黒鷲の旅団
27日目(13)聖女でなくとも
「ふん、魔法医療師。
衛生兵! ジャック、増援だ!
お望みの手伝いが来たぞ!
あとはあいつに聞け。
子連れで戦場になど、まったく……」
ぶちぶち言って離れて行く兵士さん。
ご不満ご懸念はごもっともだ。
邪魔せん様に後ろを行くよ。
支度を済ませた後。
ポータルでペルシャニ。
目標シェルカイアの南東地点へ移動した。
敗走して来たシャルロッテ軍と合流。
まずは彼らの陣容を立て直したい。
感じ悪いね、とヴラスタ。
でも追い返されなかったよとマリナ。
気に食わないなりに、それでも。
人手に数えてくれている。
この辺は認定証の、実力証明の効果だ。
まだ持ってない子も何か取った方が良い。
魔法の、各分野の認定証。
現実世界なら資格免許みたいな物。
半人前相当でも良いんだ。
給金を得られる様にならんと。
「せッ、施療卿では!?
子連れで銀髪に黒コートって。
支援助かります! こちらへ!」
ジャックと呼ばれた衛生兵について行く。
負傷兵の天幕へ。
外からでも呻き声が凄い。
「ひっ!?」
「こわい」
「痛そう……」
子供達から不安げな声。
ここで怖気づくなら、それでも良い。
無理に戦場まで連れ出すつもりは無い。
ただ、ここまでは見知って貰う。
魔法医療師。
魔女協会の授業からの資格取得。
まだの子でも取得して貰う事になるが。
治療自体が出来るだけでない。
怪我人を怖がっては仕事にならん。
治癒魔法は初級のヒールから。
鎮静魔法カルム。
鎮痛魔法ペインリリーヴ。
無ければ精神魔法スリープでも良い。
痛みを和らげてやるんだ。
医療師の称号持ちはもう少し使えるな。
造血魔法ブラッドメイク。
縫合魔法スチュアライズ。
整復外科魔法リダクション。
「うひぇっ!」
何か声を上げたのはマルカ。どうした。
いきなり手を握られた?
「女神だ」
「天使……」
「聖女様だ」
治療を受けている兵士達が口々に言う。
弱っている所に助けが来て。
しかも女の子と来た物だ。
異性に免疫も無かったか。
気が迷ってる感。
「聖女マルカだって」
「ちげーし、良くねーし」
ティルアに茶化されてマルカ。
これは照れているかな。
否定するが口元は緩んでいる。
可愛いヒーラーに誉め言葉だ。
ありがたく受け取っておきなさい。
さておき、治療を継続する。
シェルカイア陥落から数時間だろう。
負傷から、そう長くは経過していない。
だろうに、傷が悪化している者も多い。
毒でも受けたか、衛生状態が悪い?
ジャックさん曰く、手が足りないせいだと。
衛生兵が何人も狙撃されたらしい。
応急処置が行き渡らなかったか。
嫌だなあ。敵軍のモラルがよろしくない。
末端か全体かは分からないが。
衛生兵を撃たないのはよくある協定だ。
これを守らない。異世界人だろう。
あいつ回復するから撃っちまおう、だ。
ゲーマーの思考で戦争に来ている奴が居る。
治療が済んだら早めに退きたい。
主軍と距離を置いた方が良い。
移動の際も防御を厚めにして行こう。
「シャルロッテ様だ!」
「公女殿下!」「ご無事で!」
不意に天幕の外が騒がしく。
顔を出してみると、丁度目が合った。
第11公女シャルロッテ。
顔は覚えている。
まともに話したのは初戦。
捕縛した時ぐらいだが。
「ああ、ハインリヒ様!
ずっとお会いしたく!」
ぐらいだが……駆け寄って来る?
「ちょと、ストーップ! おぶっ!」
「あわわわああああああ!」
アンヌが割り込んだ。
公女と縺れ合って転倒。
大丈夫か、2人共。
「えへへへ、すいません。
ハイン様だ。やっと会えましたー」
助け起こすと嬉しそうなシャルロッテ様。
そんな懐かれる様な事をしたっけ?
見逃した程度。大した話はしていない。
いや、話していないからか。
何かイメージが美化されているのかも。
支援攻撃に掛かると告げる。
積もる話はまたの機会にしよう。
負傷者の天幕を振り返り。
治療の方は大体行き渡ったか?
大分助かったとジャックさん。
続きの方はお任せします。
ふと、ニノンが俺の手を引いた。
不安げな顔で、天幕の奥を指さす。
ああ、そいつは俺が診てから行くよ。
察したフェドラ。
ニノンを連れ出してくれる。
先にポータルへ。移動準備を。
天幕の奥……動かない兵士。
既に脈が無い。
間に合わなかったか。
診断。死後数時間。
除細動も効かない。
戦えば死ぬ奴だって居る。
明日は我が身と思って気を付けないと。
子供達が犠牲にならない様にしないと。
後を任せて天幕を出る。
ふと、遠く銃声が響いた。
……狙撃? 子供達は無事か?