払う。

 お互いに労って、退出。
 城を出た所で通信が来た。

 第2中隊、アルメル。
 何かあった? 負傷者は。

『も、もう解決したんだけど……あのね』

 ブラショヴ西門を出た所で、強盗?
 掛かって来た大人が6人。
 馬を貸せと言っていた?
 自分達は勇者だと主張して。

 ジュス姉さん、ヘルヘレ、ジルケら。
 これに頑として反対。
 小競り合いから無力化した。
 憲兵に引き渡したと。

 憲兵は大丈夫だった?
 騎士ジャンナさんも来てくれたのか。
 公女殿下のお気に入りと説明してくれて。
 後は任せろと。それは良かった。

 それで、解決したが報告したアルメル。
 後で言えば良いよ、はジュス姉さんの言で。
 まあ、心配掛けまいと言うのも分かるが。
 それでもわざわざ通信して来たアルメル。
 言った方が良いんじゃない?と思ったのか。

 早く言ってくれた方が対策を考えられる。
 ありがとうね。
 公女には俺からも礼を言っておこう。
 引き続きヤンチャ者達のフォローを頼むよ。

 通信を切り……気になるのは勇者。

 勇者がブラショヴからどこ行こうってんだ。
 対魔王軍の最前線じゃないだろう。
 単に戦争関係無いダンジョン探索組か?
 それならそれで良いが。

 何か探りを入れておいた方が良いかな。
 憲兵も事情ぐらいは聞いてくれるだろうか。

 憲兵で思い出し、そうだ、
 バート隊のチビ達、誘拐事件の犯人。
 預けて、お裁きを待って……どうなったか。
 ブカレスト側の憲兵隊詰め所に寄る。
 話を聞かせて貰う。

「え、聞いてないか?」

 ん? あれ?

 憲兵隊長スタンホープ曰く。
 想定外の事実。

 ゴロツキ3人組。
 既に釈放されていた。
 しかも連れて行ったのがダニエル。
 あの悪徳冒険者ダニエルだと。

「あいつの評判は俺達も聞いているんだが。
 実家の爺さん、お貴族様を連れて来てな。
 話は通してあると言うし。
 その、逆らえなくて」

 隊長さんも貴族だったが、騎士爵。
 他方、ダニエルの祖父は伯爵。
 太刀打ち出来ないのも仕方ない。
 事実確認まで引き延ばせなかった。
 ここについては残念だがな。
 少なくとも俺には何も話が通っていない。

 幸い、奴隷紋。
 主人の同意が無いと解除出来ず。
 俺の命令が生きている。
 直接的な悪事は働けまい。
 ただ、間接的な片棒担ぎはやりかねないか。

 ダニエルが連中を引き取って。
 その目的は何だろう。
 その、片棒担ぎの人手に使うのか。
 あとは俺に対する嫌がらせぐらいか?
 奴隷紋が外せず。
 当てでも外れていると良いんだが。

 ゴロツキ連中、3人。名前何だっけ。
 ジェイラス、バレリオ、ロンバウト。

 俺個人は執着も無いけれども。
 何か邪魔しに出て来ても困る。
 公主に相談したいな。
 伯爵より上から手を回して貰おう。
 子供達にも気を付ける様に言わないと。

 憲兵隊の詰め所を出て通信。
 マイナさん、ロジェ達。
 レイニさんチームも集まった様子。

 先にポータル経由。
 ブラショヴ北門へ向かって下さい。
 俺は首都の孤児達を迎えに行く。
 通信で東区の酒場前に集まって貰っている。

 東区、酒場の前……おや。

 グンター達の他、トール少年。
 鳥型の魔物は卵から孵った様だ。

 あと、宮廷魔道士のニコラさん。
 と、え、バルビエ伯爵夫人?
 が、何、お供と馬車でついて来るって?

 視察だと言う。
 要は子供達の安全とか俺の素行調査?
 見られて困る物も無いとは思うのだが。
 今日一番の想定外……
 に、なるのかな、これは。



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