黒鷲の旅団
29日目(1)朝練のびのび
「お、おりゃー!」
木刀を手に突っ込んで来るイェンナ。
動き自体は悪くないんだがな。
相手に身長で負けてる状態。
ここで上段斬りは上手くない。
早朝。朝食前。
約束通り、子供達の稽古に付き合う。
実戦形式だ。敵役は少し意地悪に動く。
イェンナの大振り。
俺はバックステップで回避。
次を振り上げる間に、ぽこす。
木刀でイェンナの頭を軽く打つ。
防御魔法付きだ。
対して痛くもない一方。
打たれる感覚自体はあった方が良い。
でないと危険を身体が覚えまい。
打たれてもデレデレ笑うイェンナ。
触れ合い自体が楽しいんだろうかな。
まあ、マジメな話。
イェンナが俺から一本取るとしたら。
イェンナの強みはスピードだ。
横に揺さぶる。
俺の上半より手元を狙う。
縦振りを誘って躱して突く、とか。
何か工夫が要るだろう。
「そっかー。へへへ。手元ね、手元」
「交代だよっ」
今度はユッタの番。気合は十分。
スキルレベルも少し上げて来た様子。
ユッタ、挙動は滑らかに。
斜め斬り上げから返し刃。
立ち止まらずに後退。
斬り払いして左右反転。
剣が身体に馴染んで来たかな。
しかし、まだ型でいっぱいいっぱいか。
距離を詰める。慌てるユッタ。
軽く足を掛ける。転ぶ……
ん、大丈夫か。
変な転び方をした。捻った?
診察スキル、捻挫。若干の炎症あり。
炎症か。治癒と……冷やせるかな。
治癒、節制凍結、解熱、活力。
派生は冷癒魔法コールドヒール。
ひんやり? 嬉しそうに笑う。
ごめんなー。敵役だから意地悪した。
忘れてた? えへへと笑う。
炎症が引いたら温めるのが良いらしい。
ご飯前にお風呂が良いかな。
課題は、距離。間合いの維持。
近付かれたら離れる工夫。
あと、受け身の練習も必要だろう。
転ぶにしても、上手に転ぶ。
変に踏ん張ると捻ってしまう。
ユッタを休ませて。
ひとまず手合わせは十分か?
素振りや型の練習に移る。
朝練。全員参加じゃない。
マリナ達、料理自慢は朝食の支度。
オシャレさんや子守役は身支度の途中。
剣以外を練習している子も居るか。
「当たった!」
「良いよー。すぐ次の準備」
イゾルダが小銃で的当てしている。
指導役を買って出たのはルーシャ。
同じく義肢持ちで、通じる所もあったか。
フリスティナ隊。新規、銃士隊第3小隊。
そこにイゾルダが参加希望だという。
まだ義足も不慣れだろうけど。動きたい。
フォローの配置は手厚くしておかないと。
「か、かああー!」
「こうだ、こう。細く長く。ぶぉー」
マルカがニノンに指導していて。
何かと思ったらそれ、ブレス攻撃か。
口から炎を吐いて見せるマルカの隣。
ニノンの口からも細かい電撃が出ている。
ニノンは小さい子だ。4歳。
使える武器も小型ボウガンくらい。
魔法もそう不得手ではないのだが。
他にも自衛手段があるのは良いな。
「「せーの、ぶおぉー!」」
ぼぼぼ、ばりばりばり。
火線と並んで雷が走る。
ちょっと上手くなって来た?
属性が違っても同じ竜人だ。
マルカ先生の指導が良さげ。
同じ竜人と言えば……おや。
「あ、父上殿」
「おはようございます!」
「「おはよー」」
水竜人のマリッタ。
と、レーネ、ヘルヴィ、ヘレヴィ。
4人で集まって、稽古の手は止めていて。
何か相談事か?
「あの、ペトリナさんの事で」
ペトちゃんの……仇討ちか。
冒険者のダニエルをどうしてやろうかと。
ペトリナと仲良しのレーネは勿論の事。
気高いマリッタも気に食わない。
悪党がのさばっているのが許せない。
勿論、迂闊に手を出せない。
それは分かっていて。
それでも何とかならんかなー、か。
現状、上がってる案は?
決闘と暗殺か……ううーん……
効果はともかく後始末がどうか。
ユッタやマルカも聞き耳を立てている。
他の子達も気になっている所だろう。
その辺については朝食時に話し合おうか。
さ、一旦風呂で汗を流しておいで。
まずはゴハンにしよう。
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