黒鷲の旅団
27日目(14)少女従者隊、後退も賑やかに
『だ、だいじょぶ!
だいじょぶっ!』
『障壁が効いたよ!』
よし……想定内。
この位はまだ想定内だ。
付与型の障壁魔法。
アンチミサイルフィールド。
予め掛けておいたのが役に立った。
1発しか防げないが。
しかし1発は防いでくれる。
次弾には即応。
全員で設置型のシールドウォール。
現状、うちの子達に被害は無い。
ペルシャニ、シャルロッテ軍の駐屯地。
駐屯地目掛けての狙撃を受けた。
いや、攻撃は、銃声はまだ続いているのか。
まず子供達を標的に3発飛んで来て。
頭を狙った様でも無かったとレーネ。
ゲーマーなりに慈悲があるか……どうかな。
衛生兵を撃ったのとは別人かも知れない。
酷い奴は酷い奴で居るのかも分からん。
こう、守備に徹している。
その分には対処出来るのだが。
攻撃しながらでは守りも疎かになる。
攻防を分業するか。
もういっそ退避しようか。
回復支援は果たした。
義理を果たしたと言えば果たしている。
遠射の放物軌道で射程外から。
そういう安全策もあるにはあるが。
狙撃は出来ず、加えて市街だ。
付与魔法などで無暗に焼きたくもなし。
牽制射撃程度なら俺1人でも出来るしな。
そして防がれる、効果が薄いと分かってか。
敵狙撃手の方は標的を変えた様だ。
馬が騒いでいるのは驚いたか当たったか。
天幕が倒れたのは支柱でも撃たれたか。
あとはランプとか。火種。
撃たれた物から火災になり掛けている。
周囲の兵達が対応に追われている。
個別撃破より混乱を誘う方針にした様子。
俺達は……とにかく一旦離脱するとして。
戦闘状態になってしまった。
ポータルの転移機能が使えない。
障壁魔法を再点火。
その後、街道側面の林の中へ後退。
各隊、全員居るのを確認して。
帰還スクロールで退避を。
サンドラちゃん。
ジュス姉さんで最終確認。
探知魔法で逃げ遅れが居ないか。
全員居るか確認して欲しい。
あとは……アンヌ。
俺と来てくれ。
シャルロッテ公女の安全を確保したい。
衛生兵でも狙って来る様な連中だ。
後先考えずに公女まで撃たれる。
指揮系統がマズイ事になる。
シャルロッテ公女。
さっき見て顔は知ってるな?
『良いけど、あいつ。
ちょっと気に食わないわね。
私よりおっぱいデカいのよ』
そんな所で嫉妬するんじゃありません。
『お、おっきくてゴメンねー?』
『うぐ。フェドラは許すわ。
お姉は許さないけど』
『えー。アンヌだって。
この中じゃある方じゃん」
『そうだそうだー』
『ユッタが怒るぞー』
『なっ、違! 怒らないし!』
賑やかだね、お前ちゃん達は。
お喋りに夢中で油断するなよ?
負傷者の天幕を出る前。位置関係。
子供達は元々ポータルへ向かっていた。
シェルカイアへ向かって後方。
シャルロット公女は反対。正面方向。
さっき向かって行くのを見たのが最後。
今はどこら辺だろう。探知……
探知していると被探知が来た。
咄嗟に身を引く。
その鼻先を銃弾が掠めた。
今度は俺が狙われているのか。
子供らが狙われるより万倍マシだが。
大した距離の割に狙いが正確だ。
探知と、遠見魔法か何か。厄介な。
敵も魔法と併用して銃を使っ……
ん? 違う。魔法じゃない?
微かな異音。空を見上げる。
アレか。さっきドローン。
あいつから探知が来た様な。
ドローンに銃を向ける。
と、生意気にも回避行動を取る。
誘導光弾魔法。
3発ほど撃って撃墜。
狙撃は。止んだ……かな?
戻って来たアンヌと合流。
公女殿下を探す。
混乱した陣地。
兵が、探知情報が入り乱れる。
目でも探すが、なかなか見つからない。
「おい! 何故まだ居る!」
声を掛けて来た兵士。
入り口で会った奴。
解析情報、名前はモーリッツ。
まだ居ると。
交戦状態なのは察している。
子供達なら林へ逃がしているんだが。
と、彼が指さすのはアンヌ。
ああ、小柄なアンヌを見て。
まだ子供連れだと。
この人は言葉厳しいが親切なだけだ。
公女殿下の安否は。
彼も見ていないと言う。
心配だ。撃たれたりしてなきゃ良いが。
敵のモラルが信用ならん。
衛生兵でも撃って来る様な連中だ。
モーリッツさんも硬い表情で頷くが。
彼は彼で持ち場を離れられず……
「あっ、キサ、貴方様は!」
女の声をした騎士甲冑が走って来る。
何か貴様と呼ばれかけた様な。
どこかで見た鎧だな。
シャルロッテ公女のお付きだったか?
曰く、公女殿下が撃たれた。
部位は足。致命ではないのだが。
ただ、弾丸が体内に残っている。
普通にヒールしたのでは弾丸が残る。
専門家でないと怖くて取り出せない。
専門家。衛生兵はどうした。
治療に向かっていた途中でまた撃たれ。
……えっ?
ジャックさん撃たれた?
死んだのか?
死んではいないがマズい状態だと。
すぐ行こう。どちらも助けたい。