黒鷲の旅団
27日目(7)骸骨を前へ、お父ちゃん左へ
「お父ちゃん!」
「いいから行け! 行っちまえ!」
子供2人。足を止めている。
負傷した賊兵を気にしてか。
お父ちゃん。似ていない。
拾った子かも分からんが。
賊なりに情があるのだろう。
身を挺して追っ手の足止めをしている。
相手はグレーターデーモンの巨体。
振り下ろされる剛腕。
しかしそれは虚空に消えた。
牽制は俺の銃撃。
空間浸食魔法付与。
空間ごと抉れば魔法防御も何もない。
片腕を失う痛手に振り返る悪魔。
これを、続く骸骨騎士団。
ピエトロ、ボニートで切り崩す。
骸骨戦士上位、スケルトンロード。
レベルはグレーターデーモンにも並ぶ。
同レベルなら悪魔の方が数倍強いが。
種族差をレベル差と各種バフで埋める。
グレーターまでは対抗出来る。
グレーターまでなら。
敵は古い砦に湧いた悪魔の軍団。
エルダーデーモンと手下達。
ムラのある方陣……というか。
纏まりの無い散兵状態。
敵陣の内訳はエルダーデーモン1体。
グレーター10体以上。
レッサーが50前後と結構な数。
グレーターでも3m超の巨躯。
レッサーからでも魔法を使う。
足手纏いを連れたままだ。
敵将を討ち取るのは無理だと判断。
転進する。撹乱しながら援軍の到着を待つ。
「ぬうう! 小賢しいわ!」
エルダーデーモンの反撃。
闇属性らしき紫の炎を吐く。
クラウス隊、前衛。
ファランクス陣形で防御。
障壁魔法を加えてダメージを中和。
中和し切れんのか。
アンデッドでもダメージ表示あり。
「弓をお借りしたく!」
申し出たのは骸骨騎士キリル。
長弓を受け取るや射撃。
エルダーの目に射掛ける。
的中。同僚ヴィクトル曰く。
弓なら彼が一番手だと。
右目を射抜かれて。
しかしエルダー、効いていないのか。
射抜かれた右目が再生し始めている。
それでもブレスが途切れた。
転進。左翼へ。
『釘付けにしろ!
子爵殿をやらせるな!』
魔女ヘルガの通信越し。
ヴァルター隊長の指揮。
黒獅子隊の援護射撃がありがたい。
距離を取って戦っているのは賢明として。
砲弾・矢弾の数は潤沢ではあるまい。
遠からず近接戦、乱戦になる?
乱戦になってどうなる。
悪魔相手に並の兵士だ。
近接戦など秒と持たない。
魔人か、熟練者とか。
国軍でも騎士団重鎮クラスの援護が欲しい。
アンヌ達、リュドミラ公女に応援を要請。
あとは援軍が来るまで持ち堪えられるか。
砲撃を受けて激昂するエルダー。
再び紫の閃光ブレス。
流石に丘まで届きはしないが。
逃げ遅れた賊兵、と。
手下の悪魔も巻き込んでいないか。
余波で砦自体も崩れ始めた。
再利用は期待出来そうにない。
ともあれ奴の注意が逸れた。
今の内に俺達は前進。
ルドルフ隊が先行して退路を拓く。
クラウス隊が脇を固める。
子供と賊を助けながら追走する。
「あ、あんた達は一体……」
戸惑う父ちゃん賊兵に聞く。
あの悪魔は何だ。
彼は知らないと言って首を振る。
賊は無関係か?
下っ端には知らせていないだけか。
エルダーデーモンの目的が判然としない。
軍団長だとか偉ぶった自己紹介はともかく。
それが何故ここに居る。
何をしたいのやら。
少し通信でも呼び掛けてみたが。
どうにも会話にならん。
人間めとか悪魔の威光とか。
どうでも良い事ばかり言う。
魔力はあっても知力は足りない?
攻撃力バカ。魔法で殴る脳筋。
それでも脅威は脅威だ。
被害が近隣に及ぶ前に始末しないと。
こちらの手勢、まずは骸骨騎士団。
第1小隊はクラウス隊。
レベルはクラウス67、ヘルマン64。
ハーゲン63、ボリス62。
ロドリグ61、オレーグ61。
第2小隊はルドルフ隊。
ルドルフ68、ヴィクトル65。
キリル64、オルランド61。
ピエトロ60、ボニート60。
それと……北西方向。
花人の一団。6人。
敵対的でない野良モンスター。
その程度の認識だったが。
中立寄りの黄緑反応。
いつの間にか青マークになっている。
悪魔を危険と見て、だろうか。
手を貸してくれる様子。
内訳はアンゼ達と同様のアルラウネ亜種。
5人がレベル30〜40程度。
クラスはソーンナイト。
隊長格1人がレベル50越えの上位クラス。
派生は攻勢特化のブランチバロネス。
解析。名前はガーベルヒルト。
頭に赤い花。
骸骨騎士団と西に、左に抜ける。
花人の隊が左翼に合流して来る。
そのままエルダーと距離を取って反転。
飛んで来る魔法は反射魔法で防ぐ。
こちらも弓弩で応戦する。
花人隊も遠射を。
指示を出すと槍を弓に切り替えた。
弓弩で応戦しつつ距離を保つ。
ブレスの範囲外。
エルダーデーモン軍は……長考?
距離は詰めて来ない。
何か悩んでいるだけなら良いが。
何か力を溜めている最中だと怖い。
妨害は。上手く行っていないか。
手下が障壁魔法を複数展開。
大砲の弾でも跳弾させている。
魔法で攻めるのも難しいだろうか。
ブレスの範囲外。
こちらも魔法が届かない。
矢弾に載せる、として。
矢に魔法が載る量が足りん。
悪魔はそもそも魔法耐性が高い様子。
相当量の魔法でないとダメージが徹らない。
空間浸食魔法……
全員に付与は俺の魔力が持たんか?
ふと、爆発。
大砲の弾が爆発した。
爆発したが榴弾じゃないだろう。
魔法付与、燃料気化爆発魔法?
『待たせたわね!
みんな、行くわよ!』
アンヌが来た。
が、子供達も一緒か。
編成は、各兵科と花人隊の第1第2小隊。
外縁チームはシャンタルに預けてきた様子。
ジュス姉さんは?
指揮はアンヌに任せて別行動か。
うん、まあ、何とかなるだろうが。
火力も増えたが。
同時、心配事も増えたな。
各隊、警戒を厳に。防御厚めに。
反撃なんか貰うなよ?