黒鷲の旅団
29日目(3)エンカウントは未遂

「その条件だと難しいな。今は難しい」

 やっぱり、今は……ですか。

 首都。道具屋。ドリスさんの店の裏手。
 暗殺教団のイメルさんと話した。

 ダニエル暗殺を依頼した場合。
 暗殺、それ自体は叶うだろう。
 ただし俺達に疑いが向かない様に。
 そうなると、時勢が。
 時期が悪いと言わざるを得ない。

 薄々分かっていて、相談してしまう。
 子供達にもっともらしい事を言いつつだ。
 俺にもまだ未練があるなあ。

 ありがとう。引き続き監視を頼みます。
 経費と雇用費の上乗せとして200万を渡す。

 表に戻って、子供達の様子は。
 イゾルダに旅の装いセット。
 ユッタがウィンチェスター2丁抱えて来て。
 レーネ達が軍馬を3頭連れて来た。
 第3銃士隊の体勢が整いつつある。

 と、いう所。
 イーディス公主から通信が来た。
 不干渉締結の為、保釈金を届けないと。

「おっちゃん、行ってら?」

 俺の様子で気付いたのはティルア。
 お前ちゃんはよく見てるな。
 軽く撫でつけるとニヒヒと笑う。

 各隊、隊長・副長に通信。
 買い物が済んだチームは魔女協会へ。
 移動は外敵を警戒し、小隊単位で動く事。
 アンヌと第1銃士隊は最後尾。
 安全確認を頼む。

 俺が戻ったら、今日こそ一緒に動くから。
 新人に乗馬の指導をしていておくれ。

「一緒だって!」「やったね!」
「いぇー!」「きゃはははは!」

 嬉しそうに駆け回る子供達を横目に。
 俺はポータルは使わず徒歩で城へ。
 街の様子を見ておきたい。

 エノーラの酒場の前に孤児の姿は無し。
 魔女協会に通信。誰か見てないか。
 シャンタルから返答。
 声は掛けたが逃げられたという。
 魔女だーとか言っていた?

 逃げるだけ余裕があるなら良いか。
 神聖教会の施しは受けているかも知れん。
 縋って来る様なら助けもするが。
 そうでないなら、まあ、様子を見よう。

 中央通りへ出る……という所。
 ダニエルを見かけた。
 冒険者ギルドから出て来た所か。
 路地裏へ入って行く。

 俺は目で追ってしまう。
 追い掛けて、殺れるか。
 探知。人目の無い所で。
 一太刀。首を一薙ぎに。
 透明魔法。消音……

 ダメだな。やはり止めておこう。
 青い顔して公主が走って来る。
 そんなイメージしか湧かない。
 ダニエル抹殺はゴールじゃないんだ。

 などと物思いに耽っていたら。
 小脇に軽い衝撃を受けた。

 見ると……子供。
 子供が2人走って行く。スリだな。
 脳内表示、所持金がガクンと減った。
 魔法カードを抜き取られたか。

 束縛魔法バインド。
 足が固まって走れなくなる。
 2人纏めて転ぶ。

「あっ、く、くそ!」
「わああ、ヤバイ!」

 何もしないからカードを返せ。
 あと、何か支援は必要か?

「施しなんて受けねえ!
 俺達は自分の力で生きてくんだ!」

「そ、そうだ!
 悪い大人には騙されないぞ!」

 その気概は結構だがな。
 他人から金を盗る。
 それをを自分の力とは言わん。
 その金を作ったのは稼いだ奴の力だ。
 それを盗んでしまったなら。
 お前達も悪い大人と同じになってしまう。

 頬を膨らませる大きい方。
 ションボリする小さい方。
 兄弟だろうか。名前は。
 グレアムとサミュエルだという。

 仕事をやる。前金で銀貨2枚ずつ。
 この辺一帯の調査を頼みたい。
 食えて無さそうな子供は何人居るか。
 大体で良いから数えておいて。
 魔女……だと怖いか?
 東区の酒場だ。
 女将のエノーラに伝言してくれ。

「に、逃げるとか思わねえのかよ」

 そう惜しくない額だ。
 持ち逃げされても仕方ないが。
 なるべくやってくれ。
 次また仕事が欲しかったら。

 現状、俺から見て。
 お前はただ『口の悪い子供』なのが。
『口は悪いが仕事はやる子供』になる。
 信用ってのは積み重ね、繰り返しだ。

 銀貨を握りしめて走って行く子供達。
 何食おうとか言っている。気が早いな。
 思い出したら仕事もして欲しい所が。

 さて、ダニエルを見失った。
 今の2人は足止めになったな。
 これも何かの巡り合わせか?

 ダニエルを探知……まあ、逆方向か。
 子供らとは鉢合わせしないと思われる。
 俺は大人しく王城に向かうとしよう。

 まだ、手を下せずに居る。
 何も許したワケではないのだが。



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