黒鷲の旅団
28日目(15)胸に刺さったドリルが抜けない?
「ど……どり?」
すいません、そこは忘れて下さい。
思わずドリルとか口走ってしまった。
ドリルというか巻いている髪。
ラングヤール女伯爵の後ろ髪。
下の方、何本かに分けてカールしている。
何て言うんだ、あの髪型。
上まで巻いてない緩いドリルみたいな。
それはそうと、ドリ……
じゃなく、女伯爵。
公子を押し倒そうとドタバタ。
「で、殿下、ご無事で?」
「え、えっ、逮捕? しないと?」
護衛役の騎士達も戸惑っている。
公子への狼藉、このまま逮捕も困る。
状況を説明せざるを得ない。
ラングヤール女伯爵は婚約破棄したい。
が、相手が格上の貴族の孫。
より上の公子の協力を求めた。
言い寄った形で向こうを破談にする。
その前振りが今の出会い。
ラングヤールが暴走したのは温度差か。
切り上げようとした公子。
今日はこんなモンだろうと。
対して彼女には危機感があった。
今日にも話を固めないと子供達が危ない。
何か既成事実でも作ろうとした様子。
既成……キスしようとしただけ?
焦った公子、引っ繰り返った。
形だけ見ると押し倒したみたいに。
しかし、公子から言い寄った、と。
そういうテイにしないと。
「あ、そっ、そうでした!」
しっかりしてくださいよ……
公子の方は大丈夫ですか。
幾分取り乱した様にも見えるが。
「え、あ、嫌とか嫌いとかでは。
じゃなくて。驚いただけだよ。
まだちょっとドキドキしてる。
あはは。これも恋なのかな」
それは唯の動悸じゃないかなあ……
「あははは。
本当に好きになったらどうしようか」
この人は本気なのか冗談なのか。
そこはもう、ご自由にして下さい。
護衛達、ガヤガヤ。
盛り立てないと、とか言っている。
自然に振る舞って欲しかったんだがな。
大根が役者を始めるとボロが出る。
まあ、起きてしまった事は仕方ない。
「おーい!」
呼ぶ声に振り返る、ジュス姉さん。
ロジェ達も一緒。
グンターやジョゼフィン達も。
と、おや? 孤児院の。
「すいません、お世話になれますか」
「ご、ご慈悲を、どうか」
北区の孤児院の人達。
フォード神父、シスター・セルマ。
南区からメスナー神父。
シスター・ブランシュも。
ご慈悲とは、何かありましたか。
聞けば、件の雪風の大隊。
孤児達に声を掛けていたとかで。
あわや連れて行かれる所だったと。
それ絶対、使い捨て目的だろう。
ダンジョンに連れて行かれる。
罠とか踏まされる所だ。
シスター・ローラもそう言っていた?
西区の孤児院は神聖教会の付属施設。
東区は魔女協会のお膝元。
しかし、北と南は手薄になる。
警備を回したとして。
相手は金銀等級の冒険者。
生半可な力では、やり込められる。
避難所が欲しい。
で、こちらを頼って来たワケだ。
避難受け入れ。
宿舎が足りないだろうか。
急ぎ施設を増設します。
ジュス姉さんには建設を急いで貰う。
ベッドやらは街で探して来よう。
魔女協会に通信。
東区の孤児院の警備を……
もうやってる? 助かります。
騎士団にも巡回の強化を頼みたい所だが。
ついでに公子の手紙を持って行くか。
公子は手紙を書けまし……書いてる途中?
ちらと見る。何だか長文だ。
待ってという。熱心。頭を捻っている。
「いや、ほら。
もっともらしい事を書かないと」
それはまあ、そうなんですが。
照れた様に笑うヴィンフリード公子。
護衛の騎士マクシーネさんに聞く。
公子って年上好みだったりします?
「え、いや、どうでしょう。
ああ、でも。そういえば。
親しかったメイドは年上でしたね」
これ、ホントに脈アリなのだろうか。
射止めていたのか、あのドリルは。
振り返れば、ラングヤール女史。
彼女もどこか照れ照れと。
まあ……繰り返す様だが。
2人が本当にくっついたとして。
それで俺が何か困るワケじゃない。
ここは生暖かく見守る事にしておこう。
と、お熱い?2人は良いとして。
より気がかりなのは冒険者。
有力クランの横暴。
冒険者ギルドは何やってんだろうな。
気の弱い支部長1人に期待しないが。
大陸全体にも渡る組織だろう。
規則で取り締まれないのか。黙認か。
推奨しているとでも言うのか。
知らない所でも子供が攫われていないか。
ギルドも一度様子を見に行ってみようか。
……書けました? まだかーい。
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