黒鷲の旅団
27日目(18)帰っても山積み?

「終わったー?
 終わったっぽい?」

 イェンナの問い。
 そう……だな。戦闘終了だ。

 ペルシャニのポータル。
 転移機能を取り戻している。
 街としての戦闘状態は解消しただろう。

 ただし、シェルカイア方面。
 まだ、ごった返している。
 見物や観光は後日にした方が良い。

「もう帰っちゃうー?」

 カリマも疲れたかな。
 もう少しだ。

 引き上げ前に、リュドミラ。
 あるいはシャルロッテに声を掛けたい。
 掛けたいんだが、捕まらんな。
 通信魔法も混線している。

 交代で警戒し……ながら。
 お喋りしていても良いか。

 シャルロッテ軍の兵も少し来てくれて。
 捕虜の回収、残敵の捜索。
 周辺警戒に当たってくれている。

 探知・看破に感無し。
 多少は目を離しても大丈夫だと思う。

 既にお喋りを始めたのは同郷出身者。
 同じ孤児院の仲間達。
 フェドラやカーチャ、エリック。
 稼ぎやレベルやらを張り合っている。

 それと、同郷といえば元奴隷兵。
 うちのトゥリンやヒュリヤ。
 銀狐隊のジェマル、ハシム、デメット。
 農村在住組、レイニ隊のセリムやルステム。

 うちと銀狐隊。
 暮らしはあまり変わらない様だ。
 戦争となれば、大人が前へ。
 子供は後ろから援護。

 魔物相手なら槍も使うけどな、とジェマル。
 大人お姉さん隊に色々教えて貰っている。
 大人と子供が1対1。指導の密度が良い。
 この辺は、うちより恵まれているかな。

「剣ならロジェも強いよな」
「クロエも強いんだよ。親父さん騎士だし」
「マルカは?」「ヘルちゃんとか」
「えー、レーネちゃんだよう」

 誰が強いんだといった話に花が咲いて。
 エリックらが木剣を用意しようとしている。
 おーい、待て待て。
 今はまだ警戒中だから。

「だって、戦ってみたいー」

「分かった分かった……
 旦那ぁ、良いっすか」

 エリックにせがまれて。
 イェルマインから。

 まあ、交流に時間を割いても良い。
 全体としては、帰ったら自主トレ時間。
 希望者は交流試合でも、と。
 場所は、コドレアの駐屯地にしようか。

 という所で通信が来て。
 公女、じゃない。カシューさん?
 ペーターも一緒か。何か進展が?

 曰く、三大魔王間での停戦を協議。
 一部分、一時的かも知れんが。
 それでも戦乱が落ち着くワケか。

 ついては共通の敵、魔王バティスタン。
 これを封殺すべく……

 ん? 三大魔王って。
 魔王バティスタンは入ってない?

『バティスタン軍のブラッドエーテル。
 アレ、マズいんですよ。
 放置していると神が介入して来る。
 倒べき神だとしても、準備不足です』

 神が介入。
 文明を破壊してくる、だったか。

 いつぞやのドロドロ、ブラッドエーテル。
 人間を元にした魔法媒体という話だが。
 あれが神の介入の口実になり得るらしい。

 その生産を続けているバティスタン。
 これを止めたい。
 魔王が3人協力してこれに当たる。
 人類側との休戦も視野に入れる、と。

 方針は分かったが、3人目の魔王?
 北東、シベリアに住まう魔王。
 名前はエリダラーダ。
 カシューさんと面識があって?
 ペーター、ウルリカと話を付けるという。

『向こうも停戦までは約束してくれています。
 問題は人類側との調整ですね。
 で、話を詰めるので同席して頂けたらと』

 同席……ん? 俺も?
 人類側とも話を詰める、に当たって。
 そこで俺に間に入ってくれという。

 戦争が下火になるのは望む所。
 バティスタンを放置できないのも同感だが。
 そんな大事、俺なんかじゃなくて……
 と、イーディス公主にはもう声を掛けたと。
 イーディスから俺も呼べと言われた?

 まあ、行かなくも無いが……同席。いつ。
 この後だと言う。この後。今夜。
 忙しい事だ。早いに越した事も無いが。
 迎えと通信を寄越すと言う。
 子供達の試合を少しは見られると良いが。

 とりあえず了承して。
 次はリュドミラに通信。
 やっぱり本人は捕まらず。
 代わりに騎士ジャンナさん。
 状況は。ヴァルプルガから声明あり。

 ヴァルプルガ付きの魔術師から通信が来た。
 シェルカイア陥落は勇者の暴走だと。
 全面戦争を避ける為の尻尾切りだろうか。

 勇者。敵軍を率いていた異世界人。
 リュドラミラ達はこれを既に捕縛している。

 その勇者とやらの言い分は。
 手柄を立てて公女と結婚したかった?
 街1つ程度じゃ釣り合わんだろう。

『全くです。
 うちの公女殿下を人身御供になど』

 ……うちの。

 結婚させられそうだったのはリュドミラ?
 捕まえた女を自分の物にしようだと。
 もう勇者じゃなくて山賊の所業だな。

 リュドミラ公女は誰の差し金かと憤慨。
 ヴァルプルガ側はシドロモドロの様相。
 後の交渉は有利になるだろうとの見込みだ。
 変に口を挟むより任せておこう。

 先に引き上げると告げ、承諾を得る。
 ヒーラーは足りていると思うが。
 何かあったら連絡をください。
 繋がらなければ魔女協会にでも伝言を。

 話が済んで。さあ、帰ろう帰ろう。
 帰ったらまた出かけなきゃならんのだと。



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