黒鷲の旅団
28日目(1)いつから居ました?
「ぎゃあああああああ!!
無理ですゴメンナサイイイイイ!!!」
え、何…………うぉわ!?
夜半過ぎ。屋敷の自室にて。
ジュス姉さんの絶叫に目を覚ました。
ドアをぶち破って。迷惑な。
ジュス姉さんが逃げて行く。
何が、と思い身体を起こして困惑。
俺は布団を剥がされて。
ズボンを降ろされていた。
ちょ、え……夜這っ……ってない。
怖気付いて逃げた? 的な?
なんちゃって痴女。
中身は奥手のジュス姉さん。
らしい様な、人騒がせな様な。
ドアを壊された上に丸出ではマズイ。
丁度誰かが通ったりしたらどうするんだ。
ズボンに手を伸ばし……背筋が凍る。
アンヌがベッドの上に両肘を付いていた。
「あー。しまっちゃう」
しまっちゃいますよ!
何まじまじと見てんの、お前ちゃんは。
「んー? うん…………うふふ?」
どういう反応なんだ、それは……
見ればアンヌ、寝間着姿。
もう寝ていたんじゃなかったのか。
姉さんについて来ちゃった?
戻って寝なさい。明日も早いんだから。
「うん……あのね。
さっき、お兄の夢見ちゃって。
ちょっと顔でも見……ふ、ふああ」
話している途中で欠伸。
分かった分かった、明日また話そう。
眉をひそめ、首を横に振るアンヌ。
少しだけ聞こう。どんな夢だったんだ?
「窓の向こうにお兄が居て、戦ってて。
あたしは隣に行きたいんだけど。
でも、窓の向こうには入って行けないの。
何でだろう、魔法だけ飛んでくんだけど。
お兄……会えなくなったりしない?」
うん? まあ、そう……そうだな。
そのハズだ。俺はそのつもりだよ。
言いながら、不安になった。
神が、運営が、命を作っては消す世界。
神に楯突いた者の末路はどうなるのか。
不興を買って消されたり、という事は。
いや、それなら魔王達が既に消されている。
一度作った命は簡単に消せないのか?
それも神人限定なのかもしれないが。
ああ、でも、キューブを降らせるんだ。
外部から削除ではない。
何か物理で潰す必要が……
「…………お兄?」
首を傾げるアンヌ。大丈夫だよ。
ダメな理由は1つ消えそうだ。
当分は大丈夫だろう。
聞いたアンヌ。
満足げに微笑んで、ごろん。
俺のベッドの上に横になってしまった。
アンヌちゃん? おーい?
早くも寝息を立てている。
安心して気でも緩んだか。
参ったが……まあ、良いか。
ちょっと目が覚めてしまった事でもある。
俺は散歩がてら、空き部屋でも探そう。
アンヌはこのままにして行く。
姉さんは見つけたらお説教かな。
ジュス姉さん……どうしてしまったのやら。
ここまで見て来た限りだが。
言動はともかく性根は奥手。
夜襲?を仕掛けるタイプでないと思ったが。
誰かに何か吹き込まれたんだろうか。
まあ、会って話してみるしかないか?
ともあれ、ドアは直して行きたい所だ。
姉さんが壊したドアを見る。
板の部分は無事。
しかし蝶番の所がぶっ飛んでいる。
修繕魔法で直せるかな。
ドア板を持ち上げる。
蝶番の所を当てて……
しまった。両手が塞がっている。
当てながら直したいが、見えん。
思念発動しようにも位置が分からん。
アンヌは寝ちゃってるし。
「あ、支えます」
ああ、すいません。フレ
…………うおぇああ!!?
いつの間にかのフレスさん。
フレスさんが来た方向が、部屋の中。
え、居た? いつから?
「え、あっ、大丈夫ですよ?
何も見ていませんから」
にこにこっと笑って言う。
そ、そう……ですか?
取り敢えずドアを直してしまおう。
フレスさんが浮遊魔法でドアを浮かせる。
用が済んで、明日またと。
ぱたぱたっと去って行くフレスさん。
これは……見られたのかなあ。
そもそも居なかったなら。
何かを見たって発想自体が無い、様な。
動揺してない様にも見えたが。
まあ、今それを考えても仕方がない。
適当な空き部屋を探して夜を明かそう。
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