黒鷲の旅団
28日目(22)泥沼の淵を歩くが如く

「よく気付いたな。
 Sレアの隠密マントなんだが。
 看破のログは無いな?」

 問うのはグレン・ホールズワース。
 銃を向けられて怯む様子は無く。
 飛び道具に対策アリだな。
 戦い方を考えなきゃならんとか思いつつ。

 問いの答えだが、雨だよ。
 そいつは大したマントなんだろうが。
 靴から撥ねた泥まで隠蔽しないだろう。

「なるほど、なっ!」

 言い切るか切らないかという所。
 鋭い踏み込みから一撃見舞って来た。
 話し合う気も皆無か。殺す気満々の首狙い。
 俺は義手と短剣の交差で受け止める。

 襲撃の動機。
 ギルドを追われた恨み、かな。

 公主と話していたのを見たのだろう。
 親しげだと思ったか何か。
 俺が公主を手引きしたと思った。
 まあ、気に食わない。

 斬られてやれば溜飲が下がるかどうか。
 手ごたえが無くても気が済まんだろう。
 次の獲物をとどこに矛先が向くか。
 理性やモラルに期待出来るかどうか。

 少し抵抗して様子を見る。
 魔法付与、二丁拳銃。
 撃ちながら距離を取る。

 ホールズワース、涼しげな顔。
 が、時折でも歪む。
 銃弾は障壁で弾かれた。魔法耐性あり。
 しかし効いている付与魔法もある?

「うぐ。こ、この!」

 大振りの一撃で来る。
 バックステップ回避。
 次いで飛んで来るのが燕返し。
 俺は反転と武器交換。
 両手剣でバックガード。

 更に下がりながら解析……鑑定。
 鑑定するけど忙しい。
 落ち着いてデータを読む暇も無い。

 追撃が来る。
 認識したスキルが乱れ4連撃。
 右、右、左、右。
 対応はパリィ、パリィ。
 バックステップ、パリィ。

 次、疾風5連撃?
 ああもう、軌道はどこだ。
 パリィ、切り落とし、バックガード。
 逆風の太刀、浪返しで迎撃。

 まともに受けられない。
 一撃一撃が重い。
 レベル差がネックだ。

 向こうは片手で軽く振っているだけ。
 受ける俺は両手持ちで。
 しかしバフ付きでもキツイ。
 上手いこと受け流さないと。

 土魔法。クレイウォール。
 粘土の壁を立てる。破られる。
 破られている間に距離を取る。
 拳銃。強酸魔法付与……連射。

「ぐうっ!」

 ホールズワース、防御姿勢。
 続いて盾。
 流石に盾ぐらい持ってるか。

 魔法障壁相手だ。
 付与魔法しか徹らんが。
 付与魔法を切り替える。
 溶断、溶解、爆薬、爆縮魔法。

 連射。連射。立て続けに36連射。
 最後数発が盾を貫通した。

 貫通した所で手を止める。
 こちらも弾が続かない。

「何発撃って……どこに入ってる。
 そいつもレア銃なのか?」

 普通の銃に転移魔法の応用だよ。
 シリンダーを途中で入れ替えてる。
 先に用意してあった数が限度だがな。
 あと、指が結構シンドイ。

 手より口が動いた所で、聞こう。
 休戦する気は無いか。
 何も仲良しこよしってんじゃない。
 不干渉。何もされなければ何もしない。

「不干渉?
 そっちが先に邪魔したんだろう」

 違う。
 この街を荒らしたのはそちらが先だ。

 俺は一応でも貴族階級だ。
 公主の手下としての仕事がある。
 治安を維持しなきゃならん。
 何故か。善人ぶった話ばかりじゃない。
 治安値が下がると税収が落ちる。

 間接的にでも、お前さんがした事は。
 こちらの財産を侵害している。

「金か」

 金と、名誉もだ。
 爵位の昇進みたいなのを狙っている。
 貢献度や人気取りも必要だ。

 豪遊はともかく犯罪は控えてくれ。
 改めてくれるなら公主は言い包める。
 保釈金や何かを俺が出したって良い。

「金の為に金を出そうって?
 信じられないな」

 確かに痛い出費だが。先行投資だ。
 お互い殺しても死なない身だろう。
 泥沼の対立は望まない。

 俺には俺の攻略がある。
 お前がダンジョンに挑むのと同じだ。
 易々と譲るワケには行かないんだよ。

 と、どうやら気付いたか、公主達。
 探知反応がこちらに向かっている。
 どうする。あまり猶予は無い。
 アレと俺の2人同時になる。
 相手取るのはメンドクサイと思うが。

「きょ……協議する!」

 そうしてくれ。
 この場は追わない。
 朝までは待たせてみる。

 走り去るホールズワースを見送って。
 駆けつける公主達に待ったを掛けて。
 どうにか平穏は保たれた、だろうか。
 いや、協議の結果次第か。
 まだまだ気苦労は絶えないな……



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