黒鷲の旅団
28日目(24)それぞれのやり方
「これはダメそうな奴かね」
ちょっとダメかもしれんなあ……
現実側。企業傭兵サイド。
俺と、傍らに同僚のグラディス。
その前に広がるのは血だらけの部屋だ。
戦闘のあった部屋。事後処理中の現場。
電脳の各センサーに生体反応は無い。
同盟関係にある企業が敵を追い詰めて。
その手の中に手がかりがあるかも、と。
例のゲーム運営の件だ。
そう期待して出向いて来たが、この様か。
部屋の窓ガラスは粉々。
外から中へと飛び散っている。
窓枠すらブチ抜かれている。
戦闘ヘリで機銃掃射でもしたんだろう。
出来るだけ生け捕りに。
そういう話も出ていたハズだが。
先の悪魔騒動。市民にも被害。
誰ぞ身内を殺されてブチ切れたかな。
そんな血だらけの惨状で。
それでも何か残っていないか。
死体は大体がメチャクチャ。
しかし、頭が残っている奴が少し。
メットの下は顔も多少残っている。
メット。兵隊用の防護スーツばかり。
運営チームやらの姿は無い、かな。
居ても判別は難しい所だが。
携帯端末を中継に。
死体の電脳に接続……ダメか。
物理的に焼けていた。
記憶装置として死んでいる。
死ぬと情報を取り出せなくなる細工。
それ自体は、そう珍しい話でもない。
ただ、得られる情報が無いのは痛いな。
「血の方はどうかね。
DNAから、どこの誰さんか。
素性を辿って何か調べられんかー」
グラディスの提案。
生存者を締めた方が早い気もするが。
他に得る物も無いしな。
これはこれで持って行こうか。
携帯端末から生体情報スキャン。
DNAのサンプルを採取しに掛かる。
ここ2日の出向はイマイチだ。
得た物は手掛かりなるか分からんDNA。
あと、使いドコロの分からん動画ぐらい。
昨日の、端末から魔法を出した件。
案の定だが撮られた動画が拡散されて。
映画開発部門の撮影用だと称して火消し。
どんな映画だ。異世界端末とか?
纏まらなくて立ち消えにするだろうけど。
採取を終えて屋外へ出る。
昨日の悪魔騒ぎの爪痕が残っている街。
崩れた建物が幾つも再建を待っている。
住民にしてみれば、迷惑な話だ。
誰かが戦えば巻き添えも出る。
戦争にせよ、企業間抗争にせよ。
誰が正しかろうが関係無い事だ。
敵が居なけりゃ弾も飛ぶまい。
それでも友軍、ラドクリフ社はマシ。
後始末、市民へのケアが手厚い。
戦わずに済めばもっと良いんだろうが。
時勢がそれを許さない、か。
さて、本社に帰ろうかという所。
ヴィルとフィロから立て続けに通信が来た。
帰りにスイーツを買って来いという依頼。
しかし、指定した店がそれぞれ違うだと。
まあいい。
甘やかすのも気晴らしの内だ。
重二輪に跨り、グラディスを後ろに乗せて。
荒れた街を走り出す。
「ふふん。彼女もよく働くね」
グラディスが見上げるのは街頭モニター。
映っているのはカシューさん。
音楽系の番組かな。
ライブ映像。本人かコピーか。
オンラインは本人と限らん。
コピー体にも仕事をさせているとかで。
電脳コピー。必要なら義体まで操作する。
リアルタイムで2箇所に出演したとか。
しかし、よく働くというのは本当だろう。
単価の高い仕事を幾つもこなして。
時には悪い金持ちを誑かして。
連中の金を巻き上げて。
稼いだ金の半分を福祉事業に寄付して。
それでも、そこらのセレブより贅沢して。
拘りというか、上流階級への挑戦か。
彼女なりに何かと戦っているらしい。
「こう? こうかな? ふむん?」
何かぶつぶつ言っていると思ったら。
サイドミラーに移ったグラディスの顔。
カシューさんの顔真似をしている?
「いや、私も少し世間に媚びてみようかと」
みんな同じ方向を目指さなくて良いだろ。
違和感が酷い。
それより、前だ。前。
進路上に非常線が敷かれている。
端末情報。うちとは関係無さそうだが。
また企業同士が衝突している様だ。
どうするか。重二輪を止めて思索。
いっそ迂回しても良い。
が、ケーキ屋が遠くなるのがな。
「ふふん、よし来た。
お姉さんが少しどけて来てやろう」
刀を片手にヒョイと降りる。
グラディス。あんまり無茶すんなよ?
「ちょいと誘導してやるだけさ」
ちょっとで済めば良いがなあ……
やり過ぎて全滅とか。
「ふっは。敵の方の心配だったかね」
けらと笑うグラディス。
俺は手土産に手榴弾1つ投げ渡して。
戦術データリンク。
非常線の穴を探して突破の算段をする。
まあ、抜けるだけなら楽な方だ。
それぞれのやり方でそれぞれの日常を。
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