黒鷲の旅団
28日目(23)平穏であれ、限りあれども
「うう――――んん―――――……
まあぁ〜ねえええ―――?
言い包められてやっても良いけどサ〜」
戻って来たイーディス公主に説明した折。
公主、首を捻る。難しい顔をして揺れる。
身体を曲げて頭を真横に向けてしまう。
雪風の旅団との交渉の件。
良いけど、不満っちゃあ不満ですか。
ギルド職員、市民の被害。
特に婦女子への魅了だ何だと。
同じ女子として気に食わない。
そこは当然だろう。
許せとは言わない。
心はそれぞれ自分の物だ。
気に食わない物は気に食わない。
それは分かる。
ただ、感情の問題はそれとして。
物的な問題がある。
奴らとの関係を整理しなきゃならん。
このままでは泥沼の抗争状態だ。
いつまでも続けるモンじゃない。
気に入らん奴に時間と労力を割かれる。
割き続けても嫌だろう。
ましてや、為政者は弁えないと。
気軽にケンカしては巻き添えが出る。
国民感情に乗っかる奴も居るけどな。
人気取りの為に衝突だとか論外だ。
戦争にでもなれば、死ぬのは国民だ。
ナメられないばかりが威勢じゃない。
ナメられてばかりでも困るけれども。
ぷう、と膨れる公主だが。
それ以上は何も言わない。
聡い娘だ。頭では分かっているんだろう。
交渉の草案。
連中への譲歩は指名手配の解除。
あと、先に捕縛された仲間の開放。
こちら市民や公主側の要求として。
イーディス公主の支配地域内において。
犯罪行為は全面的に禁止。
再犯には恩情を掛けない。
厳重に処罰する。
既に捕縛した連中への保釈金。
これは司法通りに提示する。
提示した上で、俺が公主に払う。
分かり易く貸しにするんだ。
後でチョッカイ出し難かろう。
公主に承諾して貰って。
大雑把に纏めて。通信魔法。
派生のマジックメール。文書送信タイプ。
朝までに返答を、と付け加えて。
しかし返事がすぐに来た。
『そちらからご連絡頂けるとは』
確か神官の。ショーン・ハドルストン。
通信魔法も使えるとは多彩な事で。
「あっ、ハゲのヤツ」
公主、ド直球。ハゲて。
あの頭は剃ってるだけじゃないか?
『はいはーい。
ハゲトルストンでーす』
自分で言いやがる。
こいつはこいつで。
えー、気が削がれた。何だっけ。要件。
交渉については同意して頂けるのか。
ハゲル……ハドルストン曰く。
クラン内部の協議は手早く済んだ。
不満の声もあったが、和睦路線で決着。
虜囚メンバーの開放などはプラスだと。
ただ、末端は御し切れないかも、とも。
「そんなこと言って。
止める気が無いだけでしょ」
「まーまーまー。
うちも大所帯なものでして」
ぶーぶー言う公主を宥めつつ。
妥協点は決めておこう。
庇い立てしないのであれば、かな。
クラン丸ごと目のカタキにしない。
その為の線引きとして。
もし庇い立てするならその時は、と。
「うん、まあ……そんなトコか」
『妥当な線でしょう』
ご両人に同意頂いて……
というかハドルストンさんよ。
交渉役、リーダーでなくて良いのか。
一任されてる? なら良いんだが。
ホールズワースの人のご加減は?
『あの意固地が珍しく反省してるヨ。
不満は不満でタラタラなんだけどね。
邪魔したのは悪かったけどさーなんて」
邪魔。治安維持の。ひいては……
『攻略』と称したのが少し響いたのかな。
俺には俺の攻略、と。
多分、ホールズワース。
純粋に『プレイヤー』なのだろう。
唯人は都合の良い道具と見て。
プレイヤー同士なら多少は譲歩する。
それならそれで付き合い方もあるか。
捕虜の引き渡しは明日の朝。
俺も保釈金を持って行く。
ハドルストンは了承して通信を切った。
これで少なくとも、連中の矛先は。
うちの子達に向かない……
向き難くなる、ハズだ。
素行の悪い末端は警戒しなきゃならんが。
その辺は普段と変わらんしな……
「パパ徹底してるわねー。
あたしの領地では犯罪しなくなるとして?
他んトコ行ったらまたやるワケでしょ。
全部のNPCを連中から守るとしたら?」
そりゃあ、もう、アレだ。
うちの公主様に世界征服して貰うしか。
「ぶはっ! 言うわね!
まあ、遠い目標の1つにしといてやるわ」
気長に待ってるよ〜。
と、公主に手を振って。
俺は家路に就いた。
今は、こんな所だろう。
いきなり世界中は無理だとしても。
手の届く所にだけでも、どうか平穏を。
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