黒鷲の旅団
28日目(14)表工作、裏工作

「ここがねー、何か勉強する部屋、的な?」
「あら、良いじゃない。学び舎があるのね」

 予定外に親しげな2人。
 ジュス姉さんとバルビエ伯爵夫人。

 夫人は女伯爵について来ていたのだが。
 あとラングヤール女史の子供さん2人。
 ついでにシャンヘリコンビとクリム何某。
 駐屯地の施設を見て回っている。

 工作大好き創造の魔人ジュスティアーヌ。
 自分の作品の披露。得意げだ。

 他方、ラングヤール女伯爵。
 今はヴィンフリードと2人。
 護衛に遠巻きに見守られつつ談話中。

 この、護衛。
 黒獅子隊や公子、女伯爵の部下達。
 後で目撃者として機能して貰う。
 口裏を合わせるでもなく目撃者として。

 意図は公子にも伝えてある。
 大丈夫そう、かな。
 銃のスコープを外して覗いてみる。
 笑っている。
 それっぽく振舞って見える。
 周囲に仲睦まじげなポーズ。
 これを周囲に見せておいて……

 ポーズ……だよな?
 凄く自然に仲良さげ。

 あの2人が本当にくっついたとして。
 それで俺が何か困るワケじゃないか。
 結婚まで行って、挙式……とかな。
 子供達は見たがるだろうかな。

 いずれにせよ。
 後は手紙でも書いて貰って。
 イーディス公主経由。
 その婚約ちょっと待った、だ。

 最悪、領地は取られても良い。
 あんまり良くないけど最悪の場合。
 とにかく婚約を破棄だ。
 ヴィンフリード領に逃げ込む。
 子供の安全と、家財の幾らかは残せる。

 子供さ……うおう!?
 振り返ったら丁度俺に手を伸ばしていた。
 急に振り返ってビクッとさせてしまった。

 子供さん。
 姉カリーナ、弟エーミール。
 何かご用で……おや。

 目が合うと2人、パタパタと逃げて行く。
 人見知りするタイプかな。
 バルビエ夫人の後ろに隠れてしまった。

 ジュス姉さん、間に入って通訳。
 遊びに来たいと言っている?

 意見調整が要るかな。
 孤児や路地裏キッズが貴族をどう思うか。

 ああ、でも。
 バートやルパートも貴族の子だし。
 先入観だけで揉めるとも限らんのか。
 護衛任務の練習だと言い包めても良い。
 悪ガキ共も冒険者の練習はしたいだろう。

 あとの問題は、泊ろうにもベッドがまだ。

「お、おおっし! 任せてー!」

 作れる……でなく?
 作った事は無いけど作りたい?
 本職に作り方を教わった方が良くないか。
 村で聞いてみると言って走って行く。
 村に家具職人が居るか分からんけれども。

「良い娘が居るんじゃない。
 元気だし子供好きそうだし。
 きっといい奥さんになるわねえ」

 ジュスを見送るバルビエ夫人。
 さては、この人。
 俺と姉さんをくっつけようとしてるな?

 バルビエ夫人の懸念事項。
 俺の女性関係。
 女性関係がまるで無いのが不安。
 子供達を対象と見ていないか、だ。
 大人の女に興味を向けさせたい。
 と、思われる。

 しかし本当にそんな悪党なら。
 世の中、所帯を持った裏で。
 そういう奴も居るのだろう。
 結婚させれば済む物でもない気がする。

 とは言え。
 子供達の為に男を疑ってくれる人、だ。
 お節介夫人が悪人でないのも分かる。

 しかし、俺の結婚か。
 どうなんだろうな。
 時勢がこうでなかったなら。
 時勢が平穏で子供達に優しかったなら。

 子供達に母さんが欲しいと言われたら。
 俺は誰か口説いて結婚していただろうか。

 誰とくっついても、出来る限り幸せにする。
 俺自身も、ある程度は幸せになるのだろう。
 例えば、そこで思い出し笑いしてる魔女ら。
 嫁にしたなら良い嫁なんだろうなとは思う。

 ただ、この時世だ。
 戦乱と差別が子供達を脅かしている。

 ならばこの時、俺の嫁が誰だったなら。
 誰と結婚したら一番、子供達の得になるか。
 他の努力で代替できない条件は……と。
 なまじ貴族になったのもあって。
 どうも考えてしまう。

 ジュス姉さん個人が悪いワケではないが。
 あちらが嫁なら義父が魔王になる。
 せめて魔王軍が人類側と和睦しないと。
 子供達の将来に影を落としそうであり。

 逆に、神聖教会側に寄ったりしたら。
 魔王軍と完全敵対する。
 侵略に晒されるワケで。
 俺に魔人の姉さんらと敵対する戦力は無い。

 寄らなきゃ寄らないで亜人種差別が残る。
 差別を止めるには、どうする。
 差別する側の意識を変えたいが。
 対立一辺倒でも難しい。
 神聖教会の協力も得たい。

 せめて戦乱か差別か。
 どっちかだけでも納まってくれたらな。
 納まる目途でも立たないと。

 あるいは、まともな恋愛感情があったら。
 そこを起点に切り開く物かも知れん。

 ただ、俺に恋愛感情は……うーん。
 そこら辺、死んでるみたいなモンだな。

 ふと、恨めしげなクリムと目が合って。
 姉さんが誰を選ぶかは知らないが。
 お前さんだったら、大事に……

「い、言われるまでも、ねえしっ?」

 そうかい。
 お前さんもその辺は良い奴なのかも知れん。

 そう言えば公子と女伯爵はどうしたか。
 振り返れば、女伯爵が公子を押し倒そうと。

 ちょ、おまっっ、ドリル!



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