黒鷲の旅団
27日目(19)ぷち魔王軍予備軍

「スゲェ……」
「あれは勝てねぇわ」
「格が違うって奴だね」

 戦場より帰還後、コドレア駐屯地。
 子供達同士の稽古試合を始めた。
 そこまでは良いんだが。
 一部の凄い子が模擬戦を披露して。
 みんな気を取られてしまった。

 群の抜いている4人。タッグマッチ。
 レーネ&フェドラ対ヘルヴィ&ヘレヴィ。

「ファイア、ファイア!
 ファイアのファイアっ!
 それー! 行っけえー!」

 火球を大量に発生させているフェドラ。
 簡易ないし思念詠唱の並列制御だが、多い。
 火球、同時10発を越えている。

「やっ! はっ!
 ……シャアアアアッ!」

 その火球乱舞を全部捌いて見せるヘレヴィ。
 二刀流。刀身に反射魔法付与で斬り払う。
 レーネの得意技を盗んだか教わったか。
 加えて元暗殺者の技。一撃一撃が速い。
 高速十余連撃に残像が見える。

「疾風よ刃となりて! ファイアボルト!
 空を断て、ウインドスラッシュ!」

 無詠唱ばかりが奇襲じゃないか。
 長文詠唱の間に簡易詠唱を挟むヘルヴィ。
 風魔法を匂わせ、簡易詠唱の火球を速射。
 引っ掛け撹乱の為に、あえて詠唱する。
 更に長文詠唱を完成させて風魔法。
 剣戟と同時に詠唱する体力もある。

 対するレーネは一刀流。
 剣より足捌き、体捌きの速さが目立つ。
 全部受け止めず、時に躱し、距離を取り。
 やや隠し気味に溜めた剣は一撃必殺狙い。
 凄腕のヘルヴィも躊躇。
 間合いを測りかねている感。

 不意にレーネ。
 距離を取って徐な居合の構え。
 からの、無詠唱速射雷撃魔法。
 構えも詠唱もフェイントには同じだ。

 虚を突かれてヘルヴィが怯む。
 ここぞと突進するレーネ。
 咄嗟にヘレヴィがカバー。
 その頭上を越えてフェドラが飛んだ。
 ヘルヴィは。もう体勢を立て直している。
 相手を変えてまた1対1の様相。

「いやー、あれと戦わなくて良かった」
「ホント、それなー」

 戻って来たのか黒獅子隊。
 アドニスとジョルジュが苦笑いしている。

 黒獅子隊は俺とパーティ登録をしていた。
 神人と組めば楽にポータルを使える。
 しかし、直接領地にも帰れたはずだ。
 寄り道して来たという事は、何か用事が?
 ただの見物か。
 まあ、見て行ってくれて良いが。

 子供達の方を見回して。
 少しションボリしているのはデュオニス。

 どうした。
 フェドラを守るどころじゃない?
 力の差を感じてしまったかな。

 まあ、焦らず強くなりなさい。
 まずは自分を守れる様に。
 いつか後ろを預かれる様に。
 やがては隣に立てる様に。
 強さだけ張り合わなくても良いとも思うが。

 と、話が聞こえたか、思う所があったか。
 木剣を取り出して素振りを始めるロジェ。
 レーネ達の戦いを見ながら。
 自分も何か模索している。

 そんなロジェを見つけたヴァルター隊長。
 自分も木刀を持って行く。
 同僚ハイルヴィヒ。
 デュオニス少年にも手招き。
 稽古の相手をしてくれる様子。
 あちらはあちらで気の良い兄さんだ。

 良いぞ良いぞと盛り上がるのは骸骨騎士団。
 自慢の弟子でも送り出すかの様。楽しそう。

 と、ロジェに気付いてか、他の子達。
 思い出した様に素振りや打ち合いを始める。
 そう。見習うのも良いが自主トレも大事。

「うーん、混ざりたいわ」

 アンヌちゃんはダメです。
 ぷうと膨れて見せるけど、ダメです。

 アンヌとジュス姉さんは俺と一緒。
 魔王に呼ばれて、この後会議だ。
 一応、正装。汚すぐらいなら洗浄魔法だが。
 破れたりしたら直せるか自信が無い。

 アンヌの背後から頬を撫で回しつつ。
 レーネ達とか、お前ちゃんはどう見る。
 そこらの勇者相手よりは面白そう?
 あの4人を筆頭に。
 皆アンヌぐらいになったらなー。

「ぶふふふ! プチ魔王軍だわね。
 世界征服でも始めるのかしら」

 どうだろう。世界征服はともかくだが。
 そこらの勇者に負けない位にはしたいな。

 異世界人が好き勝手する世界。
 情に訴えた所で守ってくれるばかりでなし。
 何より弱者が生き難い世界が悪いとして。
 悪い物を悪いと指差し確認。
 それで何が解決する。

 世界も変えたい一方。
 力は力で身に付けないと。

 亜人蔑視、奴隷制だの、嫌な事情もある。
 そんな既存の価値観に反旗を翻す。
 亜人や魔人の戦闘集団。
 そう考えると、魔王軍みたいな所もあるか。
 俺が魔王だとかはピンと来ないけど。

 ふと、通信が来た。
 迎えが……ブランさんなのか。少しぶり。
 ブカレスト王城まで来ている様だ。

 レーネ達に念話。一旦そこまでとして。
 先にも言ってあったが、出て来ると告げる。
 夕食までには切り上げられるだろう。
 ウルリカさんもうちの唐揚げをご所望だ。
 うん。唐揚げ多め。任せたよ。

 さて、どんな話を持ち帰って来られるか。
 にひっと笑う子供達に手を振って。
 まずはポータル。ブランさんと合流しよう。



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