黒鷲の旅団
28日目(21)ラッキー感より頭痛

「おおおー、イイトコにイイトコにっ!
 そこの素敵な子爵様。
 お力添え頂けないかしらかしらっ?」

 手揉み手揉みで摺り寄って来る公主。
 まあ……手伝うけどさあ……

 場所は街の中央、やや西寄りの区画。
 火の手が見えて駆け付けてみて。
 騎士団や近衛隊、イーディス公主の姿。
 何ですか。火災ですか。
 1軒2軒じゃない。広く延焼している。

 消火を手伝う。降雨、恵雨魔法。
 まだまだ足りないか。
 招雲、招嵐、強化、濃縮、降雨、降雨。
 発動、豪雨魔法ダウンプール……ぶふっ!?

 豪雨というか、もはや滝だった。
 圧し潰さんばかりの水量が降り注ぐ。
 物理的な攻撃魔法一歩手前といった感。
 俺は手近な軒下に避難する。

 消火状況は……微妙だな。
 探知魔法。近況はどうか。
 デンジャーゾーン表示はそのまま。

 新たに燃え移るのは防げるだろう。
 が、その一方で。
 屋内が燃えているのはどうにもならん。

「ぎゃー、やばいやばいやばい」

 頭を抱えて公主も逃げて来る。
 来るんだが、お前さん。前。前。

「ん? 前? 透け…………
 ちょっ、ちょおおおっ!」

 ぶっ!

 公主のビンタが飛んで来て。
 直撃した俺は気を失った。

 雨量が凄過ぎたせいだ。
 公主のビスチェドレス。
 前が全部落ちてしまって。
 迂闊に指摘したのがいけなかった。

 レベル800手前のビンタ。
 意識も飛ぶわ。

「あ、ああー、起きた起きた?
 ごめんちゃーい。えへ、えへへへ」

 気が付いた時には、公主。
 軒下の離れた所にしゃがんでいた。
 距離があるのは照れか何かだろうが。
 俺のレベルが1つ下がっている。
 気絶というより死んで生き返ったなコレ。
 まだちょっと頭と首が痛い気がする。

「ホントごめんて。
 も、もっかい見る? なんつって」

 見ません。何その雑な帳尻合わせ。
 手加減しくじったのはお互い様だ。
 しかし、今日は何だ。運気がおかしい。
 性愛の女神でも悪戯しているのだろうか。

『あっ、繋がった』
『雨だよ、雨っ!』
『おっちゃん、だいじょぶ?』

 通信がユッタ、マルカ、イェンナから。
 雨? そっちも雨か。
 自宅空間は俺の現在地の影響が出るのかな。

 濡れてない? ずぶ濡れか。
 風呂入って温まって。
 今日はもう寝ちゃいな。
 稽古の続きは明日、早起きしてやろう。

『えー明日ぁー?』
『じゃあ早く寝ようぜ!』
『風呂が先だよー』

 通信先、ドタバタ走って行く様子の子供達。
 ユッタの不満げな声がぷくぷくしている感。
 また何か埋め合わせを考えてやらないと。

「ふふ。パパが居るわ、パパ」

 聞こえていたのか。
 公主がニヤニヤしている。

 それはそうと、消火は。
 順調に進んでいるか。
 騎士団、宮廷魔道士やらも出動中。
 誰がヒーローやる必要も無かろう。

 ただ、雨は今暫く必要か。

 寝る前に子供達の顔ぐらい見たいんだが。
 穏天魔法で雨を収めるとまた燃え出すか。
 もう少し雨宿りして様子を見よう。

 雨宿りをしながら、公主と少し話す。

 例の大隊について。
 コテンパンに伸したが全員捕縛は成らず。
 現在、指名手配中。

 ちなみに、この火災は?
 犯人は不明だという。
 逃げた連中がやったかどうか。
 そこまでは分からん様子。

 こちらは北区の道具屋からの話。
 首都から北方面の開発が滞っていないか。
 分かっているけど手が回らない、と公主。

 魔物の掃除ぐらいは手を貸せると思うが。
 開発、人員手配は頑張って貰うより無い。

 あと、難民の暮らしか。
 仕事が足りてない。
 開発地帯を手伝って貰うのが分かり易いか。
 落ち着いたらの転職支援もするとして。
 まずこれやって、みたいな。
 それしかないかーと、公主は肩を竦めた。

 ちなみにラングヤールの件は。
 公的発表はまだか。
 ただ、大ガーランドには伝わっていると。
 手紙の写しを相手方の配下に掴ませたか。

 まあ、大体そんな所かな。
 進捗があればまた、という事で。
 消火も済んだ様なので穏天魔法。
 豪雨を止め、公主と別れて帰途に就く。

 日の落ちた道。
 ポータルはすぐそこ。
 探知魔法に感無し、だが……

 気配。

 俺は身を屈めて反転。
 反転する頭上を剣が掠めた。
 距離を取りつつ拳銃を突き付ける。

 相手は……グレン・ホールズワース。



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