黒鷲の旅団
28日目(9)方や緩慢、方や軽率

「何か、ガッカリだよう」

 不満げに言うマリナ。同感だ。
 俺も正直、期待外れと言わざるを得ない。

 騎士ギャレットから場所を聞いていて。
 まず寄ったのが『剣聖ギルド』。

 ここの支部長ら曰く。
 自分達はエリート集団だとか云々。
 要は、もう強い奴しか仲間に入れない。
 子供の遊び場ではないと断られた。
 俺だけ誘われて、逆に断ったが。

 少し聞いた話だが、ギルド対抗試合?
 貴族や何かの前で剣術を披露する。
 上位入賞で箔も付く。賞金も入る。
 貴族の指南など依頼も増えるという。

 組織運営上、資金云々は外せない。
 強い剣士を求めるのも分かる。
 が、子供達の育成に協力的ではない。

 次いで『剣王会』とやらへ。
 こちらも方針は遠からず。
 見込みの薄い者は入れたくない様子。
 ただ、提示された理由が少し違った。

 先の魔王軍襲来。
 街は大きな損害を受けた。
 強い者がより強くならなくては。
 そして市民を守るべきだという。
 まずは強い剣士を育てたいのだと。

 しかし……その、まず強い者。
 それがもう、魔王軍に敵っていない。
 焼け石に水ではあるまいか。
 市民にも自衛力を、とも思うが。

 まあ、所詮は部外者だ。
 組織の方針に口は出すまい。
 強者だけでも対抗出来る様に。
 それはそれで必要だ。

 と、いずれにせよ。
 現状、初心者お断りといった雰囲気。
 レーネとかは入れたのかも知れんが。
 伸び悩む子を育ててくれそうにない。
 ユッタのほっぺがプクプクしてる。
 クロエ嬢も子供扱いされて不満げ。

 不満だろうが……引き下がろう。
 次だ、次。

 えー、次。次は『剣豪組合』だと。
 ギャレットに貰った地図を辿って行く。
 ちょっと遠い。
 街の北から今度は南だ。

「もう、レーネちゃん達に習うのは?」

 道すがらのペトリナちゃん。
 強い子達で弱い子のお手本に。
 しかし、彼女らの成長を妨げないか。
 強い子は強い子で育って欲しい。

「そっかー」
「目標がアンヌちゃんだもんね」

 頷くペトちゃんにユッタが補足して。
 まあ、教える事で気付く事もある。
 アドバイスぐらい貰っても良いかな。

「アンヌちゃんって?」
「角生えた子」
「レーネさんより強いの?」
「強いんだよー」

 ユッタとクロエ嬢が交流している。
 剣の腕では及ばないユッタではあるが。
 強くなりたい同盟、といった所かな。

 他方、ペトリナはマリナと談笑。
 料理の事を聞いていて。
 話に花を咲かせる子供達。平和。

「あっ、どうもー」

 途中、ケンタウロスお姉さんと遭遇。
 牽引する荷車に小包が複数。
 配達屋は繁盛している様だ。

 名前はベリンダさんだっけか。
 呼び止めて聞く。
 他の都市への仕事は。
 トゥルチャ行きだけは大丈夫だと。
 ……だけは、って?

 どうやら街道沿いの魔物退治。
 積極的なのは俺の所だけらしい。

 主にブカレスト発。
 東はトゥルチャと行ったり来たり。
 結果的に、この区間だけ魔物が減る。
 闇の気配が払われて。
 逆に、他の区間は魔物が多いまま。

 魔王軍襲来の影響だな。
 中小規模の集落が蹂躙された。
 各地に闇の気配が少なからず。

 しかし、冒険者は。
 総出で魔物退治を……ではない?
 神人達はどうしたか。
 次はダンジョン攻略との声が高い?
 魔王軍との停戦。
 一段落したと見たのだろうか。
 戦争はもう良い、次はダンジョンだと。

 このダンジョン攻略に向けて。
 有力な唯人がスカウトされている。
 魔物退治の人手が足りなくなったと。

 ……雪風の大隊は?
 クエストを請けているのでは?

「それが全然動こうとしないんですって。
 依頼を請けるだけ請けといて」

 片付けてダンジョンに行くのではない?
 だとすれば、依頼独占は手段だ。
 強い人をスカウトしたいから。

 依頼が無い。
 冒険者が外に出ない状態。
 これを意図的に作る為だ。
 冒険者を街に留めて吟味する。
 使えそうな奴に声を掛ける。

 そのスカウトが済んだなら。
 依頼なんか破棄する気かも知れん。
 策士といえば策士だろうが、迷惑な。

 そうなると、酒場のサナトス達。
 依頼破棄を見越しての待機か。

 ちなみに、安全でない方面。
 配達屋の配達はそれ自体が停止。
 危険に突っ込む冒険者とは違う様相。
 従業員を大事にするのは良い会社。

 ありがとう。参考になったよ。
 ベリンダさんを見送って少し歩く。
『剣豪組合』とやらは、どこだ。
 地図で見た限り、この辺だったか?

「あっ」

 あ? げ、しまった。

 いつの間にか『剣豪組合』の施設前。
 その入口に見知った女剣士が2人。

 エトワール。
 スティグマイトの所の女剣士。

 フィリジア。
 アリスさんと組んでたサムライ魔術師。

 2人共、ここの所属だったのか。

 フィリジアはともかくエトワール。
 前に勝負を挑まれて俺が逃げた奴。
 俺を見つけてニヤリ顔だ。
 案の定、剣を抜いて迫って来る。
 勝負しに来たんじゃないってば。

 また逃げようかと思ったが。
 クロエ嬢が前に出る。
 代わりに迎え撃つつもりで?
 しかし、腕力から足りるまい。

 まあ、修行に来て街巡りばかりでもな。
 仕方がない。クロエ、下がりなさい。
 そこの軽率剣士の相手は俺がしよう。



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