黒鷲の旅団
28日目(16)ギルド閉店中
「は? 誰だぁ、お前」
ガラの悪そうな男に声を掛けられた。
ここは冒険者ギルドだと思ったんだがな。
いつから一見様はお断りになったんだ?
家具屋を探してブカレストへ戻る。
途中、冒険差ギルドに立ち寄って。
しかし中は、件の大隊により占領状態か。
ギルドの建物として機能していない。
待合所は武装した男達で埋まっている。
受付は半裸に剥かれて酌をさせられて。
目が死んでるのは魅了状態なんだろう。
支部長は……柱に縛られ気絶か。
顔に青アザがある。
この有様が狼藉でなくて何だろう。
しかし真っ向からの対立も避けたい。
これ全部相手に戦っては生き残れまい。
用事も済ませなきゃならん。
屋内を見渡していると。
脳内に被解析のアラーム。
開示を承諾。承諾しつつ。
こちらも探知と解析を展開する。
「おう、志願者か?」
「ふうん? 掘り出し物じゃないか?」
声を掛けて来た2人組。
どうやら幹部クラスだ。
大男が剣士。
『岩斬り』アルフ・ヘーゼルダイン。
痩せた魔術師。
『業火』バーナビー・ロングフェロー。
あいにくだが、俺は参加志願じゃない。
依頼人として来たんだ。
「そいつぁ、こちらもあいにくだが。
ギルドは今ちょっと、休業中でな」
「まーまー。
聞くだけ聞いてやりましょうや」
ヘーゼルダインに口を挟んで来たのが……
神官? 酒瓶片手の神官。
『陽光』ショーン・ハドルストン。
彼に押される形で、俺は受付へ。
「ロイ君、こいつ聞いてやってー。
どうせ下戸だし暇だろ?」
「別に暇じゃないんだが」
呼ばれて出て来た眼光鋭い青年。
狩人、『雷鳴』ロイ・コーンウェル。
暇はともかく下戸は本当なのか。
手持ちのカップからはコーヒーの匂い。
要件は、と聞かれ。依頼を出したい。
行方不明の子供を探している。3人だ。
と、背後がざわつく。
コーンウェルの表情が硬くなる。
要は……さっきの探知で見たんだが。
連中は子供を3人連れている。
カマ掛けだったが、やはり誘拐だろう。
見れば挙動不審なのが何人か居るな。
「まーた、お前らか?
罠避けとかつって、つまんねー事して」
「あ、ち、違うんですよ、旦那ぁ」
「いいから連れて来い!
カチ割るぞコラァ!」
ヘーゼルダインが追い立てて。
2人ほど走って行く。
また、なのか?
うんざり顔のコーンウェルが説明。
「うちら、クランって分かる?
幾つものパーティが集まってる。
見つけた宝箱が均等割り。
そこは別に良いけどな。
開けるのは各パーティ自己責任だ。
罠を外せない奴らが浮浪者とか攫って来る。
罠避け代わりに開けさせて。
矢とか爆弾とか食らって死ぬ。気分悪い」
「それぐらい許さないとー。
下がついて来ないだろ?
浮浪者だって俺達の役に立てれば本望さ」
割り込んで来たのは竜殺の……魅了野郎。
クランのボス、グレン・ホールズワース。
どうやら酒に酔っている。顔が赤い。
「グレン、俺は……
気に入らない、と思ってる」
「だからって開けてやらないだろ?
鍵開けの腕だって安売りしたくない。
そう言ったのはロイだぜ?」
「それは、そうだけど……」
言い負かされるコーンウェル。
ホールズワースは俺に向き直って。
今度は俺がこいつを言い負かさんと。
連れて来られる子供3人。
怯えた顔をして、歩み出そうとする。
が、ホールズワースがこれを阻む。
「こいつら自分でダンジョン行きたいって。
志願者さ。自分でついて来たんだ。
もう見つけたんだから良いよなあ?」
言ったの? 首を横に振る子供達。
怖がってる様にしか見えないが。
「ちょっと怖気付いただけさ。
新兵にありがちだろう?
最初だけ、最初だけ」
そういう事は、あるかも知れん。
知れんけれどもだ。
誘拐かどうかは問題じゃない。
俺の目的は、その子らを連れ戻す事だ。
子供でも新兵だと言うのなら。
こちらから見ては脱走兵相当だ。
連れ帰って教育が必要だ。
是が非でも連れ戻す。
お説教しなきゃならん。
しかし参加すると言った、と。
脱退するなら違約金だと?
幾らだよ。1人100万とか言いやがる。
払いますよ、300万。金貨30枚。
ホールズワースは受け取った金を手下に。
これで罠避けの加護貰って来いとか言う。
人心掌握術が偏ってるな……
俺はベソ掻いた子供達を連れて外へ。
お説教。知らない大人について行くなよ?
うんうんと頷く子供達。
自分で帰れる?
送って行った方が良いかな。
給仕達や支部長も気になるが……
俺1人で助けるのは無理だ。
見た感じ、殺される事は無さそうだが。
斜向かいの料理屋へ。
公主達の姿が見える。
あれは突入準備中だろう。
状況ぐらい説明して行こう。
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