黒鷲の旅団
27日目(5)適切な距離感
「ありゃあ、ズメイだな……」
コドレア南東。丘の上
合流したヴァルター隊長から話を聞いた。
地元民の話では、山に住む竜。
ここの奴は割と温厚らしい。
温厚な竜。
集落は襲わず、生贄も取らず。
住処のお宝を狙って撃退された。
そんな対立的な話もあるが。
迷子が追い立てられ村まで帰れた。
そんな好意的な話もあり。
刺激しない限り、と前置けば。
敵対的ではないのかも知れない。
探知反応は黄緑。中立、やや好意的?
グリフィン肉で満足したのだろうか。
強さとしてはレベル2千強の大物。
いつぞやの火竜と同クラスだ。
手を出しても勝てるとは思えない。
ふと、被探知反応。
探知魔法?が、ズメイから来た?
ズメイはこちらへ向かって来る様子。
しかし探知反応。敵対的ではない。
どうする。あの巨体だ。
じゃれつかれても被害が出る。
みんな撃つなよ?
しかし逃げられる準備を。
ヴァルター隊長も配下を宥めているが。
そりゃあ怖い。
剣に手を掛ける者も少なくない。
と、警戒が広がる所で。
ズメイは足を止めた。
向こうは向こうで躊躇した?
こちらを刺激したくないのか?
「あ、ちょっと待って」
「何か大丈夫っぽい」
駆け出すユッタとイェンナ。
大丈夫って?
探知情報が緑に見える?
そう言われても心配は心配だ。
アンヌとフェドラ、俺も後を追う。
いざとなったら抱えて逃げないと。
ズメイとの距離、20m程。
ズメイは首を回す。
背中から何か放って寄越した。
……光る、鱗?
竜の鱗か。3枚。
竜からしたらほんの一部。
だが、1枚1枚がユッタの頭よりでかい。
地面に落ちたらドスンと響いた。
軽く跳ね上がるユッタとイェンナ。
落としたズメイ。
どこかハラハラして見える。
確かに敵意は無さそうだが。
しかし手加減は苦手か。
ズメイが鼻先で鱗を指して。
くれるの?とユッタ。頷くズメイ。
ユッタとイェンナ、フェドラ。
それぞれ1枚ずつ拾って。
それを確認したズメイ。
翼を広げて飛ぶ。
翼一仰ぎで暴風。
大人の俺でも引っ繰り返る。
去り際、ズメイは元居た場所に戻って。
グリフィンの残りを後ろ足で掴む。
そのまま持って飛び去った。
「子供が居るのかな」
「ああっ、そうかも!」
わくわくした様子で見送る子供達。
無邪気も結構だがな。
見守る方は冷や冷やする。
敵じゃなくても、近寄る時は慎重に。
生返事な『はーい』が幾つか。
大丈夫かな。
それはそうと、駐屯地構築をどうする。
大丈夫じゃない?とシャンタルたん。
あのサイズの竜だが。
魔物除けとか効くのか?
「そこら辺は正直、微妙だけど。
あんなのが居るんだ。
どこでも一緒じゃない?
あっちのだって近所にリンドヴルムが」
あっち。トゥルチャ開発地区。の、竜。
雨天時に川を遡って来たと思しき竜。
あいつも何気に見逃してくれたんだった。
竜でも子供には甘いんだろうかな。
そうであって欲しいと思うが。
意思疎通が出来ない。断定は怖い。
個体ごとに性格が違うのかも分からん。
果たして、竜と人間の適切な距離感とは。
フィクションだったらな。
竜が簡単に人語を解するが。
現実、そう都合良く行く物なのかどうか。
竜から見た人間とは。
人間から見た犬猫より矮小だ。
人間は何千年掛けて。
しかしワンニャン1つ解読出来ん。
竜が人間より高等な生物だとして。
……どうかなあ。人語が分かった所で。
価値観が合うかも分からんし。
まあ、どうであれ。
駐屯地は必要。作らざるを得ない。
普段から警戒する。
ヤバくなったらその時は逃げる。
それぐらいしか手が無いか。
「駐屯地って?」
「野営の場所を探してんだと」
「あれは? 北の」
「いやー、アレは悪いだろ」
黒獅子隊の面々から。
何か心当たりがあるのか。
曰く、ドゥムブラヴィツァ北西。
放置された古い砦があり。
ここに敗残兵が立て籠もっている様だ。
接収したら使ってくれて構わんのだと。
ただ、急ぐなら討伐を手伝う必要がある。
物資輸送の優先度が高い。
賊討伐に手勢を割けないか。
討伐を手伝うのは吝かではないが。
砦が使えるかどうかは見てみないとだな。
敵の規模次第では諦める。
焼き討ちした方が良いかも知れん。
各隊に通達。
従者チーム第1第2中隊、と。
外縁第3中隊まで野営準備。
砦がどうあれ、昼食はここで取る。
それと、手すきの者。
簡単にでも陣地構築を。
方位は、村の方を背に、が良いか。
ハーピーズ、砦の偵察を……
揃って飛びたくないと言う。
ズメイがまだ近くに居そうで怖いのか。
無理強いをしても悪いかな。
このまま子供達と待機。
花人隊……は、植物魔法。
陣地構築に回そう。
俺と骸骨騎士団で出る。
盗賊の砦を見て来る。
大した事が無かったら。
そのまま陥落させてしまおう。
「ふっふふーん」
「あ、あのさ、オヤジ〜……
後でも良いんだけど」
カーチャとマルカ。そりゃ何の牙だ。
何か大物の素材を持っている。
他にも採った獲物の素材?
何かチラつかせる子が複数。
分かった分かった。
戦果は後で見せて貰うから。
シャンタルたん経由で携行ポータルを手配。
子供達の仮陣地に設置しておいて貰う。
帰りはそこに戻るから。すぐ戻るからな。