黒鷲の旅団
27日目(20)エリダラーダ、ダーラダラ

「あー……んおー…………抱っこー」

 ……抱っこじゃねーだろう。

「可愛らしい方でしょう?」

 ブランさんの感想。寛容過ぎないか。
 これを可愛いで済ませて良いんだろうか。

 ブランさんと合流。
 ポータルで会議場へ向かった。

 会議場はシベリア。
 魔王エリダラーダの城。
 着いて、まず待合室に通されたのだが。
 先客。何とも覇気の無い魔王がそこに居た。

 ダボッとしたTシャツに短パン姿。
 寝ぐせもそのままボッサボサ。
 挙句、地べたに寝転がっている。
 片手に持った携帯端末は何だ。
 魔法仕掛けなのか、再現した機械なのか。

 解析で名前を見ても二度見するレベル。
 これが魔王エリダラーダだと。
 休日ダラダラしている学生程度に見える。

 一応、会議に行く意思はある様だが。
 起き上がり切れずに引っ繰り返る。
 手を伸ばして来て運んでくれだと。
 何という怠惰魔王だ。

 この魔王ダラダラーダ。
 もといエリダラーダ。
 それでも解析で得たレベル。
 表示は1041万8849。
 ペーターの実に5倍弱。

 しかし、威圧感等は全く感じない。
 スキルをオフにしている。

 身を守る必要など無い、か。
 何をされても痛くも痒くもないんだろう。
 こう、無防備で居られるってのは。

「うー……かゆい」

 痒いは痒いの?
 魔王っても女子だろう。
 人前で尻とか掻くんじゃない。

 イーディス公主から通信が来る。
 もう会議始めたい。魔王はどこかと。
 他の出席者はもう集まっている?
 仕方ない。連れて行こう。

 抱き起こす。酒臭い。
 はいはい、抱っこじゃなくておんぶね。
 乗って。ちゃんと掴まって。
 おおい、落ちる落ちる。

「う、ぐぶ」

 ん、何か……苦しい? 大丈夫か。
 降ろしてやると案の定、嘔吐。
 背中を擦る。もう吐くだけ吐かせる。

「う、う、うえええぇ……」

 泣くなレベル1千万。
 泣きたいのはこっちだよ。
 ブランさん、誰か助けを。
 城の人が居ないか探してみて。

 浄化、洗浄、鎮静魔法。
 通信を自宅へ。
 クラウディオさんタオルか何かを。
 次いで魔女協会へ。
 酔い止めの薬を手配。

 俺は会議に来たんだと思っていたんだが。
 何だってこう、介護してんだ。

 転移魔法でタオルを受け取る。
 魔法と合わせて吐瀉物を掃除。
 落ち着かせる。すぐには動けないか。
 他の連中には遅れるって言っておくから。
 着替えさせたいが、衣類はどこに。

「ぐむー……」

 返事になってない様な返事。
 少し目を離したらまた横になる。
 手を振って、聞こえては居る様だが。
 どれだけ飲んだんだ。タル10個分?
 流石に飲み過ぎじゃないかなあ。

「らってー……飲まにゃから。
 やってらりらりりょー」

 何を言ってる。
 よく分からんのだけれども。
 飲まなきゃやってられない?

 べろんべろん言語。
 断片的にしか解読できないが。
 曰く、元々あまり乗り気でなかった様だ。

 関わりたくない。
 他の魔王に、ではなく?
 神か。救済だか神罰だか知らないが。
 目立って目を付けられたくないと。

 聞く限り、エリダラーダ。
 ペーター同様に救済の被害経験者。
 魔王として支配地の文明を開発して。
 そこへ大量のキューブが降って来た。
 壊滅。何もかも台無しにされた。
 それで長らく意気消沈していたと。

 以来、神に狙われない様に。
 目立たない様に。
 表向き、自堕落を装いながら……

 装い?
 地の様にも見えるけど。

 自分では大きな事をしない様。
 ひっそりと暮らしていた。
 外部連絡に携帯端末状の機器を使う。
 遠隔で開発をしたり、か。

「だってさ、人間が目の前で。
 目の前でクチャって……
 ぶぉええええ!」

 思い出し嘔吐。
 気持ち悪い時にグロい事を考えるな。
 いや、思い出させてしまって悪かったか。

 二度目の嘔吐が服に。
 着替えは。これしか持ってないとかいう。
 ジュス姉さん、ひとっ走り頼む。
 自宅の方で何か着替えを探して来てくれ。
 洗浄っても、この格好で会議もないだろう。

 イーディスから通信の催促。
 ちょっとトラブってる。
 先に始めて下さい。
 状況? 説明が難しいな。

 ブランさんが戻るが、城の者は見つからず。
 何しろ、こう、ポヤヤンとした人だ。
 嫌そうではないが、介護を任せるのは心配。
 アンヌが代わりに残ると言ってくれる。
 汚いのとか平気な人? それは助かるけど。

 じゃあ、先に行くから。
 体調が持ち直したら後を追い掛けてくれ。
 エリダラーダ、うーいと返事。
 返事するけどまた横に……大丈夫かなあ。

 背を向けて歩き出す。
 背後の方で3度目の嘔吐の音。
 え、戻っ……大丈夫か?



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