黒鷲の旅団
27日目(15)戦いが終わったら俺
舞踏会に行くかはともかく
「痛っ! 痛たたたた!」
「あっ、あれ?
お兄、どうすんだっけ」
アンヌ、鎮痛だ、鎮痛。
さっき掛けた魔法は鎮静だろう。
シャルロッテ公女の天幕にて。
彼女の治療に当たっているのはアンヌ。
致命傷じゃないので応急処置を頼んだ。
後で俺も確認するから。出来る範囲で。
ジャックさんの方が頭を撃たれて重体。
俺はこっちを助けなきゃならん。
希少となった衛生兵を失うのは痛い。
ジャックさんに止血、活力魔法。
意識不明だが脈はある。
弾丸を摘出したいが、位置はどこだ。
空間魔法でスキャンを掛ける。
弾丸は……弾痕から抉り込んで。
やや側頭部へ。
頭蓋骨に当たって逸れたか。
貫通はしていない。
良い状態とも言えないが。
脳が無事。どうにか助かるかな。
洗浄・浄化魔法を指に。
指先で弾丸に触れる。
転移魔法で取り出す。
縫合、造血、整復、形成外科魔法と治癒。
診察スキル……判定は処置済み。
処置済み。処置が済んだというだけだ。
頭を撃たれている。
どんな後遺症が出るか。
一先ず安静にしておくのが良いだろう。
すぐ仕事に復帰というワケには。
そうなると衛生兵、ヒーラーが足りん。
公女は……うおっ!?
振り返ったら、すぐそこに顔があった。
向こうも驚いて距離を取る。
公女付きの騎士。アゼルさん。
どうした、何か用事が?
曰く、魔法の心得がある。
伝授して欲しいという。
アンヌの治療も荒っぽい。心配。
今後の為にも覚えておきたい。
あと男の俺に公女の足を触らせられない。
ん、まあ、それで済むなら。
俺も気を遣わなくて良いしな。
止血、造血、縫合があれば良いか?
と、アゼルさん。
俺には頷きつつ。
横で手招き。
呼んだのはもう1人のお付き。
騎士マルセルさん、とヒソヒソ。
「多少は信用の余地があるのでは」
「いや、まだ油断してはダメです」
「確かに。男はみんな狼ですからね」
この2人。
最初に公女と一緒に捕まえた護衛だ。
公女様に過保護。
あと男性不信もあるのかな。
中世、戦乱、略奪の横行と。
こんな時世である。
警戒するのも無理は無いと思うが……
「では引き続き私が」
「いや、そろそろ私が代わりに。代わっ」
「いやいや、ここまで来て譲るとか」
「いやいやいや、そう仰らずに」
思うが……何だろう。
不信、にしては突っ込んで来たがる。
「すみません。部下がご迷惑を」
シャルロッテ公女。
傷は良いのか。
アンヌが何だかんだ治してしまった。
確かに賑やかしいが。
まあ、ご迷惑と言う程では。
魔法を教えるぐらいは別に構いません。
公女殿下のお言葉に寄れば、騎士両名。
婚期を逃して焦っているとかで。
見た目、まだお若い。20代ぐらいでは。
いや、中世だとそれでも年増扱いか?
美人騎士。声ぐらい掛かりそうなモンだが。
「えっ、えっ、美人って?
脈ありですか?」
「良ければ今度!
共に舞踏会になど」
え、ちょ、何……んごふ。
戸惑っていたらアンヌに小突かれた。
鼻の下を伸ばしているつもりも無いが。
後の話をしている場合でないのも確か。
変なフラグが立っても困るしな。
舞踏会の話は置いといて。
公女殿下、作戦会議を。
まずはこの戦いを終わらせないと。
目下、脅威は敵スナイパー。
どうやら向こうの方が有効射程が長い。
神人。生き返る。
1回倒して終わりでもないし。
人質を盾にされたら狙撃自体が難しい。
逃げ遅れた兄姉が居ると聞いている。
ただ、まあ、撃ち合いはともかく。
奴の目を潰す、視界を遮るぐらいはしよう。
部隊を立て直したら知らせを下さい。
誰か通信魔法は。と、アゼルさんが挙手。
使える……でなく、教えてだった。良いけど。
アゼルさん、マルセルさん。
と、公女殿下も?
通信魔法を伝授。数回試用。
大丈夫かな?
振り返ればジャックさん。
起きようとしていて。
まだ安静に。
リュドミラ公女の援軍も来る。
ヒーラーぐらい連れて来るだろう。
通信。サンドラちゃん、状況は。
逃げ遅れた者は居な……居るの?
ジュス姉さんが回収したらしい。
路地裏チーム、ティモとヒューゴ。
戦闘を見ようと抜け出そうとしていた。
黙って抜けるとか、後でお説教だな。
そんなんじゃ冒険者だって任せられんぞ。
とにかく……一旦離脱だ。
黒獅子隊や銀狐隊、リュドミラ軍と合流。
ポータル経由でヴァドから再展開する。