黒鷲の旅団
28日目(18)焦らず少しずつ

「あっ、仲間!? 新人ですか?」

 自宅に帰った矢先。
 駆け寄って来るフリスティナ。
 どうしたかと思えば、メンバー不足?

 今日は仮チームを組んでいた仲間達3人。
 ドルセア、デルク、イラリオ。
 揃って非戦闘職に転向希望だと言う。

 覚悟の差、向き不向きもあろう。
 抜けてしまうのも仕方ない事なのだが。
 困ったのは残されたフリスティナだ。
 チーム解散、明日からどうしよう。
 不安に思ってしまったらしい。

 一方で、迎えられたロザーリエ。
 目をキラキラ……仲間になりたそう。
 身内に邪魔にされていた子だ。
 歓迎ムードにワクワクか。
 しかし、よく分かってない様でもあり。

 まあ、その……明日ね。明日。
 ロザーリエはまず一回チャレンジだ。
 向いてないとかがあれば、また考えよう。

 フリスティナも、心配しなくて良い。
 もう少し仲間を入れるつもりで考える。
 あまり圧を掛けない様にな。

 そう言えば、うちの子供達は。
 敷地内に反応が少ない。

 厨房にマリナが居る様で、通信。
 ユッタ達は。村か。トゥルチャの方。
 夕食までまた訓練したかったらしい。

 様子も見たい。
 直接声を掛けに行こう。
 フリスティナとサムエル。
 ロザーリエも連れて。

「待って待ってー!」

 うおっ! ダッシュ!
 走って来たのはイゾルダ。
 右足欠損少女。

 前のめり、転びそうになる。
 抱き留める。
 もう義足は馴染んだのか?
 ちょっと痛いけど、と言う。
 無理してない?

 どうやら元々活発らしい。
 動き回りたい様子。
 じゃあ、イゾルダも連れて。
 ポータルからトゥルチャ開拓地帯へ出る。

 子供達は……と、稽古中か。
 木刀を持って素振り。あるいは打ち合い。
 お勉強の後だ。
 頭の次は身体を動かしたいかな。
 あるいはスキル習得を急いでいるか。

「たあ! たあ!」

 木刀を力いっぱい振るのはユッタ。
 気合が少し空回りしているだろうか。
 受け手をするフェドラが少し困った顔。
 レーネやイェンナも気にしてくれて。
 横からアドバイスしている、が。

「ユッタさん、そんな全力でなくて」
「グッよりもビュッな感じ?」
「えー、分かんないよう」

 ユッタ、難しい顔。
 剣はまだまだ初心者だからなあ。

 声を掛ける。振り返るユッタ。
 鍛冶の時を思い出してみて。
 そんな全力、目一杯じゃないだろう。
 もう少し柔らかく構えてみて。

「柔らかく……んー?
 柔らか……柔ら〜か〜……??」

 ふにゃりふにゃり。
 横に揺れて見せるユッタ。
 ちょっと力を抜き過ぎだが。
 力いっぱい握っているよりは良いか。

 俺と同じに振ってみて。素振り数回。
 振り切らないで、ぐっと止める。
 ぶん、ぶん。さっきよりは良い。

 当ててみよう。
 半ばぐらいを当てよう。
 持っているのは槌と思って。

 俺は木刀を横に構える。
 ユッタの木刀を受ける。

 ぱかん。
 反動で木刀を取り落とすユッタ。
 でも、型は一番良かった。

 いててと手を振るユッタ。痺れた?
 レーネが様子を見に駆け寄って。
 しかしへたり込んでしまう。どうした。

「ユッタさん、お手て小っちゃああい……」

 何を萌え萌えしているんだ。
 ぷう、と膨れるユッタ。
 可愛い扱いは不満。
 そんな所も可愛いんだけれども。

 ヒール、ヒール。治癒魔法。
 もうちょっと続けてみよう。

 今度は落とさない。よし。
 弾かれるのも意識して。
 いきなり倒そうと思わない。
 切断より、打って止める。
 相手の出足を阻む。

 俺からも少し打ち込んで。
 受け流すのは上手いな。

 フェイントで脇を狙ってみる。
 ちゃんとガードして来る。
 ハーフソードの構えは黒獅子隊仕込み。
 銃士として鍛えた動体視力もある。

 足りないのは……腕力だけか。
 腕力が足りないと分かっている。
 だから攻めになると焦ってしまう、かな。
 段々鍛えるしかないとも思うのだが。

「あーユッタちゃんばっかり―」
「私も見てー」「相手してー」

 段々他の子も集まって来てしまう。
 分かった分かった。順番にな。
 リリヤの尻尾4刀流は少しズルくないか。

 程々に稽古して、一旦帰ろう。
 あまり待たせてもマリナ達に悪い。
 晩飯食ってからまた少し続けても良い。

 食ったら眠くなっちゃう? そうだなあ。
 もうちょっと。もうちょっとだけなー。



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