黒鷲の旅団
27日目(4)鷲と獅子と、それから竜と
「ひいいっ! 恐ろしい!
何て悍ましいのかしら!」
あ、これ、俺の素行以前の問題だ。
ポータルで転移して。
ブラショヴ北門から北西へ移動中。
ついて来ていたバルビエ伯爵夫人。
当初は俺を見張る様なつもりだったが。
しかし子供達の戦いぶりを見た途端。
拒絶反応を起こしてしまった。
子供達の狩猟。
食べられそうな小動物を仕留める。
得意げに獲物を掲げる彼らだが。
それ見て夫人は絶叫。
目を覆い、引っ繰り返り。
お付きの執事に助けられている。
忌避されてションボリ顔。
グンター、リュシアン。
良いんだよ。よく仕留めた。
昼飯の足しにしよう。
夫人は何を見に来たんだかな。
生きる為の技能訓練。
それ自体は必須項目だろう。
状況に急かされ過ぎている感も否めないが。
「おやおや、大丈夫ですかな、ご婦人」
「顔色が悪いですなあ。どこか悪い所が」
「ヒイェエエ! 近寄らないで!」
心配して、の体で骸骨騎士団。
ボリスさんとロドリグさんだが。
アレはわざとだろう。
バルビエ夫人の馬車に詰め寄る。
ビビらせている。
程々に頼むよ。
多少気に食わなくてもお貴族様だ。
何か支援を得られるかも分からん。
改めて、夫人はお付きの馬車に詰め込んで。
気を取り直してブラショヴから北へ。
戦場跡、闇の気配。魔物は多少強い。
とは言っても、深刻な程ではない。
日の高い内はアンデッドは出て来ないし。
ゴブリンに対してホブが少し多い程度かな。
コボルド、オーク、難度は大差無い。
あと気になるのはインプ。小型の悪魔。
低級なりに阻害魔法など使って来る
飛び回る殺人バチ。
毒がある。刺されたら速やかに解毒。
機敏な狼も、苦手な子は苦手。
移動目標相手に射撃戦。
練習には良いが。
防御・防毒魔法。
フォローは手厚くしないと。
リザードマンなどは少々硬いが。
子供達も成長している。
女子やチビっ子に魔法使いも増えて来た。
特にメリカだ。
以前、魔法の恩恵で一命を取り留めた。
強みを知っているからかな。
修練にも力を入れている様子。
雷撃を連発……
ペース配分だけは気を付けてくれよ?
適当に北上し、暫くして。
遠目に飛行型の魔獣。
撃墜されて落ちて行くのが見えた。
先にコドレアに行ったユッタ達だろう。
そろそろ西に折れたいな、という所だが。
丁度、俺達の前方。
騎馬の集団が来るのが見える。
10人ぐらいかな。探知。敵意は無さげ。
敵でないなら、恐らく国軍。
各自、邪魔にならない様に。
街道を出て草原の上へ。
適当に挨拶しつつ、やり過ごそう。
……と思って見ていたら、
「黒鷲さんじゃん」
「おっすー」「うーす」
前から来た騎馬集団。
先頭に居たのが黒獅子隊のハイルヴィヒ。
それからジョルジュとウーヴェだったか。
騎士爵、叙勲を済ませたんだったな。
式典に顔を出さなかった件。
ハイルヴィヒに少し咎められる。
ごめんごめん。忙しくて。
祝辞は送ったつもりだったが。
公女か、お付きの騎士とか。
何か言ってなかったか。
「ああー、それそれ。有難いお言葉」
「隊長とかちょっと涙目だったし」
「そうだよ。見に来りゃあ良かったのに」
そんな大した文言を送っただろうか。
普通に励ましたつもりだったのだが。
男爵位と小領地を得たヴァルター隊長。
領地はコドレア北。ブラデニ東。
ドゥムブラヴィタ……
ドゥムブラヴィツァか。その辺。
彼らに下った指令は、別命あるまで待機。
それまで領地発展に努めろと。
字面だけ見ればまあ、平和な事だ。
ただ、その領地発展が問題。
先の領主が大規模に徴発をやった後で?
領地領民が疲弊しており、支援が要る。
街道の障害を排除、流通経路を確保。
然る後、支援物資を運ぶ必要があると。
障害は魔物、盗賊……
あとは、案の定だが敗残兵。
負けた側、死なず捕まらず。
逃げ散った連中だ。
他の隊の子供達は大丈夫だろうか。
暫く報告が無い。
20人ばかりで護衛に魔人付き。
一度に全員戦闘不能も無かろうが。
通信。第1中隊……応答無し。
ただ、パラメータ表示は健在。
ダメージ無し。脱落者……無し。
ステータス異常は。緊張状態?
第2中隊。トゥーリカから応答。
街道を北へ順調に移動中。
彼女らも第1中隊に呼び掛けている。
応答が無いのが心配。
そうだな。どうしたのか。
『はっ! お、おじさま?』
『あっ、あ、お兄さん?』
少し置いて、レーネ、ユッタから応答。
声を潜めた様な通信。大丈夫か。
と、通信魔法上位から映像が来る。
こいつは……竜か。
軽く100mはありそうな竜が居る。
『グリフィンやっつけてたんだけど。
何か、食べに来ちゃって』
『どうしましょう。
撃退は難しいと思うのですが』
え、ええー……
取り敢えず、距離を取ろうか。
第2中隊、進軍中止。
進路を変更する。
第1中隊、後退。
竜を刺激しない様に。
黒獅子隊の本部。誰か。
ヴァルター隊長に繋がった。
まずは落ち着いて聞いてくれ。
対応を間違えると甚大な被害が出る。
空間魔法、マップ表示……ここだ。
コドレア南東の丘に集合。
対象を監視しながら対応を相談しよう。
……駐屯地の場所。
考え直さなきゃならんだろうか。