黒鷲の旅団
28日目(13)そんな大層なモンじゃない

「ぎゃああ!
 ワームの化け物おおぉぉ!!」

「おぐろぼべぼぼ!!?」

 どーん、ごろごろごろごろ。
 ワームって何だ。
 何かカオスな事になっている。

 コドレアの駐屯地近傍。
 到着するや否や。
 ジュス姉さんのパンチ。
 殴られて転がって行くクリム何某。
 クリム何某、何故かズボンを降ろしていて。

「ぎゃはははは!」
「ひーひひひ! ウケるわー!」

 ヘリヤとシャンタル。
 げらげら笑い転げている。

 どうしてこうなった……?

 どうもクリム何某。
 ジュス姉さんは好色家だと思って。
 いや、恋愛熟練者はフリ。
 ホントの中身はペーペーなんだが。

 興味を引こうとズボンを降ろしたのか?
 まあ、何というか……必死だなあ。

「それでハインたんはどうしたのさ。
 ジュスちゃん押し倒す気になった?」

「ふぇっ!?
 ちょちょちょまままま待って待って!?
 そっちの化け物よりかはマシだけど!?」

「なー! テメェ!
 やっぱ姐さんにチョッカイ出してんな!」

 シャンタルたん、違うから。
 ジュス姉さん、化け物て。
 クリムさん、何もしてない逃げられとる。

「おっしゃあ、勝ってるぅ!
 姐さーん!」

「ぎゃああああ!
 出したままこっち来んな!」

 どーん、ごろごろごろごろ。
 またぶっ飛ばされている。
 止める間も無く暴走して爆発すんな。

 いい年して何をやっているんだ。
 いや、魔人って長命種だ。
 言い換えれば成長が遅い。
 魔人の倫理観って子供みたいなモンか?

 通信。ハンナちゃん。
 かくかくしかじか。

『ぶー! 破廉恥なのです!
 アホ兄と一緒にしないで欲しいのです。
 あと授業中! 邪魔しないで下さい!』

 状況を説明したら怒られてしまった。
 真面目に魔女授業を受けている様だ。

『何、何? ハレンチって?』

 横で聞いてたのか、アンヌから通信が。
 こっちは真面目に授業受けてないな?
 アンヌちゃん、かくかくしかじか。

『ぶーくっくっく!
 ふふはははは!』

『ちょっとー!
 真面目にやりなさいですよ!』

『ごめんごめん!
 終わってから終わってから』

 ハンナとアンヌ。
 一応友好的か。怒られてるけど。

 力の弱い方に注意されてる。
 強い方がそれに従っている。
 威張ったり萎縮したりしていない。
 その友好関係を維持出来ると良いな。

 それはそれとして。本題に掛かろう。
 と思ったが、公子はまだ来ていないのか。
 通信で事前に同意は得ているが。

 駐屯地の視察という名目で来た俺。
 を、調査しに来た名目だ。
 ラングヤール女伯爵が参陣。
 ここにヴィンフリード公子をお招きと。
 まあ、アリバイ工作みたいな物だな。

 女伯爵と伯爵の孫、
 その婚約を、解消に持って行く。
 そのお膳立てとして、未婚の公子から。
 ラングヤール女史に交際を申し込む。
 これ自体、かなり唐突な話だ。
 せめて出会っていた事実を作りたい。

 シュテルン第1公子ヴィンフリード。
 公王の後継者たる彼だが。

 これまで嫁が居なかった。

 これは完全に戦略上の都合だろう。
 第2公子のディートリッヒを見れば分かる。
 魔王軍との同盟の為に魔人の嫁を貰った。

 婚姻同盟を是とするシュテルン公国。
 ここで第1子が引き合いになってない。
 同盟組んで侵略したら、次は統治だ。
 服従させた国の姫を、公子の嫁にする。

 反乱分子にしてみれば、姫君が人質。
 忠義の反乱でも姫の立場を危うくする。
 おかしな真似をし難くなるワケだ。
 外部の国々にも円満だとアピール出来る。

 服従させた国の姫……と考えて。
 例えばイーディスか。
 実際、負けなかったけど。
 何年も戦っていた様な話は聞いた。

 ヴィン兄さんの年が24歳らしい。
 中世相当の世界だぞ。
 公王の後継で、未婚。
 どうにも出遅れている感がある。

 イーディスが想定以上に粘ったか。
 公王様の計画は幾らも狂っただろう。

 あとはラングヤール女史が30過ぎと。
 加えて未亡人。子連れ。
 この辺、どうなんだろう、世間的に。
 近現代では良くても中世だぞ。
 周辺貴族から反対意見も出るだろうか。
 その辺の対策は考えなきゃならん。

 婚約……破棄させたいなあ。

 俺から見てラングヤール女史。
 そこまで情は無かった。
 単純に、ダニエルの嫌がらせになればと。

 ただ、子供の未来とか考えてしまうと。
 あれが父親で良いとは思えん。
 血も繋がらない、粗暴な。
 それこそ悪い冒険者の見本。

 ラングヤールの子供。
 8歳の娘と5歳の息子だと。
 ダニエルは娘にも変な目を向けて来たとか。
 そこら辺でコイツ嫌だと判断したらしい。

 婚約破棄させてやりたいなあ。

 と、ぼんやり考えていると。
 遠目に馬車と騎兵の一団。
 公子達かな。
 探知情報がゴチャってて分からんが。
 騎兵の中に黒獅子隊も居るっぽい。

 ラングヤール女史は……
 子供らと駐屯地の見物か。
 ジュス姉さん、呼んで来て。
 シャンヘリは公子の誘導を。

 あと、クリムはいい加減ズボン上げれ。



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