黒鷲の旅団
28日目(3)大体、大隊
「じゃあ、こいつらねー。
私とハインたんの子供って事で」
「ちょ、ちょ、ちょおおー。
待て待て待て待て」
シャンタルの妄言にヘリヤの割り込み。
ホント何を言い出すかと思ったら。
東区、エノーラの酒場。
集まっていた新顔の孤児達。
小さい子がついシャンタルをママと呼んで。
気を良くしたのはシャンタルたん。
俺をパパに見立てて疑似夫婦ごっこの様相?
面倒を見て貰えるのは助かる。
俺が父親代わりなのも構わないが。
先に預かってる子はどうなんだ。
元奴隷兵のアイシェとエヴレンだったか。
そっちはヘリヤがママねとシャンタル。
ならよし!とヘリヤ。何だか適当だなあ。
えー……真面目な話を。
新人11名。割り振り。
魔力適性が見つかった女子4名。
ティネケ、アネシュカ、ネオラ、スタシア。
こちらは魔女協会で預かってくれる事に。
特に小さい子がスタシア。
魔法を得てから外に出られる。
それならその方が良い。
身体欠損があるのが男女3人。
ゼノ、マリレナ、ソーニャ。
時間経過から形成外科魔法も効かない。
義肢の手配をして、まずはリハビリ。
魔女協会の療養施設へ。生活費は出します。
あと……4人か。
男子。デルク、イラリオ。
女子。ドルセア、フリスティナ。
簡単に希望を聞く。
町人、商人の子だとデルク、ドルセア。
イラリオも、孤児は孤児だが。
しかし戦いには乗り気でない様子。
親の仇を取りたいとフリスティナ。
この子は戦闘職希望という事かな。
フリスティナはともかく、あとの3人。
装備を手配、最低限度のレベルを上げて。
通信と治癒魔法だけ覚えさせて。
あとは、まあ、選んでくれて良い。
安全な仕事、何なら農村の手伝いでも。
各孤児院からも仕事を探して貰っている。
戦う以外の仕事も提示出来る様になる。
段々にでも、戦わなくて良い様にする。
そうして行かないと。
フリスティナはロジェ達に合流させようか。
重点的に鍛えるなら本隊編入も良いが。
まずはレベルを上げて、適性を見よう。
仇討ち希望という事だったが。
自分でやるにせよ人を雇うにせよ。
まず自分が生き延びられんと始まらない。
新人魔女と療養が必要な者。
魔女協会へ。シャンタル達が引率。
あとの4人はユッタ達の案内で鍛冶屋へ。
居合わせた冒険者達が拍手で見送る。
朝食後に暇を持て余した様子の冒険者、と。
お前さんら、今日は仕事は休みかね。
しかも、いつもより混んでいる様な?
東区の酒場。
ここを拠点にしているガイゼル隊。
トール少年と魔物。
テイマーチームは普段通りとして。
いつもはギルドに居るリーンハルト達。
バリーやサナトス達もこちらに来ている。
「ああ、何かクランが来てるんすよ」
「何つったっけ。北風の?」
「雪風だよ。『雪風の大隊』って奴ら」
バリーとサナトス、ガイゼル隊のジノ。
クラン。パーティが複数集まった様な集団。
の、強いのが来て?
冒険者ギルドを占拠していて。
主立った仕事も連中が持って行ったのか。
そりゃあ暇も持て余すだろうか。
そいつらについて、聞いても?
「レベルも高いんだが、感じも悪くてよ。
仲間に入れて『やろうか』みたいな。
リーダー連中は澄ました顔してたけど。
手下どもを放置してる。容認って事だろ」
「わたくし達を一晩どうこう言って。
気持ち悪い。下品な人達ですわ、まったく」
肩を竦めるサナトスと。
仲間のステラお嬢様も不満げ。
ガラが悪いのか。
あんまり近付かない方が良いな。
「でも、何で『大隊』なんすかね?
ン百人も居なかったっすよ」
バリーの問い。大隊。
お前さんが知らないのはどうなんだ。
ン百人を知ってるだけマシか?
大隊。歩兵大隊なら数百から千人ぐらい。
中隊が集まって大隊に。
大隊が集まって連隊、旅団、師団にと。
大隊とは軍隊編成上の戦術単位を表すが。
大隊以上には、もう1つの側面がある。
『独立した活動が出来る』戦術単位、だ。
独立大隊、旅団、あるいは師団とか。
歴史上のテロリスト集団にも聞く呼称だ。
国軍の指揮に沿わない武装集団。
しかし国の為に云々と自称。そんな連中。
数百から千人。
そんなに居ないだろと思う場合もあるが。
気概か、後援者を含めての話なのか。
あるいは見栄を張る必要があったかな。
まあ、非公式の武装集団だ。
正規軍の規格に合わない事もあるだろう。
うちも6人で1小隊だしな。
ああ、そういえば。
前に六竜旅団というパーティを見たが。
あいつらはニュアンスが違うな。
どちらかと言えばトラベラーズ。
ブリゲイドではない。
実は数千人の末端だったなら分からんが。
軍隊の編成単位として『旅団』。
そう考えるのであれば。
旅行団体も『旅団』の字を当てるは微妙。
いや、でも、冒険者。
非正規の武装集団に違いは無いのか。
正規軍の規格に合わない事もあるのだろう。
それぞれ何千人と支持を受けている勇者?
かも知れんし。違うかも知れん。
「旦那んトコも旅団とか師団名乗ったら?」
バリー君。
それは件の大隊が気に食わないからか。
1個2個上を行ってやれと言わんばかり。
うちが旅団を名乗ったらブリゲイド寄り。
名乗ったら本当に数千人になりそうで怖い。
放って置けなくてつい面倒を見ているが。
一方で、増やしたいワケでもないんだよ。
さて、旅団じゃないけど黒鷲団。
俺達は暇してる場合じゃない。
次の現場に出向かないと。
拍手で見送る冒険者達……
お前さんら、今日ホント暇だね?
前へ
/黒鷲の旅団トップへ
/次へ
|