黒鷲の旅団
28日目(6)ごじじ、ぼべべべ?
「あ、貴方様には大変ごじ、ごじじを?」
「ゴジジをタママワワして!」
「た、た、たままままっ!」
……え、えーと?
何か感謝してるっぽいのは分かるんだが。
無理して難しい言葉を使わなくても。
アウローラさんが連れていた子供3人。
ジャンパオロ、コンチェッタ、デリツィア。
カシューさん経由で預けた元戦争捕虜。
その中でも特に、元奴隷身分の子。
平伏する。手をついて、地に頭を付ける。
分かったから。そこまでしないで良いから。
「ご慈悲を賜りまして、です。
帰ったらまたお勉強ですよ? ふふ」
優しげな気配のアウローラさん。
相変わらず目元は笑っていないけど。
氷の微笑、顔面硬直アウローラさん。
しかし声には感情が出ている気がする。
アウローラさん曰く、3人は供回り見習い。
神殿騎士候補として育てるらしい。
命令されないと決められない。
その様に育った子供達。
目を離せないと判断したのだろう。
子供達を連れているのは分かったとして。
ご来訪の目的は? 買い出しだという。
目的地がハミルトン爺さんの店?
子供達に調理器具を買う。
料理など教えたいとか。
あと、西区の商店が好きでないという。
理由が割り引き?
教会関係者だと割り引いてくれるから。
贈賄されているみたいで気持ちが悪いのか。
この人は大概真面目らしい。
と、ユッタが鍛冶屋から顔を出して。
支度は済んだ? 次は仕立て屋か。
探知。例の大隊はもう近くに居ない
それでもまあ、気を付けてな。
ユッタはハーイと返事をして。
しかし、はたと立ち止まる。
少し険しげな顔でアウローラさんを見る。
「うわ、教会だ!」
「ぴゃあー!」
そそくさと逃げて行く2人。
イェンナとカリマ。
無言で追従するヘルヴィとヘレヴィ。
「しっ、シスターさん」
「ど、どうもー」
おどおど頭を下げるノイエ、カーチャ。
続くローダやテクラも足早。
神聖教会の亜人種冷遇。
マイナさんを虐められた一件もある。
うちの子達は僧職への警戒が強い。
探知情報の共有もしている。
敵意が無いのも分かるだろうけど。
後からジルケが新人達を急かして来て。
最後尾はルーシャ。
と、頷き合って駆け出すユッタ。
脱落者無し、か。
安全確認は責任感のなせる業かな。
「うーん……何か嫌われてる。
ああ、先生が顔怖いかうぶべぼぼべ」
「神聖教会にも暗部という物があります。
貴女も聖女候補ですからね。
そういった部分も色々と学んで頂きますよ」
「ぼべっばばば、ばべべぶばばびぼ」
アリスさんの問いにアウローラさん。
しかし、その喋る途中。
アリスさんの口に指を突っ込んで。
そのまま喋るな。
何を言っているか分からん。
しかし、アリスさんが聖女候補だと。
聖女。とは。
聖人認定された女性だという。
有事の際には結界やら治癒で信徒を守る。
選ばれるのは名誉である。
地位も権限も付くと。
候補が本物になるには?
実績を重ねた上での試験が必要らしい。
それはそうか。
信徒を守る責務があるのだ。
有事に使えませんでしたでは困る。
推薦、贔屓目ぐらいはあるかも知れんが。
神託なんかで選ばれて候補にはなっても。
ハイ明日から聖女ね、とは行かない。
で、アウローラさんが先生役。
そういうのは先代聖女とかじゃないんだ?
「うちの大将は元聖女候補だったんだよ。
処女じゃなくなっぐべぼぼぼ!?」
今度はデフロットが口に指を突っ込まれた。
「余計な…………非処女はお嫌いですか?」
アウローラさん、俺に振り返る。
急にそんな事を聞かれても困るんだが。
俺はユニコーンの化身じゃないです。
「ユニ……? ふふ。それは結構。
では、買い物がありますので、これにて」
アウローラさんは子供達と鍛冶屋へ。
ついて行くアリスさんと子供達。
残ったのはデフロット。
で、何だっけ。
「聞くんだ。はは。まあ良いけど。
非処女は聖女になれないつってさ。
力は全然残ってんだけどな。
でも大将に落ち度は無いハズなんだ。
実績積んでる間に、さ。
さっきみたいな神人に目ぇ付けられて」
「デフ―? それ以上要らん事を言うと。
今度はアリスの靴とか舐めさせますよ?」
「ちょっと−! それ私何の罰ゲーム!」
「同情売り込んでポイント稼いでんすよー。
いっそ自分でアピールしろって。
まったく……そんじゃ、またなー」
店の内外で賑やかしく。
デフロットも店に入って行く。
こう大っぴらに言う。
気になるだの何だの。
冗談半分なんだろうとは思うが。
同情。まあ、しない事も無いか。
異世界人勇者の被害者が、ここにも、だ。
まあ、神聖教会の組織の特性上。
俺が魔女寄りなのに変わりは無いけど。
さて、俺も俺の用事を済ませよう。
仕立て屋に向かったユッタ達に通信。
城の方を見て戻って来るから。
戻ったら剣術指南書だ。
剣のギルドやらを探しに行こう。
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