黒鷲の旅団
27日目(24)連ねた剣先に未来を見据え
「こ、この……
体力オバケかっての……ぐえっ」
「しゅふふふふ♪
勝利、勝利ぃ〜!」
倒れたハイルヴィヒさん。
彼女を足蹴に、お行儀悪い。
勝利宣言しているのはサンドラちゃん。
えー、何がどうなったって?
俺に気付いたマリナ。
寄って来て説明してくれる。
俺が席を外した後、方針変更か。
魔法無し、組み稽古。
トーナメント戦を行っていた様だ。
で、今、最後に3位決定戦だと。
サンドラちゃん、勝利。3位入賞。
魔女だけど肉弾戦に強い。
1位、黒鷲団、弩騎兵隊長レーネ。
2位、黒獅子隊、総隊長ヴァルター。
3位、黒鷲団、魔女参謀サンドラちゃん。
4位、黒獅子隊、十人長ハイルヴィヒ。
5位、黒鷲団、弓騎兵副長フェドラ。
6位、銀狐隊、剣騎兵クロエ。
7位、黒鷲団、外縁隊小隊長ロジェ。
8位、黒鷲団、弓騎兵隊斥候エメリナ。
若いのに大したモンだとヴァルター隊長。
こちらこそ勉強になりましたとレーネ。
上位2名、至極健全なリスペクト。
サンドラちゃんも少し見習ってください。
ヘルヴィ、ヘレヴィは不参加か。
疲れたからと言うが、遠慮もあったかな。
ロジェ、7位入賞。
これは骸骨騎士団の指導が良かったか。
エメリナも黒獅子隊のカールを下して8位。
体幹と瞬発力の半人魚エメちゃん。
健闘したものだ。
マルカは? 火炎ブレスで反則負けだと。
しかし、あんまり悔しくなさそう。
デヘヘやっちったと笑っている。
今は剣より弓、というのもあるだろうか。
得意分野でなし。負けてもまあ良いか的な。
他方、悔しそうなのは銀狐隊のクロエ嬢。
クロエ・ギャレット。
騎士ギャレットの娘さん。
膝を抱いて、涙目。大丈夫か?
手加減されたと言って頬を膨らませる。
自信があった故に屈辱だったのだろうか。
最後の対戦相手はフェドラだったのか。
そんな気は無かったよと言うのだが。
半魔人が魔法無し。
その時点で、もうかなり手加減か。
「ああ、でも、良かったんすよ。
こういうトコで鼻っ柱を折っといて。
生きてんだから。
またリベンジすりゃあ良い。
良い目標が出来たじゃないすか。
次だ、次。なあ?」
イェルマインが肩を叩いて。
クロエ嬢は頷いて、涙を拭う。
フェドラと握手。次は負けないと。
感極まったフェドラはハグ。
またちょっと嫌そうな顔をされている。
アレは……胸か。ボリュームか。
顔に当たる豊満な物体。
クロエ嬢は迷惑そう。
と、他に悔しそうなのは……
「あ、お、お兄さ……
うわああああん!」
ユッタが泣きついて来た。
どうした。大丈夫か。
追い掛けて来たイェンナ曰く。
ユッタ、初戦敗退。
それもかなりの惨敗だったらしい。
レベルは随分と上がって来ただが。
ハーフ・ホビットの小さい身体。
体格差がどうにもならんかった様子。
「悔しい! 悔しいよ!
強くなりたい!」
「ユッタ。元気出して、ユッタ」
「仇取って来ようか?」
「自分で勝たなきゃ意味ないんだようう!」
ヘルヘレ姉妹が慰める甲斐も無く、号泣。
ユッタの落ち込みは深い様だ。
ユッタの言い分。
俺の騎士になったのだから、と。
かつての夢、公主近衛隊。
そこに今を置き換えているのだろう。
敗北は主君の顔に泥を塗る。
そんな風に思っている。
そう思って今まで鍛えて来て。
結果が出ない。悔しい。
俺のメンツなんぞ、大した物かね。
子供達の命には代えられない。
体面を気にしなくて良いと思うのだが。
子供達から言い出さずとも、外部は。
例えばもし、決闘を挑まれたら。
断り切れず一騎打ちになったら。
今のままで心配なのも確かだな。
ユッタに限らずだ。
人間種、それに近い子達。
獣人種でも突出した程の能力が無い場合。
魔法で優位に立てる子でも。
それを封じられたなら。
常に得意な条件など約束されていない。
勿論、得意を封じられない様に。
その立ち回りが一番だが。
近接戦闘の訓練も必要だろう。
ユッタ、ユッタ元気を出して。
これで終わりじゃない。
まだ途中経過だ。
みんな今のアンヌぐらいにする。
なって貰うんだからな。
アンヌも育つ、追い付けるか分からんが。
特訓しよう、特訓。
出来ない事は出来る様にする。
今日はまず、メシ食って良く休まないと。
きゅるるんとユッタの腹が鳴る。
またお腹で返事しちゃった。
恥ずかしいと言う声は少し笑っていて。
ちょっと元気が出ただろうか。
マリナ達が夕食の支度に走って行く。
よし、俺達も手伝おう。
今日は負けた。
が、死んだワケじゃない。
課題が見えたというだけだ。
ここからまた上がって行こう。