黒鷲の旅団
29日目(2)上から自制

「そっか、ビビる程じゃないんだ」
「もう負けないもんね」

 ティルア、エメリナ、そう。
 だから、あまり焦る必要は無い。

 朝食を取りつつ、子供達と作戦会議。
 悪党冒険者のダニエルをどうするか。

 まず前提として。
 もはやダニエルの戦闘力は脅威ではない。

 アンヌやジュス姉さんは言うまでも無く。
 レーネやフェドラ、ヘルヘレでも一捻り。

 訓練途上の子達は不安も残るとしても。
 阻害魔法を絡めれば、良い勝負にはなる。

 ダニエル自身のレベルは30台で停滞中。
 全く上がってないとも言わないが。
 真面目に鍛錬をするタイプでもない。

 あのダニエルをぶっ殺す……
 それ自体はもう、そう難しくは無い。
 徒党を組んで掛かれば退けるのは容易い。
 その点では何か焦る必要は無い。

「でも、放っとくのもアレじゃん」
「なー?」「なー」

 顔を見合わせて言うティルアとツェンタ。
 うんうんと頷くアイリス、テルーザ。

 勿論、良いとは思っていない。
 悪党をのさばらせている、という状況。
 気に食わないし、教育上よろしくない。

 しかし、実行するにしても。
 問題が幾つもある。
 例えば手段とか、タイミングだ。

 マリッタ案、仮にプランA。
 決闘に持ち込む、だが。

 奴が決闘を受けるか否か。
 それだけで言えば、受ける。
 粋がってメンツだのを重んじる奴だ。
 可能性は大いにある。

 ただ、あんな成りでも貴族の息子。
 立会人ぐらいは連れて来るだろう。
 殺しに掛かれば止めに入られる。
 事故死にしても罪に問われる。
 決闘から抹殺に持ち込むのは難しい。

 懲らしめたぐらいでは反省しない。
 多少やり込めても逆恨みする。
 また襲って来る。
 一時的なスッキリだけ。
 根本的解決にならん。

「罪に問われなきゃ良いんだよな?
 冒険者法っての、無かったっけ」

 マルカ、勉強して来たな。

 冒険者法。
 冒険者と外部の取り決めみたいな物。
 その中の一文だ。
 国は冒険者同士の諍いに介入しない。

 しかし、これも、冒険者に限定的。
 冒険者でしかない者の場合だ。

 冒険者かつ貴族であった場合、どうか。
 冒険者だが貴族だと言いだすだろう。
 絶対余計な介入して来るぞ。
 難癖だが、その難癖を躱さなきゃならん。

 ならば、プランB。ヘルヴィ案。暗殺。
 暗殺……して、足が付いてもなあ。

 街中で実行すれば確実に発覚する。
 犯罪は全て統治者にの耳に入るらしい。
 ここらへんだとイーディス公主。
 公主は黙っててくれるかも知れんけど。

 世間的に、今ダニエルと揉めるとしたら。
 俺達か公主、ラングヤール女伯爵とか。
 そこでダニエル殺害を隠蔽する。
 犯人を明かせない。
 ならば疑いが公主の方にも向く。
 これ幸いと向くだろう。
 大貴族らが結託して内乱を起しかねない。

 では、郊外ならどうか。
 死体を魔物にでも食わせてしまえば。

 しかし、奴が魔物退治に向かったとして。
 そこへ俺達はどう近付いたものか。
 誰が遠見で見ているかも分からん。
 証言1つ上がれば終わりだ。
 同じ方に向かった、とか。

 罪に問われ……投獄されるか。
 はたまた逃亡生活か。
 今までの様な暮らしは難しくなってしまう。

「でもペトリナさんが。
 自分、捕まっても」

 マリッタ、落ち着いて。

 あのクソ野郎を取り除きたい、と同時。
 何か代償を支払ってやるのも癪な話だ。
 何をくれてやるつもりも無い。
 誰を欠けさせるつもりも。
 誰が捕まる事になっても困る。

 懲らしめて懲らしまる相手じゃない。
 やるなら抹殺一択だが、それも難しい。
 だから皆、先走って決闘とかするなよ?

「うーん、分かります」
「そっかー」「難しいな」

 一応は理解してくれる様子の子供達……
 マリッタはまだ難しい顔をしているか。

 まあ、そもそもだ。
 力で捻じ伏せるのは正しいのか。

 強い方が正義、をやってしまうと。
 より強い奴が出て来た時に困る。
 勝てないなら従わざるを得ない。
 力こその正義は弱者を守ってくれない。
 正義は正しい方法で行うのが望ましい。

 殺人は、良くは無い手段で。
 それしか無い時の、最後の手段だ。
 殺さなければ殺されるぐらいの。

 殺し合いにでもなったら殺すだろう。
 そうしなければ生きられないのなら。
 だが、今、その状態にない。

 強くても偉くても、悪い事は悪い。
 避けられるのなら避けたい。

 掛かって来ない内は生かしておいてやる。
 こっちが上だ、ぐらいに思っておこう。
 俺も、隙あらばとは思っているけどな。

 マリッタが頷いて。
 うん、じゃあ、支度に掛かろうか。
 今日も奴らとの差を広げに行こう。



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