黒鷲の旅団
27日目(25)爆誕・魔法端末

『この! この!
 結構しぶといですわね!』

 深紅の機動兵器。
 可変機動兵器『レーヴァテインMk-3』。
 全長10mを超す巨体が足を振り上げて。
 悶える悪魔を繰り返し踏む。

 市民の惨状でも見て頭に血が上ったか?
 おーい、フィロ。聞こえていたら。
 なるべく生け捕りだ。技術部に回せよ?

 現実側。
 電脳社会における企業間抗争の只中。
 同盟企業ラドクリフ社から応援要請。

 うちの本社司令部がこれを了承。
 援軍を派遣する運びとなった。
 そこまでは、よくある話だ。

 機動兵器が先行、敵主戦力を蹂躙。
 然る後、俺達歩兵が生存者の救助だの。
 あるいは撃ち漏らしの掃除だのと。
 それ自体もまあ、よくある話なんだが。

 悪魔が出たと。
 ゲームでなく現実世界の方に。

 悪魔。あるいは悪魔の姿をした自律兵器。
 そう考えられなくもない。が、例の事件。
 ゲームのオフ会で怪物が出たアレの後だ。
 何かしら繋がりがあるのだろう。

 フィロが機動兵器で蹴りを入れる悪魔。
 姿というかデザイン。
 およそグレーターデーモン。
 ちょっと前に見た奴だなあ。
 そんな風に思ってしまう。

 グレーターデーモンが複数。
 とは言っても、全長3mから5m。
 10m級の機動兵器の相手にはならん。

 あと、敵の細かい方。
 レッサーデーモンみたいな奴。
 赤い肌の悪魔、チックな連中が多数だ。
 グレーターの周りに散開。
 兵士や市民を襲っている。

 通信映像からの情報。
 友軍は苦戦している様子。
 不可視の強力なシールドがある?
 銃弾が弾かれている。

「対物理障壁っすかね」

 映像を隣で見ていたバリー君。
 そりゃあ対魔法障壁ではないだろうが。

「魔法ダメージを与えるとか?
 対魔法障壁を張らせる。
 対物と同時展開出来ない。
 だから、物理が貫通」

 ヴィル、悪ノリになってないか。
 誰が魔法を使うんだ。誰が。

 携帯端末にメールが来た。
 見るとアンゼさん。
 解析情報らしい物をくれるのだが。
 見たら見たで少し困った。

『弱点属性:聖』と。
 聖っ、とか言われても。

 炎や水、電気とかならまだしも。
 薄汚れた現実世界。
 神聖性はどこにあるやら。

 ともあれ、いつものバンで現地に到着。
 友軍と合流して攻撃に加わる。

 障壁が厚いな。
 銃火器がマトモに徹らん。
 グラディスが刀で1体斬り伏せる。
 倒せない事も無いのか。

 しかし、数が多い。
 市民も襲われてるし。
 効率良く捌くには飛び道具が欲しい。

 車内から対物ライフルを……
 効かないか。
 もう少し質量のある弾頭が要る。
 大砲でも持って来ないと。
 フィロが踏みに来るまで持たせるか?
 でなければ、ホントに魔法でもあったら。

『ご主人ー? 何か困たかー』

 アンゼさんから直接通信が来た。
 顔を見て話したいと言う。
 物陰に身を隠しゲームサイトにアクセス。
 仲間のステータス画面、アンゼさんの所へ。
 目が合って、手を振って来る。

 何か困ってるか、だったな。
 いや、まあ、何とかするつもりだが。
 こっちの世界には魔法とか無くてだな。

 と、アンゼさん。一度、画面の外へ。
 少しして戻って来て……アンヌ?
 魔人デルフィアンヌの手を引いて現れた。

『もー、なにー?
 ねむいんだけどー』

『あんぬー、ご主人こまてる。
 ちょと手伝う』

『んんー? お兄? ふぁい……』

 え、ちょ……うお、危ねっ!

 画面の中のアンヌが手をかざす。
 俺は慌てて携帯端末を悪魔に向けた。
 端末から雷撃が爆ぜる。
 障壁を貫通され、悪魔が崩れ落ちる。

 魔法。とうとうこっちの世界に魔法が。
 端末越しに魔法が飛んで来てしまった。

『なんでも言って……やるからー』

 寝惚けた、半分寝てる様なアンヌ。
 どういう状態なんだろうか。

 花人のネットワークだろう。
 花人専用じゃなかったのか。
 やるって、コントロールは大丈夫なのか。

 しかし……他に手は無いのか。

 じゃあ、ちょっとの間、頼むぞ。
 アンヌの頭が縦に振られる。
 これも頷いているんだかいないんだか。

 端末をかざし、魔法を呼ぶ。
 呼ばれた魔法をアンヌが放つ。
 炎や雷を出して悪魔を焼き殺す。

 一部の悪魔が気が付いた。
 障壁の色を変える。
 あれは、と思い立ち、銃弾を放つ。
 貫通する。やはり魔法障壁か?
 使い分けて行けば何とかなりそうだ。

「何だ、アレ。新兵器か?」
「ちょっと魔法使ってねぇ?」
「いやいや、まさか」

 友軍もザワザワし始めている。
 動画なんぞ拡散されなきゃ良いが。

 まずは目先の問題を片付けるが。
 後で何と言って説明した物やら……



前へ黒鷲の旅団トップへ次へ