黒鷲の旅団
28日目(17)矛先をすり抜けて

「給仕が4人。それに支部長ね。
 情報提供ありがと」

 料理屋に待機中のイーディス公主。
 騎士団と近衛隊からベテラン勢。
 あとは神人がアシュリィとランスロット。
 彼女らはやはり、突入準備中だった。

 神人の領主について。
 領内の犯罪について通知を得るらしい。
 脳内アラームと簡易の状況ログ表示。
 更に憲兵が勝てそうにないと救難信号とか。
 報告が無くとも事態を察知出来る様だ。

 俺が通報云々と言われる事も無いか?

「ああー、言っとく言っとく。
 自分で来たって。
 連中、領主システムなんて知らないでしょ」

 それは非常に助かります。

 俺が気にしているのは一点。
 連中の恨みを買わないか、だ。
 俺に向いた矛先は、どうとでもするが。
 子供達が標的にされたらと思うと怖い。
 公主は察してくれる。ありがたい。

「しかし、どうするんだ。
 人質だろうなー?」

「もう少し人数が欲しいかなー?」

 アシュリィとランスロット。
 協力して欲しそうにこっちを見る。
 この人達はあまり察してない風ですか。
 連中の恨みは買いたくないんだがな?

 まあ、せめてアイディアぐらいは。
 人質の奪還。俺だったらどうするか。
 転移魔法を付与した物でも投げつける。
 大怪我しない物が良いと思うが。
 小石とか……パンとか?
 誰か投擲のスキルは持っているか。

「あいつに習ってある。スケベで赤毛の」
「ああー、バリーさんバリーさん」

 アシュリィからイーディス公主。
 その説明で通じるバリーも何だかな。

 適当な小袋に小麦を詰めた物を渡す。
 これ投げて刺さる様な事は無い。多分。
 転移魔法を付与。
 行き先は城か教会で良いかな。
 人質救助にはこれで何とかなるだろう。

 まだ人手が〜と渋るアシュリィだが。
 ランスロットさんが神殿騎士を呼んだら。
 それはもう呼んでいる?
 だいじょぶだいじょぶと公主。
 それじゃあ、後はお任せしますよ?

「おっけーい。
 そだそだ。公子さんの手紙は」

 手筈通り、魔法でコピーを作った。
 一通はブラショヴ冒険者ギルド。
 公子からの配達依頼とした。
 公的な記録に残した。
 明日の朝にでも届くと思われる。

 コピーしたもう一通は、ここに。
 ほいほいっと受け取るイーディス。
 後で晩餐会ででも公表するのだろう。

 さて、俺はもう引き上げよう。
 回収した子供も送らねばならんし。
 あと、家具屋かそれに近い物を探したい。
 この文明レベルだと大工か職人か。

 先に子供達を家に帰そう。3人。
 北区の道具屋の子ゾルターン。
 門衛、兵士の子サムエル。
 あと孤児か。難民のロザーリエ。

 幸い、ゾルターンの家。
 近所が家具職人の店と。
 道すがらで用事が済むと良いんだが。

「き、金貨だって? そんな……
 ああ、いや、助けて頂いて何だが」

 ゾルターンの父、イゴール氏。
 助けるのに金貨を払った。
 これを知るなりアタフタ。
 俺は言わなくても良かったんだがな。
 ゾルターンが得意げに教えてしまった。

 自己満足だから。
 返済は強制しませんので、と告げて。
 ようやくイゴール氏の表情に喜びの色。
 北区の道具屋、経営が苦しいのかな。
 子供を見捨てたいでもない様だが。
 無事な子供を前に、欲が出たか何か。

 謝礼代わりに情報を貰おう。
 食料や人の流れ。
 何か気付いた事があれば。

 イゴール氏の情報。
 首都から北も食糧難の様相だと。
 麦角? ではないのか。
 今の所、北には行っていない様だ。

 ただ、魔物退治の手が足りない。
 開拓地が幾つか潰されているらしい。
 そっちもテコ入れが必要だろうかな。

 ちなみに隣の家具職人マクシムさん。
 ベッド置いてない。
 発注されてから作る系か。
 庶民宅だし場所取るから仕方なし。

 折角なので幾つか発注して。
 今日必要な分は、自宅から買うか。
 神人の自宅拡張ウインドウ。
 家具を買い足す機能から手配しよう。

 ふと、うちの子達から通信が来て。
 俺の帰りが遅い。
 不満の声が上がっている様子。
 ごめんごめん。もうちょっと掛かるよ。

 サムエル宅へ……保護者は不在か。
 両親ともに仕事。帰りが遅いと言う。
 大丈夫、と彼自身は言うのだが。
 誘拐があった矢先だ。
 一人で家に残すのもなあ。

 ロザーリエは帰りたくない様子。
 両親は他界。
 叔父夫婦の世話になっていて。
 しかし、邪魔にされている様だ。
 穀潰しと言われ、何か稼がなきゃと。
 そこを大隊の奴らに誘われて……

 うん……サムエルとロザーリエ。
 2人は夕食に招こう。

 サムエルは後でまた送って来る。
 ロザーリエは無理に帰らなくても良い。
 家の方には俺が話しを付けて来る。



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