黒鷲の旅団
28日目(5)魔眼と僧服
「ぐはっ!」「ぐほ!」
「ぐおあああ!」
屈強な男達が宙を舞う。
ぶっ飛ばされて宙を舞う。
壁に叩き付けられる。
「ぐえ!」「ぐぶっ!」
「うごあああ!」
頑強な鉄槌が宙を舞う。
屈強な男を潰す。
潰して地面にめり込ませる。
「この程度ですか。
口ほどにもありませんね」
「おととい来やがれーって奴。
お分かりぃ?」
ぶっ飛ばしてるアウローラさん。
ぶっ潰してるアリスマリスさん。
「いいぞ、姉ちゃんやっちまえー!」
「そこだー! 行けー!」
「ここは応援しといてやるぜー!」
ギャラリーに混じって魔女達まで。
口々にシスター姿の2人を応援している。
えー、どういう状況だ。
戦ってるのは分かるが。
どうしてこうなった。
神殿騎士デフロットを見かけた。
話を聞いてみる。
曰く、有力なクラン……
噂の『雪風の大隊』か。
その下っ端が勧誘に来た。
仲間にしてやると無礼な口は勿論。
夜の相手でもさせようかと無謀の極み。
挙句、邪魔なら掃除してやると。
子供に剣を向けられて?
まあ、怒る。
見ていた市民にも嫌われる。
ぶっ飛ばされ呻いている男達。
冒険者。解析は金等級4。
白銀等級が8人。
それぞれステータス画面。
『雪風の大隊』の表記がある。
少しして、神殿兵や憲兵隊が駆けて来て。
アウローラさん、手振りで指示。
倒れている冒険者達の捕縛に掛かる。
「相対しろ」
ふと、若い男の声。
銀甲冑が無言で歩み出て来る。
倒れている連中の仲間か。
解析を試みる。名前ぐらいは見たい。
若い男。グレン・ホールズワース。
『雪風の大隊』のクラン長らしい。
通称は『竜殺のホールズワース』だと。
それと鎧甲冑が副長。
ディアドラ・シェリダン。
通称『雪風のシェリダン』……ん?
クラン名の由来は副長の通り名なのか。
ホールズワース、レベル65。
シェリダンが911と高い。
対するアウローラさんが800台。
アリスさんが72。
拮抗、やや押されている。
が、不意に姿を見せたアンヌ。
魔人デルフィアンヌ、レベル788。
シスター姿2人の方に並んで立つ。
「どういうつもりで」
「ふふん? ただのポイント稼ぎよ」
アンヌ、俺を振り返って小さく手を振る。
俺の好感度上げでも狙っているんだろうか。
ふと、グレン・ホールズワース。
怪しく目が光った。ピンクか赤紫色。
途端、アリスさんがフラフラと膝をつく。
何かされた。解析。魅了状態?
すかさずアウローラさんが何か奇跡の術。
立ち上がるアリスさん、忌々し気に言う。
「こいつ、魅了の魔眼だ!」
「なるほど。
竜殺の秘訣は魅了しての無力化ですか」
「くっ……何故だ。
何故、その2人には効かない?」
狼狽するのはホールズワース。
アンヌとアウローラさんは効かないのか。
「耐性だな。精神耐性。
高レベルはこいつで効かない。
あと、恋してると効き難いとか」
デフロットが説明して。聞こえたのか。
アンヌが振り返って俺に可愛くウインク。
アウローラさんまで俺にウインク。
好意的なのはともかく、恋て。
あんたらのは耐性寄りじゃないんかい。
「あーあー、色気付いちまって。
あんたのせいだぞ、は違うか。
十中八九あんたが原因だろうけど」
デフロット、苦笑い。
上司が丸くなったら部下は気楽か?
都合が良いとか思っているんだろう。
と、力では威圧し切れないと悟ってか。
ホールズワース、対話を試みる様相。
「俺達は『雪風の大隊』だ」
「高名な冒険者。それが何か。
犯罪を認可されているとでも?」
「そうじゃない。ただ、貴重な戦力だ。
ダンジョン攻略を前にしている。
手勢を逮捕されるのは困る。
俺達はS級ダンジョン攻略、偉業の為に」
「ではキチンと躾をしてください。
狼藉を働かなければ逮捕される事も無い。
大体、偉業といっても宝探しでしょう。
怪物退治屋の方がまだ市民の役に立つ。
金等級、白銀等級の、下郎ども、と。
ギルドは審査基準を見直すべきですね」
「……もういい。行け」
「貴方が去りなさい。
魅了を使うのは暴行相当ですよ?
今なら見逃して差し上げても良いですが」
アウローラさんがピシャリと言って。
舌打ちして去って行くホールズワース。
残った冒険者達は憲兵隊に繋がれて行く。
一件落着、かなあ。
剣呑は剣呑。
後で仕返しとか来なければ良いが。
まあ、他にどうすればとも思いつかんけど。
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