黒鷲の旅団
28日目(10)キンキン脳筋?
「うっ!?」
初手は野太刀。
音速剣・居合い横一文字。
ギリギリ射程外だが、知覚したか。
勇み来るエトワールの足が止まった。
「ちょ、待っ!」
待たない。待ちません。
あんたの売ったケンカだ。対応しろ。
武器変更はショートレンジ。
短剣クリスと小太刀の二刀。
縮地で飛び込んで奇襲に掛かる。
腕を伸ばして剣を振る距離を取らせない。
小太刀は左。逆手に握ってガードに。
腕の内側へ踏みむ。
相手の利き手を阻害する。
クリスは細かく突きを4連。
深くは刺さないにせよ雷魔法付与。
当たったのは痺れで分かるだろう。
「くっ、まだだ!」
まだだ、じゃねーだろうよ。
これで実戦なら死んだか致命傷だ。
もう少し付き合ってやるけれども。
エトワールが下がる。
得意な距離に引き込もうとしている。
だから俺も合わせて下がる。
更に開いて刀が届かなくなる。
下がりながら投擲。短剣類から小太刀。
バーゼラルド、クリス。
更にハンドアックス、ラウンドシールド。
ストレージから、りんご、カボチャ。
ポーションの瓶。
短剣を刀で弾いていたエトワールが怯む。
急に変な物が飛んで来て焦ったか。
それでも弾く。
相応の鍛錬は積んでいると見える。
カボチャも真っ二つだ。
刀の性能も良さげだが。
最後に小麦粉の袋を投げる。斬られる。
飛んで来れば斬るのはもう条件反射か。
良いんだか悪いんだか。
「ぶっ!?」
拡散する小麦粉。
煙状に広がって、彼女の周囲が真っ白に。
武器変更、長刀クト・ド・ブレシェ。
足を払う。峰側だけど。
脛を打たれてエトワールが転げ回る。
「目があっ! 足が、おああああ!
ひ、卑怯なああああ!」
卑怯。攻撃魔法1つ使ってないんだが。
一体どういう勝負を想像していたんだ。
「こいつ打ち合いがしたいんだよ。
刀でこう、キンキンキンって」
見ていたフィリジアさんの言。
それ、ほぼ同じ武器でないと難しくない?
何しろカボチャも真っ二つの刀である。
恐らく俺の刀よりは良い刀だ。
そして東洋刀。刀。それなりに値が張る。
折られると分かっていて当てに行くかなあ。
その、キンキン?がやりたかったら。
同じ流派の同レベル帯でも探したら。
「それがこいつー。
ギルドでも連戦連敗中やっててさー。
似た様な脳筋相手だと善戦するんだけど。
頭を使う相手だと、すぐボロ負けする」
「だ、だって……頭使いたくないぃ……」
何をそんなに頑なに。
受験勉強が嫌になった学生じゃあるまいし。
えー、つまり?
誰かに勝ってスッキリしたかった?
だけでなく、ギルドに査定がある様だ。
何勝しろだとか。
達成しないと上に行けないとか。
涙目で、悔しげに唇を噛むエトワール。
頭は頭で使った方が良いと思うんだが。
あー、じゃあ、もう、木刀。
一本ずつ入れよう。
一勝一敗って事にしてやるから。
暫くで良いから、絡んで来るなよ?
「か、かたじけないっ! ですっ!」
土下座するエトワールは大袈裟。
良いから構えなさいな。
木刀を2本取り出して、1本投げ渡す。
先に一勝取りに行く。陣風剣。
縮地の要領で、しかし立ち止まらず。
斬りながら相手の向こうへ抜ける。
――んがふ!
斬り抜けようという所。
反射的に側頭部を打たれた。
目が付いて来た様でも無いが。
反射と直感か。
相打ちかと聞かれ、そっちの勝ちで良い。
俺も胴に当てたが、頭の方が致命だ。
先の一戦もある。仕切り直しは必要無い。
一勝一敗。お終い。
ホント……暫くで良い。
絡んで来るなよ?
あとお勉強も頑張りなさいよ?
俺は俺で勉強になった。
迎撃態勢の剣士に斬り込むのは危険だ。
勉強といえば、そうだ。指導は。
ギルド受付に聞く。入会資格……
やっぱり子供はダメですか。
この街の剣術系ギルド。
その現在の傾向として。
養成機関というより強者の集まりかな。
指南を受けるのは依頼者側だと。
ひとまず『初級剣術指南書』を購入。
指導依頼は、一旦保留。
もう少し行き詰まったら考えよう。
帰るよー、と振り返って。
目をキラキラさせているユッタとクロエ。
何か見るべき物があったなら何よりだが。
まずは帰るよー。
他の子達と合流しよう。
特訓の方針とか考えないと。
前へ
/黒鷲の旅団トップへ
/次へ
|