黒鷲の旅団
27日目(21)赤い穴と唯人のサイクル

「まずはこれを見て頂きましょう」

 魔王を交えた合同会議にて。
 まずは状況。バティスタン軍について。
 何がヤバいのか説明を貰った。
 衛星写真の様な物を出すのは魔王ペーター。

 鷹の目の魔法だかと、記録・転写魔法か。
 理屈は分かるが、ここまで出来る物か。
 魔王の魔力量と熟練度は大したものだ。

 写真の内容。
 場所は、魔王バティスタン領。
 繋がる様に順に撮ってある。
 現在主戦場である黒海東岸を始めとして。
 東へ。カスピ海周辺。
 北の方からぐるっと回って行く、が……

 ……何これ。穴?

 カスピ海東岸、少し南あたりだろうか。
 真っ黒い穴、の様な物がある。
 周辺は土地が赤黒く変色している。

 赤い。ブラッドエーテルの?

「そうです。画質がイマイチですが。
 魔法ではこれが限界。
 角度的な理由で高度を下げられず。
 ウルリカさんが斥候をやってくれて。
 ようやく確認が取れました」

「およそ間違いないだろうね。
 人間の捕虜から、動物。
 リポップした魔物までブチ込んで。
 全部、呪術的に煮溶かしている。
 奴らのブラッドエーテル製造工場だよ。
 こんな物が3つも4つもあるらしい」

 魔王バティスタンは後進の魔王だと言う。
 レベルも数十万程度。
 桁が1つ2つ落ちる。
 能力だけでなく、戦術も兵の質も劣る。

 それが、それでもだ。
 ペーターやウルリカと渡り合っている。

 その原動力がブラッドエーテル。
 身体強化や超兵器の運用に使われている。

 しかし……これ、どんな規模なんだ。
 イズマイールで見た時は大砲1つ分。
 ブラッドエーテルの直径は20m足らず。
 それでも被害者の数は2千を越えていた。

 写真の穴はどうだ。
 直径は数kmありそうだ。
 その周辺まで赤黒く染まる汚染状況。
 これが3つも4つもだと。
 そのうち材料が無くならない?
 機能停止しないのだろうか。

 魔王ウルリカ曰く、リポップ……
 人間がリポップする、だと?

「再配置。復活というより補充だけど。
 ランダム生成された人間の集団。
 例えば集落ごとがね。
 人口が減り過ぎて来ると、配置。
 ポツポツッと出て来るんだ」

 ポツポツッと……え、何だそれ。
 他の集落から見て違和感は無いのか。
 イーディス公主を振り返る。
 彼女は頷いて言う。

「あたしも見た事あるわ。
 結構戸惑うわよ。
 派遣した覚えもない衛兵が公主様〜って。
 でも、話してる内に記憶を上書きされて。
 こいつ居たかも?
 あれ、おかしいなって。
 確信を得るまで大変よ。
 何度も記録取って照らしたわ」

 記憶を上書きされる……
 居た事にされる?
 矛盾を感じない様に。
 記憶情報を上乗せされるのか。

 NPC。唯人。神の創造物。
 ゲームバランス維持の為の人口操作。
 何だか軽い命の様にも思われてしまう。

 しかし、出会って来た人々、子供達。
 作り物の命だと割り切るのは……

「おーい。大丈夫?」

 戸惑っていたら、イーディス公主。
 目の前で手を振って来る。

「ああー、ちょっとショックだったかな。
 あくまで補充さ。
 同じキャラは出て来ない。
 NPCからしたら一度きりの人生なワケで。
 その、大事にするのは悪い事じゃないよ」

 ウルリカからもフォローが……大丈夫だ。
 よしんば作り物の命だとしても。
 俺が子供達を甘やかすのは変わらない。

 出自の違いみたいな物だ。
 人間の人格も電気信号の集まり。
 割り切れない話ではない。

 それはともかくとして。
 バティスタンのブラッドエーテル工場。
 放って置いても止まらず。
 破壊するしかないと。

「ああ、破壊の方は僕らでやります。
 人類側にお願いしたいのは、休戦。
 あちらに注力する分、攻撃を控えて欲しい。
 ただ、どういう口実にするか、ですね」

 切り出すのはペーターだが。
 状況を公表して、協力を求めては?

「魔王に勝てない人類に、ですか。
 悪用しなきゃ良いんですけどねえ。
 これ使ったら魔王に勝てるかも、なんて」

「公表する相手は選ぶべきね。
 いっそ言わない方法を考えるとか」

 イーディス公主も肩を竦める。
 誰の口から漏れても上手くない、が。
 真意は伏せたまま人類と休戦を?
 仲良くしましょうっても聞くかどうか。

「まあ、方法はお任せします。
 要は人類軍の攻撃が下火になれば良い。
 小競り合い程度、続けたって良いんです。
 ただ、乾坤一擲をされたくないなと」

 主戦力の足止めをする……
 継承問題を蒸し返す、とかかなあ。
 魔王の攻勢が緩やかになって、その隙にだ。
 攻め込むより地盤を固めようと呼び掛ける。

 ……素直に聞くかな。
 まあ、まずは呼び掛けてみようか。

 ペーターが同意、ウルリカが頷いて。
 魔王2人は戦略会議へ移る。
 俺とイーディス公主は根回しの相談を……

 あれ、エリダラさんはまだダメか?
 ちょっと様子を見て来ようか。



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