黒鷲の旅団
28日目（７）清濁の狭間で

「おや。これはどうも、ご贔屓に」

　王城へ。門の前。
　すれ違ったのは奴隷商テルツァーニ。
　もうお帰りな辺り、代金は立て替え済みか。

　戦争捕虜引き取りの件。今日は多いですか。
　８人だと。戦況はまだ大人しい方かな。

　中庭に行く。
　公主と騎士達が集まっていて。
　それと、悪の一党からも３人。
　アルビオンと昨日の魔術師女子。
　あと鎧の男が１人。

「よっすー。おっはよーん」
「ああー、すまん。もう決めちまって」

　イーディス公主と騎士ギャレット。
　ん、決めたとは何ぞや？

　公主殿下も気を回してくれたらしい。
　身請けした子の引き取り先の請負。
　騎士団で分担して。助かります。
　身請け金だけでも出そう。

　まず小さい子が４人。

　マリージョゼとミリッツァ。
　侍女見習いへ。
　騎士団長クロイツァーが後見人。
　配置先は公主周り。

　アルヴァとラーシュの姉弟。
　こちらは騎士ギャレットが養子に。
　手足に欠損があり義肢を手配。
　後どうするにせよ、まずはリハビリだ。

　次いで、少し大きい子。
　シメオンが騎士トリストラムの従者に。
　イグナーツは騎士ヴォルフラムの。
　ジスレーヌは騎士ユールヒェンの従者。

　ローレンシアさんは既に従者が居る。
　今回はパス。

　と、今日は引き取ってくれたが、以降は。
　バルビエ夫人が孤児院増築の手配中。
　賛同する貴族もそこそこ居るらしい。
　見栄か同情か、この際は見栄でも良い。
　孤児の受け入れは少し楽になりそう。

　ただ、亜人種とか馴染めない子。
　支援の必要な子は出て来るかも知れん。
　俺も引き続き、気に掛けておこう。

　身請け金の支払い。
　健康６名と欠損あり２名。128万。
　これを立て替え分として公主に。
　公主は不承不承、これをアルビオンに。

「はいよ、毎度ありー。へっへっへ」
「ううーん、やっぱ納得いかないんだけど」
「まーまー、そこは黒鷲ちゃんとの約束でね」

　アルビオン、公主に軽口。
　公主は正規の値段だけ出していた様子。

　俺は倍値を出す約束だった。
　極力殺さずに、という慈悲の代価。
　加えて、連れて来る手間に掛かる駄賃だ。
　半分雇用関係みたいな物とも言える。

　正規の値段でも留保してくれた様だが。
　そこで終えたら、この関係も終了。
　その後の捕虜回収が出来なくなる。

　アルビオンは関係継続を確認しに？

「そぉーれもあるんだけどなー。
　１個聞いてみようと思ってさ。
　黒鷲ちゃんって性善説とか信じる方？」

　唐突に何ですか。哲学とか？

　なぜ自分達みたいなのと交流するのか？
　本当は善人だったとでも思うのかと。
　なるほど、同情だとすれば面白くは無いか。

　人の本質は善か悪か……
　現実は、そんな二元論ではないと思うなあ。
　完全に性善なら犯罪など起こるまいし。
　完全に性悪なら法の前にも自制しない。

　人間、善悪どちらにも染まり得る。
　よしんば善良だとしても。
　他人の為なら悪を成す奴は居る。
　俺だって、うちの子供達の為だったなら。
　他に方法が無ければ何をするやらだ。

　だから……今、悪党寄りだとして。
　先に手を汚してるってだけだろう。
　今どちらの方が手を汚しているのか。
　それだけ見て上だの下だの言えない。
　何か立場が違ったんだろう。

　社会に対する反発としての悪だとしたら。
　周りが悪党ばかりなら善を成すかもな。
　案外、俺もその手合いかも知れん。

　一般にＮＰＣの命が浪費されている。
　この流れに沿って歩くのが面白く無い。
　面白く無いだろう？
　みんなと同じ事やったって。

　アルビオンは少し笑って。
　俺の肩を叩いて。何度か頷いて。
　何か納得した様な顔で帰って行く。
　思うままの意見だったが。
　何か満足したのかな。

　それはそれとして。
　公主サイドと少し情報交換。

　騎士ギャレットから情報。
　剣術系ギルドの場所を聞いた。
　クロエ嬢、娘さんだったか。
　行きたいと言っていた様だ。
　一緒に連れて行って欲しいと頼まれた。

　アーデルハイト女王との会見やらは？
　向こうがゴタゴタしていて調整中らしい。
　今日返事が来るかも分からんのだと。

　あと、気になる情報が。
　ラングヤール女伯爵の婚約について？

　ラングヤール女伯爵は未亡人。
　夫の権限を引き継いで伯爵をやっている。
　現状、男系社会である。
　公主は例外的に立ち回っているけど。

　ラングヤール女伯爵が再婚した場合。
　夫が引き継いで伯爵となる。
　彼女は伯爵夫人になり得るワケだ。

　で、その伯爵位を狙う影。
　これが……大ガーランド伯？

　建前として反公主派の結束強化だが。
　ラングヤールを可愛い孫に嫁がせる。
　孫を伯爵に。息子の子爵より上にする。
　そういう狙いがあるらしい。

　この大ガーランドの孫。
　あのダニエルだろう。

　教えてくれたのは公主。
　俺とダニエルが険悪なのを知っている。
　しかし、情報提供元がラングヤール自身？
　相談を受けた？　乗り気ではないのか。
　まあ、ダニエルの良い噂も聞かんしなあ。

　俺も後で話を聞いてみたいが、先約。
　まずは剣術ギルドとやらを回って来よう。

　各隊に通信。一度屋敷に集合して再編する。
　今から外に出ると途中で昼メシだ。
　分担を決めてから動くとしよう。