黒鷲の旅団
28日目(8)ユッタあまあま

「お兄さーん。
 えへへへー、お兄さん〜」

 ああ、うん……ごめん。
 ユッタ、ホントごめん。

 ぐりんぐりん。
 熱烈に頭を擦り寄せて来るユッタ。
 普段らしからず、べたべた触って来る。
 甘えん坊さんモード。あまあまあまあま。

 どうしてこうなったか。
 原因は、俺の魅了魔法だった。

 昼食後、件の大隊について注意喚起をして。
 ボスが魅了の魔眼持ち。どう対応するか。

 他の相手に何か想いがある場合。
 抵抗力というか、魅了が効き難いと聞いた。
 恋とか、あるいは友情。忠誠心でも。
 どんな程度か試してみてという話になり……

 これ、俺が使っちゃダメだった。

 何か想いのある相手からの魅了。
 抵抗が働かず効果倍増らしく。
 ユッタには今、魅了状態。
 重度の魅了状態が発生している。

「まあ、ユッタでまだ良かったけど」

 口を尖らせるアンヌちゃん……ホントにね。
 説明の途中で試したのがいけなかった。
 安全確認の為、どうにも気が急いていた。

 ちなみに、ユッタで良かった、というのが。

 幸か不幸か、ユッタの性知識は少々歪。
 悪い男が女を襲う、という知識はある。
 が、一方で。愛のある男女がどうするのか。
 そういうのは全く分かってない。

 で、結果、魅了状態といっても。
 実質ただの熱烈な甘えん坊だ。
 オマセな子よりは混乱が軽くて済んだなと。

 まあ、この所、何か遠慮がちだったユッタ。
 この際、少し甘やかしてやっても良いか。

 問題は、魅了対策の方だな。

 関係性の深い相手が居る。
 他からの魅了が効き難いとして。
 それでも効き難いだけ。
 発症したら、どう対処するか。

「鎮静魔法、中和魔法、精神魔法の一部。
 あとは幻滅とか意気消沈の魔法でしょうか。
 応急処置としてスタン掛けるとか。
 薬品でも治療薬、中和剤などがあります。
 今度また本をお持ちしますよ」

 フレスさんから。ご協力助かります。
 にこにこにこっと笑うフレスさん。

 俺は何というか、少々気まずいんだが。
 見た所、特に気にしていない様子に見える。
 昨夜の件を引き摺っているのは俺だけか。
 いや、ジュス姉さんが居たんだった。
 状況的にどっちがマシなのやら。

 本日の魔法特許申請。
 新規申請は催涙魔法のみ。
 濃霧と、轟音魔法も既出らしい。

 売り上げの方は。魔法伝承料。

 まずS級が14件。
 上級魔女まで再生魔法を完備した模様。
 欠損治療の対応力が大幅に強化された。
 魔力消費や制限時間の問題があるにせよ。

 A級は71件、B級90件、C級44件。
 AからC級はあまり変わらない印象。
 件の大隊は? 特に買いに来ていない様子。
 女性陣の強化は重視していないのかな。
 他の魔法ギルドにコネがのあるかも。

 まあ、便宜を図る理由が無いのは良いか。
 不審な連中だ。別に近寄られたくもなし。

 出歩く時はみんな気を付ける様に。
 敵意は無くとも悪意はあるかも知れない。

 探知魔法のレベルが上がって、機能拡張。
 フィルタ機能みたいなのが付いている。
 ここまで必要がなかったが、試そう。

 クラン『雪風の大隊』メンバーを指定。
 探知魔法での色分けを別に……
 色は選べる様だが、何色にしよう。
 赤寄りだと有事の際に紛らわしくなる。
 少々難だな。

「ピンクは? すけべピンク」

 ティルアちゃん、すけべピンクって何色だ?
 普通にピンクで良いか。薄めのピンクで。

「薄らすけべピンクだにゃ」

 ジェマちゃん、それ完全に悪口だね?
 心の中でどう呼んでも良いけれども。
 外で零すなよ? 睨まれるかも分からんし。

 外を見に行ったチームの報告。
 コドレアのチーム。
 ちょっと寒いとの声あり。
 トランシルヴァニアは高地だからな。
 後で衣類や毛布を手配したい。

 トゥルチャのお客さん。
 やはりハンナ達だった。

 無茶な要求をして来ない分には良い。
 成り行き任せで。
 よく食うのも雇用費と思えば高くは無い。
 あれも魔人だ。
 そこらの魔物より強いだろう。

 この後の予定は、3チームに。
 一方は剣士系ギルドを見に行く。
 俺とユッタ。銀狐隊からクロエ嬢が志願。

 あと俺からの指名。
 マリナとペトリナ。

 2人は特性の少ない人間種。
 鍛えたい、のが1つと。

 レーネ、フェドラの自制。
 今日は引率重視で慎重に。
 第1弩兵隊は隊長が。
 第1弓兵隊は副長が引率する。

 気まずげなジュス姉さん。
 魔物隊とコドレアへ。
 駐屯地の施設建設を進めて下さい。

 残りのチームは新人のレベル上げ。
 東門からトゥルチャへ向かって下さい。
 アンヌとサンドラが居る。
 指揮を分担をしても良いか。

「お兄さ…………あっ、あれ? えへへ?」

 不意にユッタ、デレデレが照れ照れに。
 少し魅了が治まって来たかな。
 よしよし、可愛い可愛い。撫でこ撫でこ。
 お出かけ準備しましょう。



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