黒鷲の旅団
27日目(22)我に甘藷を捧げたまえ?

「これ、御社のっぽくない?」

 イーディス公主。
 金属製の巨人の姿を見上げていて。
 多分……ああ、はい。
 弊社のでゴザイマス。

 体調を持ち直した魔王エリダラーダ。
 迎えに行った俺達だったが。
 会議場には戻らず、寄り道した。

 向かった先は城の地下。
 軍事施設らしき場所。
 機動兵器と思しき巨体が鎮座していた。

 そして俺は、コイツを知っている。
 フィルブラント社製機動兵器。
 強襲制圧用機体『フラガラッハ』シリーズ。
 戦闘機と人型の間で変形出来る奴だ。

「むー、関係者。
 あんまり驚かんのか。むぅー。
 このままでは、いかん。
 ゲロ魔王の印象だけ持ち帰られてしまう」

 魔王エリダラーダ。
 こちらの反応に不満げ。
 嘔吐した印象を払拭したかった様だ。
 別に気にしなくて良いと思うけれども。

 大人気アイドルだって排泄ぐらいする。
 美男美女でも不調なら吐いたりする。
 それが想像出来ない子供じゃない。

「そうだけどー威厳がぁー」

 案外、見栄っ張りなのだろうか。
 エゴでも無いと魔王にはならないか。

 ともあれ、機動兵器だと。
 全長20mか、それぐらい。
 主な素材はミスリルかな。
 鑑定スキルがそう告げている。

 しかし、この機動兵器。
 整備用ハッチのフタの裏。
 型番の表記まで再現してある。
 あんたも現実世界で本物を見ている?

「探っちゃイヤンだぞ。
 マナー違反だぞー。
 知った所で、まあ、あれだ。
 こっちには何も出来ないだろうけど」

 まあ……それはそうだ。
 このゲームの特性。
 プレイヤーとキャラが分離している。
 本体が事故死したとして。
 こっちのコピーは勝手に動く。

 伝達するにも時差が出る様だし。
 よしんばゴマ擦るとしたら。
 ここでゴマ擦った方が早い。

「おー。ゴマ擦り大歓迎。
 何かくれ」

 雑なカツアゲかい。
 そんなつもりじゃなかったが。

 ストレージから、何かないか。
 残ってたヤキイモを1つやる。
 エリダラーダは訝しげにそれを一口。
 一口食べて、溶けた。
 表情がデロンデロン。

「こ、こおおおお!?
 んっま! うむえ!
 ぶふぉおおお!
 んぶぉ! ふぉああ!」

 もう何言ってんのか分からない。

 しかし、甘藷。
 あんまり寒いと育たないんだったか。
 シベリアだと食べる機会も無かったかな。

「もっとくれ!
 甘味! プリーズ!
 大変お世話になります!」

 圧が凄い。
 お世話が進行形。
 食べながら喋るな。
 威厳どこ行った。

 この後バティスタン軍を攻めるだろう。
 途中でどこかに自生しているかも。
 まずは南下して。
 自分で探してください。

「その手があった!
 何かやる気出て来たぜひゃっほぅ!」

 やる気出たんなら良かったけれども。

 焚きつけて見つからないでは悪いな。
 その時はまた提供するとしよう。

 それはそれとして。
 この機動兵器について聞く。
 動力は何だ。魔法的な物か。
 何しろ中世文明社会だ。
 まともな内燃機関なんぞ作れんだろう。

 操作は……中に入って操縦。
 自律兵器とかではないんだな?
 自分で動く奴とか持ってない?

 と、エリダラーダ、にやりと笑う。

「アレ壊したの、君だよね」

 う……バレてる?

 鉱山で破壊した、あの機動兵器。
 あれも持ち主は魔王様でした?
 遠隔で認識する方法があっただろうか。
 やっぱり、壊しちゃマズかっ……

「ああ、良いよ良いよ。良くやった。
 鹵獲されててさ。
 自律ゴーレムにされてたんだ。
 遠いし、踏ん切りもつかなかったけど。
 壊してくれてスッキリだよ。
 OK。ナイス。
 材料ゲット良かっただろう?
 アダマンタイト」

 あー……跡形も無くなったモンで。
 欠片が妖精ちゃんの剣になってます。

 魔法で写真を出してやる。見せる。

「ぶはっ! ちっせ!
 良いね良い!」

 魔王様は大変おウケあそばした様子。
 満足げに会議場へと足を運ぶ。

 さて、俺達は彼女と別れる。
 人類側への対策会議だ。

 魔王様と別れ……一息。

 ああ、揉めなくて良かった。
 思わぬ所に地雷があったな。
 安全確保の為に戦ったとは言え。

「ビビり過ぎじゃない?」

 肩を竦めるイーディスだが。
 何しろ、お互い神人だ。
 ぶっ殺しても生き返る。
 死なないが故に。
 抉れると、矛先がどこ行くか。
 余計な被害が出るかも分からん。

 さて、作戦会議。
 軍事的な作戦はあちらに任せるが。
 こちらはこちらの作戦会議だ。
 人類側の動きを誘導しなければ。



前へ黒鷲の旅団トップへ次へ