黒鷲の旅団
27日目（23）黒鷲の根回し
『そ、そう……そうですか。
早い知らせに感謝を。
ですが、何故わたくしに？』
魔王同士での戦いの間。
人類側の意見調整が必要で。
俺が真っ先に連絡を取った相手。
ある種の敵方だった。
女伯爵。反公主派。
イルメラ・ゲオルギーネ・ラングヤール。
叙勲式典でユッタを転ばせた、あの女だ。
軍備増強か国力回復か。
後で審議になると伝える。
同調云々は強要しない。
採決を急がせたいだけだ。
魔軍に先んじれば準備期間が出来る。
子供達にも楽をさせられる。
反公主派で俺は貴方ぐらいしか面識が無い。
近しい派閥とでも話をしてみて下さい。
と、いう……誘導。
腹黒ーい、と後ろで笑っているアンヌ。
別に嘘は言っていないだろう？
国内世論を軍備増強か国力回復か。
この二択に誘導する。
この際、軍拡だとしても。
派兵よりは数倍マシ。
ブラッドエーテル工場殲滅作戦が肝だ。
余計な邪魔させたくない。
国の支援が無くなるのだ。
行かない勇者も居るだろう。
魔王軍の攻勢が下火になる。
魔王軍同士の戦いが始まる。
この辺の情報の共有。
先の新女王の発表とは事情が違う。
あちらは広く知らしめるのが目的で。
賛否を問う狙いもあった。
今回は違う。反応の方を誘導したい。
仲間だ敵だで割れる場合ではない。
今、大発表すれば、どうなる。
魔王軍の侵攻が下火になるらしい、だ。
これ幸いと攻勢に出る勢力も出て来る。
そうさせない為に調整が要るワケだ。
身内の調整は難しくない。
頼み込めばいい。
利益を説くにも好みが分かる。
何を望んでいるかが分かる。
問題は、こう気の合わない奴らの方だ。
気が合わなくても誘導しなきゃならん。
気の合う方。
例えば魔女協会は後回しでも良い。
付き合いが浅いのは錬金術師協会。
面識があるのはダイダロスさん。
通信してみる。
魔法系ギルドは国に従うのが精々らしい。
そもそも戦争関与に積極的でないのか。
世論さえ誘導出来れば何とか納まるか。
では魔術師ギルドも同じ対応で良い。
国の言う事を聞かなそうなのは。
神聖教会はどうか。
神聖教会は大司教アルディスさん。
忙しいか。取り次がれる。
神殿騎士団長アウローラさんが代わった。
魔王同士が揉めている。
それぐらいは認識していると思う。
今後、魔王の攻勢が弱まって。
その先の方針について、だ。
組織内での意見は割れるだろうと言う。
魔王討伐も気になるが。
難民増加も問題になっている。
あとは、末端の血気だの対抗心。
これを抑えられるかと。
また魔女中心に炊き出しでもやるかなあ。
対抗心を煽ればこちらに目を向けるか？
と、後になって、気になったのか。
アルディスさんも折り返し連絡をくれた。
炊き出しについては彼女も乗り気の様子。
日程についてはまたの機会に。
あと、物価高騰対策に関して。
少し面白い話も聞けた。
聖職は奇跡の御業でパンを出せるらしい。
麦角汚染で小麦の確保が難しい現状だが。
パン、パン粉までは手に入るという事か。
それはそれとして、国内世論は。
中立、かな。
ウォルト・ガーランド子爵。
クソ親父、ではなくて。
クソなダニエルのマトモな親父さん。
援軍を出す余裕なんてあるかと聞いてみる。
と、これにはやや否定的。
聞けば、軍事力を回復し切れていない。
先の魔王軍との戦いの後だ。
損害が残っているかな。
参戦した貴族領はどこも同じだろうと。
派兵の声があれば反対に動く様子。
それでも、気を利かせたのだろうか。
俺には援軍が必要なのかと聞かれ。
大丈夫。それなら俺も無理しません。
周りにも防戦を勧めておきましょう。
「あ、そっち終わった？」
振り返れば公主様はもう話が付いたのか。
アンヌやブランと談笑していた。
イーディス公主は外交中心で通話。
ヴィンフリード、リュドミラ側。
すぐに同調した様だ。
シャルロッテら弱小派閥は。
概ねリュドミラに追従。
エドヴァルドは派兵する状況でなし。
新女王アーデルハイトとも会見の約束。
その場で難民対策とか協議。
国力回復についても触れたい。
触れるが、浸透に１日２日掛ける話だ。
どう転ぶにせよ時間は掛かる。
その間に魔王様方の用事が済めば良い。
間に……済まなかったら。
後は小競り合いを続ける。
間を持たせる。
魔王軍も迎撃陣地を作ってはどうか。
それはもうやってる？ 流石。
「ん、順調そうかな？」
魔王様方も作戦会議が済んだのか、合流。
夕食に、うちの唐揚げ食いたいんだったか。
公主様、カシューさん、魔人姉妹。
魔王はウルリカと。
エリダラーダも来るのか。
ペーターの方は参加を遠慮。
ただ、転移で送っといてくださいと。
それじゃあ、一旦駐屯地に戻るか。
子供達も待っているだろう。
通信。進捗は……んん？
何かサンドラちゃんが頑張ってる？