黒鷲の旅団
27日目(6)異世界兵器潰し

「正面からでは骨が折れますかな。
 我々、骨だけに」

 骸骨騎士オルランド。それは何だ。
 ブラックか。ブラックジョークなのか。

 現在地、ドゥムブラヴィツァ北西。
 敗残兵が立て籠もる砦を一望する丘の上。
 敵方の様子を遠見魔法で偵察。
 視界を共有している所。

 気になるのは砦の外壁の上。
 幾つか大型の火器が見えていた。

 大多数は中世のカルバリン砲だが。
 2つだけ、GAU-8アヴェンジャー。
 30mm口径のガトリング砲が置いてある。
 神人が持ち込んだ物が残されているのか。
 当の神人らしきものは……居ないか。
 探知からの解析には引っ掛からない。

 アヴェンジャー砲。
 基礎部分は固定されている様子。
 正面から近付かなければ大丈夫そうだが。
 砦の門、出入り出来そうな所は。
 その正面しか見当たらん。
 他の門はバリケードで埋められている。
 正面から攻め込んだら連射を浴びる。

 あくまで、このまま。
 正面から攻め込んだら、だが。

 既に黒獅子隊が大砲を牽引して来ている。
 射角の計算は、黒獅子隊の魔女ヘルガ。
 測量魔法などで方位を特定し始めていた。

 そこに見えているのだ。
 先に潰してしまえば良い。
 よしんば障壁があるとしても。
 砲弾の質量なら大体貫ける。

 神人、異世界人の所業。
 トンデモ兵器が持ち込まれる戦場。
 持ち込まれる方も慣れた物。
 黙ってやられたりしない。

 鹵獲なんか狙うと面倒になるが。
 弾丸を複製できない。
 火器の類は持ち腐れる宝。
 ここは被害を抑える方を重視しよう。

「ああーっと、1個心配。
 黒鷲さん、何か音消す魔法ある?」

 魔女ヘルガから。
 防音魔法なら手持ちにあるが。
 用途は大砲に。ああ。
 こちらを特定されない為に。
 反撃なんか飛んで来たら面倒臭い。

 こちらの大砲は2門。
 丘の半ば、丘の陰から放物線で狙う。
 大砲を潰したら後は白兵戦か。
 骸骨騎士団も意気揚々。
 もうやる気になっている様子。

 他方、黒獅子隊。
 意見が割れている様だ。

 投降呼び掛けを提案する会計士アドニス。
 斥候ウーヴェ、書記官ジョルジュも同様。
 募兵が滞っている。人手が足りない。
 可能なら部下にでも引き入れたい。

 対しハイルヴィヒやパニーラ。
 皆殺しを主張している。

 国軍に恭順する機会は幾らもあった。
 にも拘らず、蛮行略奪を選んだ奴ら。
 見込みが無いなら殺してしまおう、と。
 セドリックの二の舞は御免だ。
 そういう感情もあるのだろう。

「子爵殿ならどうする?」

 俺に聞くのか、ヴァルター隊長。
 呼び掛けるだけ呼び掛けてみては。
 しかし、口上は考えなきゃならんかな。

 臣従するなら恩赦は掛け合ってみる。
 そんな所でどうか。

 それで降伏勧告に従わんとしたら。
 そいつらは重罪容疑濃厚だ。
 恩赦を掛けても死罪相当。
 ぶっ殺した所で後腐れもあるまい。

「呼び掛けた反応を見て。
 どれだけ悪党か分かるって寸法か」

「でも、悪党でも諦めて降参して来たら?」

 ジョルジュにハイルヴィヒ。

 今、公女殿下が魔法を勉強中だ。
 熟練の魔女も来ている。
 鑑定魔法で大雑把な善悪値程度は測れる。
 あまり酷い奴は拘留して調査すれば良い。
 自白魔法を使うまでも無い。
 手配書が出て来るかも知れん。

「その方向で行くか。
 砲撃手、撃ち方用意!
 向こうの大砲を潰したら降伏勧告する」

 ヴァルター隊長の指示。
 俺も手伝おう。遠雷魔法を試したい。

 砲撃。着弾。
 観測手が誤差の修正指示をくれている。

 俺とヘルガも魔法で攻撃。
 大砲破壊を試みる。

 更に弓兵を率いたカール達。
 別方向から遠射で撹乱。

 ……と、白旗?
 砦から白旗が上がった。
 降伏勧告より先に降伏されてしまった。

 望遠魔法、状況は……スプラッタ?
 大砲と一緒に誰か潰されたか。
 凄惨な血の跡がある。
 誰だ。纏め役でも失ったかな。

 しかし早々に降伏。
 骸骨騎士団は見せ場を失ってガッカリ。
 骨が無ーい、とか言っているのは誰だ。

 黒獅子隊は堅実に、偽降伏を警戒。
 武器を向けて、止まれ・動くな、だ。
 半端に頭が良い奴が居ても困る。
 自爆とか指示していると堪らん。
 向こうのペースで突っ込んで来させない。

 こちらも骸骨騎士団を前へ。
 降伏なら降伏で、一旦捕縛を……

 という所で、爆発音。やはり自爆攻撃か?
 いや、それにしては様子がおかしい。
 吹っ飛んでいるのは逃げて来た敵兵だけだ。

 爆発の向こう。何か大きな影。
 サイクロプスよりは一回り小さいか。
 角。蝙蝠状の翼。悪魔。
 解析……エルダーデーモン?

 パニクって召喚したバカが居る?
 何かの封印でも解けたというのか。
 上位悪魔が1匹紛れ込んでいる。
 制御は出来ていない。
 何人か踏み潰されている。

 解析情報。レベルは130。
 前に見たクリム何某のグレーターより強い。
 魔法陣を展開して手下も呼び始めている。
 レッサーだのグレーターだの。

 正面から戦っては、それこそ被害が出る。
 この距離から大砲等で弱らせるか。

 逃げ惑う賊ども。
 悪いがこのまま囮になって……

 ああ、くそ。子供が。
 逃げ惑う奴らの中にも子供が居る。
 奴隷か、少年兵か?
 細かい素性は分からんが。
 あれだけでも逃がしたいな。

 振り返る、と。
 何も言わずに頷く骸骨騎士団。
 通信リンクで情報は共有していた。

 通信、アンヌとジュス姉さんに支援要請。
 黒獅子隊には待機と遠射を推奨。
 骸骨騎士団は俺と突貫する。
 レッサー程度は蹴散らすぞ。
 賊どもの撤退支援と行こう。



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